3・真実を求めて
学園は何事も無く、日々が穏やかに過ぎていっていました。
しかし、穏やかな時間は一人のクラスメイトの男子が駆け込んできたのを切っ掛けに、一瞬にして崩壊したのです。
「大変だ! 殿下の噂が!」
その男子生徒の慌てぶりに、前の席に座っていた女生徒が私の方を見ました。
その女生徒に私は頷くと、女生徒は扉の側にいた生徒へ無言で合図を送りました。 すると二人の生徒が頷きながら扉の両側に立ち、教室の外を警戒し始めました。
緊迫感に包まれた教室に、私の声が響きました。
「一体何がありましたの?」
慌てていた男子生徒は深呼吸をしてから口を開きました。
「ランディル殿下が女だという噂が広まっている、このままでは俺たちは……」
このクラスに衝撃が走った。
……留年。
オーブル先生の悪魔的発言が、全員の脳裏に蘇っていたのです。
このクラスから情報が漏れたのかしら?
いえ、そんなはずはありません。
このクラスの誰もがそんなことは望んではいません。
私は平静を装いながら席に座ったまま肘を机の上に立て、指を絡めた手を顔の前で組んで口を開きます。
「……詳しく」
男子生徒は説明を始めました。
「Sクラスから殿下の胸が膨らんでいたとか、Sクラスの扉が開いていたから覗いたら殿下が着替えていた姿を見てしまった生徒から、殿下の胸が……あの膨らみは本物の女性の物だったと、BクラスとCクラスから噂が広がっています」
全員が私の隣に座っているシャリアさんに視線を向けました。
「シャリアさん、Sクラスで着替えを?」
私が尋ねると、シャリアさんは盛大に反論してきました。
「ちょっと待ってくれ! この姿になってから、君たちとずっといたよね!? それにSクラスにも僕は行っていないよ!?」
……確かに変ですね。
これは調べてみる必要がありますわね。
「セタ君、トーラス君、二人に頼めますか?」
私は二人に指示を出しました。
「師匠、任せてくれ」
「うん、いいよー。 しっかり真実を見極めようね」
セタ君とトーラス君は素早く動き、教室から出て行くのでした。
「任せましたよ、二人とも」
クラスの全員が二人の勇敢なる背中を無言で、扉が閉まるまで見送っていました。
*
「セタ君、まずはSクラスからかな?」
「そうだな、それが一番早い。 行こう」
俺とトーラスは休みの日には冒険者として活動しているので、多少気配を消すことが出来る。
なので、怪しまれずにSクラスへ辿り着いた。
「トーラス、どうだ? なにか聞こえるか?」
「……教室内からは声は聞こえないね」
「……やはりか、俺の方も教室の中の気配を感じられなかった」
俺とトーラスは、次へ移動した。
向かうはBとCクラス。
「とりあえず男子生徒に聞いてみようか」
俺とトーラスは手分けをして情報収集に努めた。
そして有力な情報を持った男子生徒に接触することに成功したのだ。
「ランディル殿下? 知っているよ。 僕が直接見たんだ。 そう、あのとき――」
男子生徒の昔話が始まった。
それは、職員室から教室へ戻るとき、Sクラスの殿下を覗いた四人が廊下の窓側で話していたんだ。
僕は邪魔にならないように、教室の扉がある方を歩いたんだ。
そのときSクラスの扉が開いていたから興味本位で覗いてみると、ランディル殿下が背中を向けて上着を脱ぎ捨てていたんだ。
その前にはメイドが何か長い布を手にしていて控えていたので、どうしたのかと思い、少し立ち止まって見ていたら、ランディル殿下が両腕を上げたんだ。
そうして僕は見た!
殿下の後ろ姿が斜めを向いたとき、殿下の豊満な横乳を! はみ出しそうなくらいたわわに実った果実が僕の目に飛び込んできたんだ!
僕はその衝撃的瞬間に立ち会えたことを神に感謝したんだ!
こうして噂話となって広がっていったということだった。
その他にも女生徒から、登校中のランディル殿下の後ろ姿を見て、女性である自分だから気がついたという話であった。
「ええ、あれは忘れもしない昨日の朝の事よ。 殿下が女性なら一度はやる体幹を鍛えるためのあの歩き方。 お尻を大きく左右に振りながら歩くあれよ」
女生徒がその当時のことを話し出した。
あれは昨日の登校中、友達と登校しているときに、男子寮からいつもの五人が出てきたという。
しかし、その日のランディル殿下はいつもとは様子が違った。
何が違うのかと、友達と後ろから確認していると、私たちは気がついてしまったのだという。
あれは女性が一度はやるであろう体幹を鍛え、姿勢良く歩くためのトレーニング。
お尻を大きく左右に振って歩く歩法だというのだ。
今度チャーニに聞いてみよう。
俺たちは話してくれた女生徒に礼を言うと、その場を離れていった。
「思いのほか噂というより真実なのかもしれないな」
「そうだねー。 あの男子生徒や女生徒が嘘を言う理由がないからねー」
「ああ、後は実際に噂のランディル殿下を確認すればわかることだろう」
「そうだねー。 僕たちの為に」
「ああ、留年阻止のために」
俺とトーラスは、何処に行ったかわからないランディル殿下とSクラスの面々を探すために、校舎をさまよい歩いて行くのだった。




