32・追放令嬢と終焉の王国 前編
幕が下りている舞台に集まったSとAクラス。
ランディル殿下が初めて人前で女装します。
周りで見ていた人たちが思わず息を飲むくらい美しい少女となっていました。
「おいマイクよ、殿下を見て何か思うところはないのか?」
リド様がマイク様に聞いてみましたが、マイク様は平然と答えました。
「君は何を言っているんだ? 殿下は殿下だろ? 確かに美しいが、我妻には劣るな」
リド様と殿下は目を丸くしています。
「そ……そうか」
リド様はそれ以上何も言いませんでした。
殿下も凄くほっとして、胸をなで下ろしていました。
「早く終わらして、我妻の捜索を始めないと! きっと彼女も僕を待っているはずだ!」
拳を握りしめて語るマイク様に、リド様が「が、がんばれよ」と、一言だけ言いました。
まもなく開演です。
レコラさんとラザリア様の指示の元、左右の袖に分かれていきます。
舞台では城のパーティ会場のイメージを布や小物で表現させています。
そこに役者が配置についていき、幕が上がるのを待つばかりとなりました。
演奏者も左右の袖付近で演奏の準備が終わりました。
「これより、SクラスとAクラスによる【追放令嬢と終焉の王国】の演劇が始まります」
アナウンスが私たちのクラスの演劇が始まることを伝えます。
観客達が席に着くと照明が落ち、演奏者による演奏が静かに始まりました。
そして、レコラさんによるナレーションが始まりました。
『ここはイストリア王国、今お城ではパーティが催されていました』
幕が上がり舞台に明かりが灯り、天井には木の板に画かれたシャンデリアが吊されています。
『会場には花や料理が並べられ、今日の日のために着飾った人たちが楽しんでいました』
そこに右側の袖から王子役のマイク様が登場し、舞台中央に立ち止まり観客席に向かって両手を広げ声を上げます。
「アイラ! アイラ・イル・アルマークはいるか!」
マイク様が出てきたところから、小走りに舞台中央に向かって行く殿下。
「お呼びでございましょうか、エリアル王子様」
殿下の姿が舞台に上がると観客席から「おおお……」と言う声が聞こえてきました。
マイク様が殿下の周りを歩いて一周して立ち止まり指を差して言い放ちます。
「アイラ! 貴様が反乱軍に与していたことは明白! よって貴様を国外追放処分とする!」
殿下は客席に向かい声を上げました。
「エリアル王子様! それは何かの間違いでは!? 私には身に覚えのないことです!」
「ええい! 黙れ! だがな、心の広いこの僕が、一日だけ猶予を与えてやる、最後の夜を家族と過ごすことを許してやろう! 衛兵!」
衛兵二人が左の袖から出てきて、殿下を連れて戻って行きます。
『こうしてアイラは身に覚えのない罪を着せられ、城を追い出されてしまいました。 パーティ会場ではエリアル王子とダラント王が談笑をしていました』
「うぉっほん! エリアルよ、首尾はどうだ?」
リド様扮するダラント王は胸を張りながら偉そうに言います。
「父よこちらは順調です、見事アルマーク家に罪を着せました」
「そうかそうか、うはははは!」
そこへ側近が話しかけます。
「本当によろしかったのですか、王よ」
王はその言葉に気にも止めていない様子で言いました。
「かまわん、あの家は取り潰す予定だったからな。 余興だ余興」
『王と王子は笑いながらパーティを楽しみ、夜が更けていくのでした。 その頃城を追い出されたアイラは迎えの馬車のない道を歩いて屋敷へ戻るのでした……』
ナレーションが終わると明かりが消え、場面はアルマーク家へと移りました。
明かりが付き舞台は屋敷の広間へ換わっていきます。
「お父様! お母様!」
父親と母親に向かい声を上げるアイラ。
サイラス様扮する父親は冷たくアイラに言い放ちます。
「この親不孝者が! 先ほど城から連絡が来てお前のことを聞いたわ!」
母親役のイコラス様も負けじと声を上げます。
「本当に、こんな子が私たちの子だったと思うと、怖くなってしまいます!」
イコラス様扮する母親は、扇子で顔を隠してアイラとは顔を合わせようともしません。
「ええい! お前などこの家の者ではないわ! 今すぐ出て行け!」
『家からも追い出されてしまったアイラ。 彼女は行く当てもなく彷徨い続けて、いつしか貧民街の裏路地まで来ていました。 ドレスのままでは目立つため、裏路地で拾った服に着替え、いつしか眠りについていました』
場面が切り替わり、ぼろを纏ったアイラが箱に寄りかかりながら眠っています。
その横に設置された部屋から男が現れます。
私、フィリアが扮するザックです。
「昨日城が騒がしかったな……何かあったのか?」
『ゴミ袋を持ったザックが表に出ると、ゴミ箱に寄りかかりながら寝ている女性がいました。 ザックは面倒くさそうにしながら女性に近づくと、ドレスやネックレスなどを抱えていました』
「なんだか面倒ごとの予感がする……おいお前、そこにいるとゴミが捨てられないんだが」
話しかけるとアイラは目を覚まします。
「……ここは?」
「寝ぼけてるのか? 邪魔なんだが」
辺りを見回してから慌てて起きるアイラ。
殿下、仕草が妙にはまっています。
「ご、ごめんなさい」
ゴミを捨てて立ち去ろうとするザックに声を掛けるアイラ。
「失礼ついでにお聞きしたいのですが、これらを売れる場所はありますか?」
アイラが差し出してきた物を見て、ザックはアイラを見た。
「……お前じゃぼられるだけだな」
その言葉を言うと、突然アイラは倒れ込んでしまった。
「やっぱり面倒ごとじゃないか」
頭をかきながらザックはアイラを担いで部屋に戻っていき、ベッドに寝かせました。
『ここからアイラとザックの共同生活が始まり、数日がたちました。 ザックの家に一人の男が駆け込んできました』
「ザック! 入るぞ!」
「すでに入ってきて何を言っているんだお前は」
「そんなことはどうでもいい……ん? そいつは誰だ?」
男はアイラを見て訝しげな顔をした。
「気にするな、それで用はなんだ?」
「それなんだが、アルマーク家の当主とその妻が城の兵に連行されたようだ」
それを聞いたアイラが思わず声を上げた。
「お父様とお母様が!?」
その言葉を聞いた二人はアイラをにらみつける。
「ザック、お前貴族の娘を隠していたのか?」
ザックはため息をついて答えた。
「俺も今知った」
男は腰から剣を抜こうとしたがザックが止めた。
「おい、理由があるなら聞くぞ」
ザックがアイラに尋ねる。
『アイラは今までの経緯を二人に聞かせたました。 そして今は貴族でもなんでもない、ただ路頭に迷っていた一人の女だと。 この日からアイラは反乱軍に加わって行くこととなるのでした』
静かに演奏が流れていき、舞台の明かりが徐々に消えていく。




