16話
「菜摘って就活どうするの?」
なんとなく聞くか迷ってたが菜摘は三年生で夏休み中、そろそろ動き出してもいい時期だ。
「ごめんね優弥くん、ずっと言わないといけないと思ってたんだけど」菜摘の顔が曇っている。
「え、どうしたの。大丈夫?」
「実は東京来る前から決めてたことなんだけど、地元で働こうと思ってるの」
そう伝えられた時、確かに少し驚いたが大学に入る前から決めていて今も気持ちが変わらないなら仕方ないよなと思ったのが最初の感情だった。
「遠距離なっちゃうね」
「うん。ごめんね、伝えるの遅くなっちゃって」
「離れるのは辛いけど僕もそっちに部署がある会社を選ぶことはできるから、ずっと会えないわけじゃないし大丈夫だよ」と僕は伝えた。
この話をしてから二日が経ち菜摘は今日からインターンシップのためしばらく地元に帰るらしい。付き合ってからの遠距離なんて正月に数日間離れた時くらいしかなかったから実質今回が初めて多少の長い期間離れることになるタイミングだった。
「少し早いけど遠距離恋愛の練習だね」
「一ヶ月くらいだけどね。こんなのすぐだよ。実際はもっとずっと長いんだからね」
「はいはい、その時になったら落ち込むから大丈夫だよー」
この時の僕はまだ先の事だと考えていてあんまり実感がなかったと今では思う。菜摘はどこか寂しげな、悲しい感情を必死に隠すように取り繕った笑顔で僕にキスをして地元に帰って行った。この時も僕は菜摘の顔を理解することはできていなかった。
ずっと一緒にいた人が急にいなくなるのはこんなにも辛いものなのかと感じたのは菜摘が帰って二週間目の夜だった。毎日LINEでは話すし電話だって三日に一回はしてるけど画面越しでしか彼女に会えないもどかしさがこれほどまでにキツいことだとは知らなかった。
僕の恋愛経験といっても人並みにはしてきたが、そもそも中学、高校までなんて学生期間と割り切って仕舞えばたかが知れてる。大学、社会人と勉強ではなく働いてお金を稼ぎ、自分で自分の人生を形成していく段階の時に隣にいる人は将来、所帯を持つときのパートナーになる確率が高いと僕は思っている。今、菜摘が僕の中ではそうだ。そんな菜摘と離れるのはここまでキツく大変なものなんだと今まで気づかずに済んでいたのは、菜摘の温かさでこんな思いに至らないほど尽くしてくれていたからなんだとこの時初めて気づいた。
更にそこから二週間が経ち、菜摘の帰ってくる日がやってきた。僕は駅に向かい菜摘が着く一時間前から待っていた。久々に会う菜摘は嬉しそうな、けどやっぱり悲しそうな表情をしている。僕は気づかないふりをしながら会えたことの嬉しさに身を任せた。だって悲しい表情や寂しい表情はお互い気分が落ちてしまうだけだから。今じゃない。何かあるのを聞くのは今じゃなくていい。




