23話
上を見上げると、桜が咲き乱れていて風に揺られ落ちていく花弁一つ一つが美しかった。周りを見るとブルーシートを敷き花見を楽しんでいる家族連れや学生の集団、カップル、老夫婦などパッと見渡しただけでも全世代が見つけれた。
「すごい人の数だね」
「いろんな世代の人が来てるんだね」
「花見は小さい頃から歳をとっても楽しめるものだからいいよね」
「ここもこうやってみんなから愛されて続いてるんだろうね」
「行こうね来年も」
「そうだね」菜摘は少し遅れて頷いた。
花見スポットはとても長く足が疲れ出した頃、すごい人が集約している所があった。そこには遠目からでも確認できるくらい凄く立派に咲き誇っている枝垂れ桜があった。
近づいて見ると迫力は遠目から見たものの比ではないくらい美しかった。見ているとほんの一滴涙が垂れた。こんな立派な桜を見たのは初めてだった。
過去に一度来たことがあったらしいが記憶上の桜よりもそれは何倍も凄いものだった。
「菜摘はこんなに素敵な桜を何度か見たことあったの」
「すごいよね、初めて見た時小さい頃だったけど綺麗すぎて涙出たよ」
「今見てもうるっときちゃった」
僕はすでに涙が少し出てしまっていたけど「本当にね、僕も涙が出そうになったよ」と言い誤魔化した。なんとなくこの涙は自分だけのものにしていたかった。
いろんな桜の前で写真をひとしきり撮った後、僕達は映画の上映時間が迫っていたから公園を後にした。
「桜すごかったね」
「綺麗だったね。本当に」
「また行こうよ絶対」
「うん、行こうね」菜摘はまた少し遅れて頷いた。
映画館には上映時間がギリギリだったがなんとか間に合った。
入るなりまず驚いたのが椅子の並び方と上映スクリーンのところだ。スクリーンの前にスペースがあり、僕の知っている映画館とは違う形だった。
後で調べたところ、ここができた当初は芝居小屋から始まったと書いてあった。椅子に腰を下ろすと普通の椅子より深く、背もたれがあるのに後ろに倒れそうな感覚になって少し怖かった。菜摘も椅子の深さに驚いていてなんだか可愛かった。
映画が始まって気づいたが、僕が菜摘に手を出したのが、始まってまもないシーンだったのをこの時知った。あまりにも早く手を出してたんだなと恥ずかしくなったが、映画が終盤に差し掛かる頃には内容に見入り過ぎてそんなことは覚えていなかった。
「映画面白かったね」
「記念日のあの日はわかってなかったけど優弥くんあんな早くに手出してきてたんだね」
忘れていたのに結局菜摘の一言で思い出してしまい顔が赤くなる。
「忘れてください」
「ふふ、覚えとくね」
今日の菜摘はいつにも増して上機嫌だ。久々の遠出旅行で楽しんでいるのが丸わかりだ。菜摘の笑顔を見ながら僕も微笑む。今日も良い日だ。僕は上機嫌で新潟市のホテルを目指し車を走らせ出した。
新潟の道はとても長く上越から新潟市までは下道で三時間もかかった。途中の休憩を挟んでも疲労が残り体感時間の速度に驚いた。時刻は二十一時を廻っていて僕達はホテル近くの駐車場に車を止めチェックインを早々に済ませベッドに飛び込んだ。
「なんかすごい長く感じたね、帰り」
「田んぼ道が続いてて景色がずっと同じだったから長く感じたのかもね」
「高速使えばよかったああ、甘く見てた」
「運転お疲れ様。今日はこのままホテルでゆっくりする?」
「いや、せっかく来たし近くで飲もうよ」
「私は平気だけど優弥くん疲れてない?」
「少し休んだから平気だよ」
「それなら良いけど疲れてたらちゃんと言ってね」
「ありがとね、でも、せっかく来たんだから楽しみたいじゃん?」
「まあ、確かに。じゃあ出よっか」
僕たちは少し休みホテル近くにある飲屋街へ向かった。新潟市の飲屋街は若い集団が多くてとても賑やかな場所だった。僕達はキャッチしてくるお兄さんたちにおすすめの場所を聞いた。思いの外チャラそうな見た目とは裏腹に東京から旅行で来たことを話すと自分の店はお通しが高いからやめたほうがいいですよと教えてくれた。逆にお兄さん達がよく行くおすすめの店を紹介してくれたから面食らった。言われた通りお勧めしてくれた場所に行くと、料理もお酒も全品三百円のお店で味も凄く美味しくてなんだか少し得した気分になった。
「新潟の人も温かいね」
「最初話しかけてきたお兄さん達少し怖かったけどいい人たちだったね」
「本当にね、少し面食らっちゃった」
福島といい新潟といい旅先で話す人たちはみんな温かい。東京とはまた別のその地元特有の温かさを感じる。一軒目でお腹が満たされるとお酒も入っているせいか眠気が一気に最高潮に達してしまったのでもう一軒行きたい気持ちを抑え僕達は店を出てホテルに向かった。




