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29・レコラ感激

 私の部屋です。


 私、リド様、ラザリア様、チャーニさん、レコラさん、そしてサシャがランディル殿下を取り囲んでいます。


「どうして僕を囲んでいるのかな?」


 どうしてと言われても、何故か殿下が逃げだそうとしたからですとしか言えませんわ。


「着替えはするつもりだ……が、これはないだろう!」


 殿下の手に握られているのは、スケスケのネグリジェでした。


 一体誰が用意したのでしょうか。


「サシャ、あのネグリジェはどうしたのですか?」


 知っているかもしれないサシャに尋ねました。

「今朝、寮母様がお持ちになりました。 なんでも、〈これを我妻へ〉と張り紙が張られていたので、迷いなく持ってきたようです」


 それを聞いた殿下はぷるぷると震えていました。


「ここまで行くとあいつの本気度に感心するな」


 いつもは笑いながら言うリド様が真面目な顔をして言いました。


「リド、代われるなら代わってくれ……」


 殿下の目が死んでいます。


「それは……無理だな」


 どうしてこうなってしまったのですかね?


 私は考えてもどうしようもないことを考えてしまいました。


「それよりも、早く衣装の確認をした方がよろしいのでは?」


 そうでした、ラザリア様の言う通りですわね。

「でもよ、案外目の前で着替えたら気がつかないかもしれないぜ。 あいつそういう所鈍そうだから」


 リド様、また笑いながら言っています。


「なるほど、それは確かにありそうですね」


 サシャまで。


「とにかく急いでやってしまいましょう。 サシャ、お手伝いよろしく」


 私はサシャに殿下のお手伝いをお願いしました。


「すまない」


 殿下が一言言って、着替えるために別の部屋へ向かいました。


「でよ、実際殿下の姿ってどう変わるんだ? マイクがおかしくなるくらいだからな、俺も興味があるんだが」


 おっと、リド様も興味津々のご様子です。


「私が見たところ、もはや別人でした」


 ラザリア様も一度御覧になっていますからね。



 その後一発で殿下と言い当てていましたよね。



 チャーニさんも一緒に居ましたね。


「そうですね、ラザリア様が言うまで気がつきませんでした」


 リド様はなんだか楽しそうに殿下が出てくるのを待っています。


「わ、わたしも皆さんの話を聞いていたら楽しみになって……きました」


 大人しくしていたレコラさんも興味を持ったみたいですわね。


 みんなの期待が高まったとき、部屋の扉が開かれて、美しい姿の令嬢がメイドを引き連れて現れました。


 その姿に、私とラザリア様以外は言葉を失っていました。


「ランディル殿下、今日は一段と美しくなられましたね」


 私の素直な感想。


「サシャ君が気合いを入れてしまってね、こうなってしまったよ」


 殿下の苦笑い。


 口元を手で押さえながら言って欲しかったですわね。


「ランディル殿下、そのように笑うときは口元を手で隠しながら行うのです」


 サシャも同じ考えだったようで、注意しています。


「そこまでするのかい?」


 困惑している殿下に追い打ちかけるようにサシャが言います。


「演技をする上で、日頃の行動が物を言うのです。 立派なレディになるのですよ、ランディル殿下」


 サシャは何を言ってますの?


「いや、僕はレディになるつもりはないよ?」


 でしょうね~。


 そこで突然笑い声が響きました。


「ぶははははは! こりゃ凄い! 確かにマイクがおかしくなるわけだ! ぶははははは!」


 リド様でした。


 男の方の感性だと、やはり殿下はかなりの物なんですね。


「リド……勘弁してくれ」


 しかし、そんなことを言う殿下も頬を赤らめてまんざらではないような……気のせいですかね。


「で、どうだいレコラ君。 おかしな所はないかな?」


 レコラさんに自分の姿を見て貰い、感想を聞いています。


 しかし、レコラさんは黙ったまま硬直しています。


「おーい、レコラ君」


 殿下がレコラさんの肩を掴んで揺すっています。


「ぐほっ!」


 レコラさん、突然変な声を上げたら殿下とは反対の方を向いて、言葉にならない声を上げて悶えています。


 その動きはちょっと怖いですわ、レコラさん。


「レ、レコラ君?」


 それに驚いた殿下も戸惑っています。


「はっ! し……失礼しました。 取り乱しました……」


 なんとか我に返ったレコラさんは、今一度殿下をじっくりと見ていました。


「す……凄いですね。 完璧です。 非の打ち所がないです」


 レコラさんは口元を手で拭いながら感想を述べました。


 口元を拭う必要あるのかしら?


「本当、知らずに見たらランディル殿下は女性その物です」


 チャーニさんも何故かうっとりしながら見ています。


「そうですね、もう少し動きを滑らかにした方が一層素晴らしくなりそうですね」


 ラザリア様の指摘。


 確かにそうですわね。


 そしてリド様が真顔になりながら殿下の前にひざまずいて、手を取り言いました。


「俺と結婚してください」


 その一言で殿下の顔が短い悲鳴と共に一瞬で青ざめました。


「ヒッ……」


「冗談だ殿下。 ついついからかってしまった」


 笑いながら立ち上がり謝るリド様。 趣味がお悪いようで。


「リド……君の父君にはよく言っておくよ……」


「待ってくれ殿下! それだけは止めてくれ!」


 殿下とリド様のやりとりは面白おかしく行われていきます。


 私はレコラさんが何やらノートに書いていることに気がつきました。


 レコラさんはニヤニヤしながらひたすらに書き込んでいます。


 前に見かけたラザリア様の姿によく似ていますわ。


 演劇に関して熱心なのですね。


「……素晴らしいネタです……」


 気になって耳を澄まして聞いてみると――


(うへへへ……これは素晴らしい。 殿下、俺と結婚しろ。 いけませんわリド、私とあなたでは立場が違いますもの。 そういうな、いざとなったら俺がお前と逃げてもいいんだぜ。 あぁ、リド……)


 ……聞かなかったことにしようとしましたが、なぜかサシャがレコラさんの後ろに立って書き込んでいるノートを覗き込んでいます。


 しかも目を輝かせながら……。

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