1・演劇会終了、その後で
1・演劇会終了、その後で。
演劇も終盤、アイラとエリアルが倒れた後、天井に吊していたシャンデリアを画いた板が落ちてきた。
それをお嬢様が受け止め、なんとかこの場は収まりました……が。
「旦那様、少々席を外します」
フェリオ様も今の様子に不自然さを感じたのでしょう。
「……気をつけろよ」
その言葉を聞いて、私はそっと会場を後にしました。
(あれは事故ではありませんね。 ナイフか何かが飛んでいき、紐を切り裂いていました)
講堂から出ると外には会場に入らなかった人たちで賑わっていました。
その中で一人、明らかに場違いな気配を漂わせている者がいましたので後をつけていきます。
その人物は建物の陰に入っていきます。
私も気配を消しながらその近くまで寄っていくと、男達の話し声が聞こえてきました。
「首尾は?」
「問題ない。 落下したのを見たらすぐに出たからな」
「ナイフの回収は別の者が行っているはずだ。 脅しとしては上出来だな」
……誰かが仕組んだ? 何のために?
聞き耳を立てながら考え事をしていると、私の後ろで木が折れる音がして振り返ると、子供達が木の枝を踏んで折っていました。
すぐに男達の方を向くと、既にいなくなっていました。
「……仕方ありませんね」
私は講堂に戻ると、裏手にはランディル殿下とその配下四人、それと騎士達が集まっていました。 その中にフェリオ様も加わっていましたので、私は近寄っていきます。
「そこのメイド、止まれ!」
私は騎士に止められましたが、フェリオ様が事情を話し、通してもらえました。
「してサシャよ、どうであったか?」
全員、落下してきた板を結んでいた紐の切れた部分を調べていたのでしょう。
「間違いありません。 何者かがナイフを飛ばして切り飛ばしたようです。 ナイフは別の者が回収すると話していたのを聞きましたが、子供達が木の枝を踏んだ音に気がついてその場から消えてしまいました。 申し訳ありません」
ふむと考えた後、フェリオ様はランディル殿下に言いました。
「サシャの言うことに嘘はないだろう。 それに、その紐の切り口を見れば一目瞭然。 何者かが殿下を狙ったとしか思えぬ」
ランディル殿下が狙われた。
それだけでこの場の空気が重くなった。
「殿下、学校の方はどうするんだ?」
確かリドとか言った取り巻きの一人が口を開いた。
「そうだね、休みたくはないんだが、こればかりは」
残念そうに言う殿下に対してリドは言った。
「なら変装すればいいじゃん」
あまりにも安直過ぎる。
「おお! それはいいアイデアですな!」
騎士達も頷いているけど、それ、どうなんですか!?
「なるほど、それは面白いアイデアではないか!」
いつの間にか少し離れたところでこの国の王様、イルタ陛下が立っていた。
一同はその場で跪いた。
「よいよい、そんな畏まるな」
ランディル殿下は目を細めながら口を開いた。
「兄上……面白がっていませんか?」
「いや、面白がってなどいないぞ? 閉じこもっていても犯人はわからないだろ、いっそのこと出歩いて誘い出した方が早かろう。 何、警備は更に厳重にするぞ」
確かにその方が早いですけど、危険も付き纏うんですよ、それは。
「それなら殿下には女子寮で生活して貰いましょう」
フェリオ様、何を言ってるんですか?
「ほう、それはどういう意味か?」
陛下が尋ねてきたのでフェリオ様は答えました。
「女子寮ならこのサシャがいます。 下手な警備より断然安心でございます」
「ほう、下手な警備とは……」
言いかけた陛下の言葉を遮りフェリオ様はお耳を拝借させて頂いた。
「実は……と言うことです」
フェリオ様が陛下に何事かを耳打ちすると、目を丸くしてこちらを見ました。
「なんと……君があの、いや、それなら安心かもしれんな」
一旦考え事をした後にランディル殿下に言いました。
「よし! 話は決まった! 弟よ、今日から女子寮で、女生徒して生活をしろ。 サシャとやら、後で書類を持って行くのでそれを寮母に渡してくれ。 学園の方にも連絡を入れておく。 それとこの件は口外禁止とする」
それだけ言うと陛下は去って行くのでした。
放心状態のランディル殿下を置いて……。
*
お嬢様には事故のことは伏せて話しました。
苦しい言い訳でしたが王家には仕来りがあるということにして。
もちろん口外禁止と念を押しましたが、あっさり納得してくれました。
「なら、名前はどうするのですか? ランディル殿下ですから……ランちゃん? ラディちゃん?」
お嬢様の名前のセンスは……求めてはいけないのですね。
「フィリア君、僕の心をえぐるのは止めてくれないだろうか……」
テーブルに突っ伏して頭を抱えている殿下。
普段なら絶対に見ることは無いお姿ですね。
「……名前ならもう決めてある」
「どんなお名前ですか?」
お嬢様はわくわくしながら殿下に詰め寄ります。
「……シャリア」
「いい響きではないですか!」
お嬢様は手を叩いて感激しています。
「あとは、お着替えしましょう! 学園の制服に!」
晴れやかな笑顔で着替えを持って勧めるお嬢様。
「あああああ! どうしてこうなったあああああ!」
私も化粧箱を持ちながら、心中お察し申し上げます、とだけ思うのでした。




