6・二人の殿下
私とシャリアさんの周りはいつの間にかクラスのみんなが集まっていました。 もちろん先生も。
「シャリア君とフィリア君、それは何かな?」
魔法の授業の担当の先生が私とシャリアさんが持っている棒に興味があったようです。
「これは……」
「マナブレードです」
私がシールド棒と言おうとしたら、シャリアさんが先に答えました。
「シール……」
「マナブレードです」
シャリアさんはニコリと笑顔のまま、私を見ました。
「……マナブレードですわ」
くっ……なにか負けましたわ。
それより、先ほどのシャリアさんとの打ち合いで魔力がかなり消費してしまいました。
私はキルデ様から頂いていた腕輪を装着しました。
心地よい感覚が腕から伝わり、全身に魔力が染み渡っていくのが感じられます。
この後、マナブレードに興味を持った先生やクラスメイトたちが私たちの周りに集まって来ました。
私はシールド魔法が使えることが条件と魔力操作の重要性を説いたのでした。
魔法の授業でも、魔力操作が一番大切な事なので、先生も理解してくれました。
魔力操作は地味ですから、派手さを好む人からすれば、つまらない物ですよね。
私も昔教わっていたときはつまらないと言って投げだそうとしましたわ。
その後は誰からとは言いませんが、お鼻ぐりぐりの刑を受けましたけど。
全員が魔力操作に集中し始めた頃、Sクラスの五人が授業に加わって来ました。
「すまない遅れた」
リド様が代表で先生に謝罪をしました。
「聞いているから構わないよ。 今は魔力操作を行っているところだから、君たちも参加してください」
リド様たち五人はAクラスの生徒たちが全員集中して魔力操作を行っているのを見て不思議そうにしていました。
リド様たち五人が私とシャリアさんの近くにやって来ました。
「なあ、どうして魔力操作ごときにこんな集中しているんだ?」
そんなことより、私はこんな天気の良い日にフード付きマントを被っている人が気になるんですが。
「授業ですから、魔力操作が重要なのです。 それよりリド様、そちらのマントの方は?」
私が聞くと、リド様以外の三人は、マントの人を見るのですが、なんとなくですが呆れた感じで見ています。
意味がわからず、リド様に向き直りました。
「あ、ああ……なんていうか、なぁ」
煮え切らない言葉にシャリアさんが口を出しました。
「そこの君、マントを取りたまえ」
その言葉に反応したのはマイク様でした。
「おい、貴様。 殿下に対して無礼だぞ!」
クランゼ兄弟もマント姿の殿下の前に立ちました。
あら、シャリアさんのこと気がついていないのかしら?
「リド様、シャリアさんは……」
と、ここまで言いかけたらリド様が目を見開いていました。
「お、おいおいおいおい……マジかよ」
おやおや? リド様顔が赤いですわ。
リド様が私の近くに寄ってきて、小声で聞いてきました。
「おいフィリア、こいつ殿下だろ?」
「どこからどう見ても殿下ですわよ」
私も小声で答えました。
リド様は四人の所に行って小声で話しています。
時折シャリアさんを見る五人。
「僕は最初から見抜いていましたよ」
と、目をそらしながら言うマイク様。
「僕らは気がつかなかったよ」
と、二人して手を頭の後ろで組んで言うクランゼ兄弟。
「……」
何も言わずに小刻みに震えているマント姿の殿下らしい人物。
頭をポリポリ掻いているリド様。
そして、シャリアさんに頭を下げています。
こんな所で頭を下げない方がよろしいですわよ。
「少し離れたところで話そうか」
シャリアさんの後についていく五人と、手招きを受けた私。
校舎とは反対にある木の下に集まりました。
「それで? 最近僕の噂が凄いことになっているんだが、聞かせてくれないかな?」
おっと、シャリアさんの眉間にお怒りのマークが浮き出ましたわ。
「すみません殿下。 これには訳がありまして……」
弁明を始めるマイク様。
「聞こうか」
ニッコニコの笑顔の裏に絵本で見るようなオーガが見えましたわ。
「実は……」
マイク様の話では、このセイラクールという女性は、殿下の顔によく似ていると言うことで替え玉に選ばれたのですが、どうにも胸が大きく、しかも歩き方が妙に色っぽすぎるのでマントを被せたとか……。
なんていうか、雑ですわね。
「胸に巻いた布の切れ端を、別の物に変えずに今に至ると、そういうことかな?」
シャリアさんも呆れています。
「やらかしてしまったことにとやかく言っても始まらない。 セイラクールと言ったか、フードを外してくれ」
シャリアさんに言われてフードを外すセイラクールさん。
その中から出てきた顔は、シャリアさんにうり二つでした。
「凄いですわ、シャリアさんのご姉妹と言われても納得してしまいますわ!」
私は思ったままの感想を口にしました。
「フィリア君……僕は男だから、それを言うなら兄妹だよね?」
シャリアさんは何か言ってますが後回しです。
セイラクールさんはマントも取り外しました。
その姿は……確かに胸板が厚すぎますわね。
私は断りを入れてからセイラクールさんの胸を触ってみました。
「これはご自分で?」
私が聞くとセイラクールさんは「恥ずかしながら」と答えてくれました。
「これでは駄目ですわね。 仕方ありません」
私はポケットの中から笛を取りだし、吹きました。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
サシャがあっという間に来てくれました。
シャリアさんや他の五人も突然現れたサシャに驚いています。
私は特に気にもせず、サシャに説明しようとしましたが、既に手に薄くて長い布を持っていました。
「準備がいいですわね、サシャ」
「はい、丁度ペナさんとお茶をしていたところ、お嬢様に呼ばれましたので。 そうしたらペナさんがこれを持って行くといいですよ、と渡してくださいました」
相変わらず、ラザリア様のメイドさんは優秀ですわね。
「では早々に巻いてしまいましょう」
サシャがにじり寄ると、セイラクールさんが後ずさりをします。
「ちょ、ちょっと待ってください! 殿方の目があります!」
おっとそうでしたわ。
「はい、みなさん向こうを向いてくださいな」
私が男性を回れ右させました。
「お嬢様、もう終わりましたよ」
サシャが言いました。
「ちょっと待ってくれ、今反対を向いたばかりだぞ! 早すぎないか!?」
リド様の驚愕の声。
それに他の方は何がどうなったのか理解できていないようでした。
それよりも今は、セイラクールさんです。
見ての通り、かなり変わられました。
見事な胸板は、バランス良く整えられ、殿下が男装したときのようです。
「フィリア君、今変な事を考えなかったかい?」
「考えていませんわ」
セイラクールさんは、あの薄くて長い布が気に入ったのでしょう。 その場を少し歩いています。
ですが噂になった歩き方、お尻を左右に大きく振って歩く姿は直らないようでした。




