34・追放令嬢と終焉の王国 後編
「随分と暗い話だな」
「そうですね、クランツ様」
「こんな話だとイルタ王も怒るだろう……いや、あいつのことだ、王弟にやらすくらいだ、何かあるんじゃないか?」
「確かにイルタ王なら、何かお考えがおありでしょうね」
「ルベルトもそう思うだろ? 学生時代から正義感の強い奴だったからな」
「……まさか父親と何かあったと?」
「あるかもな、王になるのが早すぎるのも気になるしな」
「前王、マグノーテ王はご病気になられたと言われていますが」
「ならいいがな……ま、俺たちには踏み込めないことだ」
「そうですね」
小声で話すクランツとルベルト。
二人はイルタのことを悪くは思っていない。
前王、マグノーテ王には良い印象は持っていなかったが。
*
「台本を読ませて貰った時は悩んだが、この演劇はこの国のもう一つの姿だったのかもしれないな。 そう思わないか? 騎士団長」
イルタ王の後ろに控えていた鎧に身を包んだ男が一歩前に出て返事をした。
「そうですな。 私もそう感じていたところです」
「父のやらかし、まだ完全ではないが消えてはいない……あの時を思い出させてくれる、良い劇ではないか。 あの頃は第四騎士団隊長として私に仕えていたのだからな」
イルタ王は一息ついてから口にした。
「それよりお前の息子が演じる王様の演技は格別だな」
にやりと笑いながら騎士団長に語りかけるイルタ王。
「……恥ずかしい限りで」
複雑そうな顔をして舞台を見やる騎士団長。
「私は褒めているのだよ」
はははと笑いながら舞台に目をやる。
*
「流石我が娘! 良い演技をするではないか! 特にあの儚げな演技!」
「そうでございますね。 旦那様」
「あなた、それにカルロスも。 娘の役はあのザックですよ。 見たらわかるじゃないですか」
「そうだよお父様、間違えたらお姉様が悲しみますよ」
「なっ! なにを言うか! 最初からわかっていたぞ! うん、わかっていた……」
「それにしてもあのアイラ役の子、何処かで見た顔なのよね……何処だったかしら」
「あの人綺麗だよね、男の人なのに」
「何!? 男だったのか!?」
「カルロスの目を持ってしても見抜けませんでした」
「お二人は何を見ていますの?」
ため息を吐くアリサと幼いアレス……。
「まだ劇の最中ですよ、静かにしないと周りに迷惑になります、特に旦那様。 あとカルロス様も旦那様に合わせる必要ありませんよ」
「サシャよ、そこまで言うか……」
賑やかなモンティーレ家の面々、フィリアの家族であった。
*
舞台が明るくなり、着飾った貴族達が踊っている。
その楽しげな催しの中、ナレーションが語られていきます。
『やがてこの国は二つの勢力に別れ、争いが激しくなっていくのでした。 そんな中でもお城の中ではダラント王が反乱軍は鎮圧に向かっているという報告を受けていたからパーティーで演説をし、王族派の貴族達は誰しもこの戦いに負けることはないと思っていました――しかし反乱軍は城のすぐ近くまで進攻していました』
激しい演奏と鉄の棒が打ち合う音が講堂の中に響き渡る。
赤く照らされた舞台上ではアイラとザックが同じ動きをしながら迫り来る騎士団を切り払っていく。
「アイラ、いけるか?」
「いけます……エリアル王子を見つけたら私に……」
「わかった」
同じ動作の殺陣を行いながら舞台の端まで移動していく。
舞台が暗転し、天井に再びシャンデリアが吊されていた。
そこにダラント王とエリアル王子が現れた。
「一体何の騒ぎだ! 反乱軍は鎮圧したのであろう!」
怒鳴るダラント王とその後に続くエリアル王子。
「騎士達の数が少なくなっている、どういうことか!」
エリアル王子も怒鳴る。
二人が出てきた反対側から騎士が現れ、現状を報告する。
「陛下! ご報告があります! 反乱軍が城内に攻め入ってきました!」
騎士は報告を終えると、踵を返し舞台から消えていく。
「儂に報告をした宰相は何処か! 今すぐ連れて参れ!」
「……父上」
王は叫び、控えていた騎士が数名王の後ろに立った。
演奏は続き、鉄の棒が更に激しさを増しながら叩かれ、雄叫びが上がり始める。
「……見つけた」
舞台に現れたのは、アイラとザックである。
「アイラ・イル・アルマーク! 貴様のせいで!」
怒りを露わにしたエリアル王子が剣を抜く。
アイラの横に立つザックもまた剣を抜き放つ。
「騎士達はあの男をやれ! アイラはこの僕が相手をしてやる!」
舞台の中央でアイラとエリアル王子の決闘が始まった。
ザックは三人の騎士を相手に剣を振るう。
騎士もザックの剣を受け、弾き返してからの切りつけを行う。
同じように残りの騎士もザックに襲いかかるが、華麗に躱して一人、また一人と切り伏せていく。
アイラもまたエリアル王子と剣を打ち合っている。
「貴様などに敗れる僕ではない!」
エリアル王子の怒声にも怯まず、ただ無言で切りつけるアイラ。
いつまでも続くと思われる剣戟にも終止符が打たれた。
演奏と剣のぶつかり合う音や雄叫びが一斉に止まる。
大きな隙を見せたエリアル王子をアイラの剣が貫いた。
「がっ……」
エリアル王子の剣もまた、アイラの肩から胸に掛けて切り裂いたのだった。
「お……お前ごと……きに」
悔しそうに言いながら数歩下がってそのまましゃがみ、後ろへ倒れるエリアル王子。
アイラも遅れてその場に膝を着き仰向けに倒れていく。
――その時天井の板で出来たシャンデリアが、アイラ目掛けて落ちてきた。
観客は演出と思って見ていた。
袖の裏からもみんながあまりの出来事に動けないでいた。
(いけない! 殿下の上に落ちる!)
フィリアは瞬時に闘気を纏って落下してきた板で出来たシャンデリアを受け止めて自分の後ろへ流れるような動作で置いた。
端から見ればフィリアの立っていた位置から殿下の元まで、瞬間移動でもしたようにも見えた。
流石の殿下も目を見開いていました。
フィリアは小声で話しかけた。
「お怪我は?」
殿下も小声で「問題ない、助かった」と返した。
しかし劇は続いていたのでフィリアはザックとなり台詞を紡いだ。
「……アイラ」
ザックの台詞を聞いたナレーションのレコラが少し遅れて話し始めた。
『エ、エリアル王子とアイラは共に倒れ、ザックは駆け寄り抱き起こした』
ナレーションに合わせてザックはアイラを抱き起こした。
『しかし、傷が深く、アイラの呼吸は次第に弱まっていきます。 そんな中、ザックに向けて微笑んだだけでした』
ザックはアイラを床に寝かした。
『ザックはアイラの満足したような顔を見て、一筋の涙を流して再び戦いの中へとその身を投じていきました』
ナレーションが終わると、再び演奏と剣戟の音や雄叫びが上がり始めて幕が下りてくる。
演奏だけが講堂の中に響き渡り、観客は静まりかえっていた。
その中で、特別観覧席から拍手が響いてきた。
それに合わせて観客席から大きな拍手が送られてきた。
こうしてSクラスとAクラスの合同演劇は成功に終わったのでした。
*
「みなさんお疲れ様でした!」
どうにか笑顔でレコラさんが演劇の終わりの挨拶をした。
ただ、殿下たち五人が、落下してきた物を調べていました。
私も気になり、近寄っていきましたが、
「すまないがこれを調べさせて貰うので預かるよ」
私と殿下が話しているなか、四人がシーツに包んで運び出しました。
道具係の人たちも、万全に仕事をしたはずでしたが、ハプニングが起きてしまったのでランディル殿下に謝罪をしにいきました。
殿下は別段咎めるわけでもなく、詳しいことはわかってから話すと言い、講堂から出て行くのでした。




