33・追放令嬢と終焉の王国 中編
「あのアイラを演じているのは……まさか私の弟、ランディルか? 頑なに何の役を演じるのか言いたがらなかったな……くくく、おもしろい」
二階の特別席、豪華な個室で舞台が良く見える場所。
この国の王様が演劇を鑑賞し、声を殺しながら笑っていた。
また、客席でも――。
「クランツ様、先ほどのザックを演じていたのは……」
ルベルトがクランツに確認していた。
「あぁ、間違いなくフィリア嬢だな。 前に見たときよりも男の演技が一段とうまくなっているんじゃないか?」
クランツも笑い出しそうになるのを堪えながら答えた。
「しかし、ザックはなんだかクランツ様に似ていましたね」
ルベルトの言葉にクランツは首をかしげて「似てるか?」と漏らしていた。
*
『反乱軍に加わったアイラは国王派の貴族の家に襲撃を加えていました。 そして――』
舞台は貴族の屋敷の中の一室と変わり、ザックとアイラは国王派のゲルバ伯爵と対峙していた。
少し激しめの演奏が鳴り響き、舞台裏では鉄の棒をぶつけ合う音で、外でも戦いが起きている感じを出しています。
ゲルバはパーティーの時、アイラが追放されるときに大笑いしていた貴族の一人だった。
「貴様は、アイラか? まさか本当に反乱軍と関わりがあったとはな……よかろう、貴様を捕らえて王に突き出してくれるわ」
ゲルバは剣を抜き、アイラに向かって剣先を向けた。
アイラは無言で剣を抜き、ゲルバの言葉には一切耳を傾けずに斬りかかっていく。
二人の剣戟は続いていた。
そして時間と共にアイラの突きがゲルバの胸を貫くように脇の下に収まっていく。
舞台裏からの音が消え、演奏も止まる。
剣を抜く動作から血を振り払うような一連の動作をして客席に背中を向けるアイラ。
「き……貴様、反乱軍ごと……き……ガハッ!」
膝を着いてからバタリと倒れるゲルバ。
それをただ見つめるだけのアイラ。
「いいのか?」
ザックの言葉にアイラは無言で頷き歩き出していく。
『この出来事から、アイラが反乱軍に居たことがわかり、城では騒ぎになっていました』
舞台が暗転して、暗がりの中を道具係が動き回ります。
暗がりの中、アイラの両親の声が響き渡る。
「私たちは嵌められたのだろうか」
「そうですわね。 あのとき娘の言葉も聞かずに、やって来た兵士の言葉を信じたばかりに」
『後悔しているアイラの両親。 二人は今、城の牢獄に幽閉されていました。 罪状は、反乱分子を隠し、育てていたこととされていました』
舞台に明かりが灯り、謁見の間をイメージしたものになっていた。
中央の二段高い場所に玉座があり、ダラント王が座っている。
そこへ縛られて連れてこられたアルマーク伯爵夫妻。
「王よ! 何故このようなことを!」
訴え掛ける伯爵に続き、妻も「何かの間違いです!」と訴えかけるがダラント王は無言で立ち上がり、二人に向かって言い放つ。
「先日、我が信頼するゲルバ伯爵がそなたらの子、アイラによって討たれたと報告が上がっている。 これをどう説明する」
『ゲルバ伯爵が討たれた。 その言葉だけでも信じられないことなのに、それを討ち取ったというのが自分たちの娘であるアイラと知らされて、二人はその場で崩れ去っていくのでした』
「後日、この者達の刑を行う。 それまで牢にぶち込んでおけ!」
兵士が駆けつけ、二人を舞台から退場させていく。
それに合わせて左袖からエリアル王子が出てきた。
「父上、予定通りに事が運びましたね。 しかし、アイラが本当に反乱軍に与していたとは」
「それが誠だろうと、我らの計画に狂いはない! 我らにとって必要のない家など潰せば良い」
ダラント王とエリアル王子は高笑いをして舞台から出て行く。
悲しげな演奏が鳴り響き、舞台の照明が赤く染まり陰による演技で、アルマーク夫妻の処刑が行われた。
舞台裏から見物人達を思わせる台詞が発せられる。
『夕暮れの中、アルマーク家は王の策略により取り潰されました。 その一報はアイラの所にも届くのでした』
舞台が暗転し、舞台の上にアイラとザックが立っていた。
「ザック! アイラ! 聞いたか!」
反乱軍の仲間が息を切らせながら駆け寄ってきた。
「どうした」
ザックが尋ねると、仲間が息を整えて語り出した。
「仲間から聞いたが、夕刻にアルマークの夫妻が処刑された……」
その言葉を聞いてもアイラは動かない。
ザックがアイラを見る。
「……アイラ」
ザックの声で初めてアイラが口にしたのは「……そう」その一言だけだった。
ザックと仲間はそれ以上アイラに何も言わなかった。
「それと、今晩も襲撃に出るぞ。 相手はあの副団長の屋敷だ」
鞘に入った剣を持ちザックに渡す。
「ああ、こちらの準備は整っている。 問題ない」
ザックは受け取った剣を抜き、天に掲げた。
その横ではアイラも鞘から剣を抜き自分の長い髪を引っ張り切り離すのだった。
『アイラは両親の死に涙も流さず、何処か覚悟を決めていくのでした。 その日の夜、副団長の屋敷に雪崩れ込んだ反乱軍に副団長は討たれるのでした。 翌日、この国が国民をだまし、お金や食料を取り上げていたことが明るみになり、市民や反王族派の貴族達までもが加わっていき始め、戦いは激しくなっていくのでした』




