23・師匠になりました
「クランツ君にルベルト君、よく来てくれたね。 待っていたよ」
「お久しぶりです。 キルデ主任」
朝一番――
今、俺はマグノーテ城に来ている。
キルデ主任から連絡を受けたからだ。
あの日、フィリア嬢が戻った後、俺たちはキルデ主任の指示の元、魔石の仮設置をしていったのだ。
仮設置が終わるとキルデ主任は、準備のため一度王都に戻った。
そして今、連絡を受けた俺はルベルトを伴って城へやってきたのだった。
城に入るとそこには、初代マグノーテ王の肖像画が大きく飾られている。
「いつ見ても初代マグノーテ王は威厳が凄いね」
キルデ主任も肖像画を見ている。
「そうですね」
マグノーテ国、初代国王の名前がマグノーテ・ラル・エルディア。
今のイルタ王の父親もマグノーテという名前だった。 俺も何度か会ったことがあるが、かなり厳しい人だったということしか覚えていない。
「そろそろ行こうか、王が待っているから」
俺はキルデ主任の後をついて、イルタ王の下へ向かった。 既に報告は受けているが、実際に俺の口から聞きたいそうだ。
しかし、同級生のイルタがこんなに早く王様になるなんてな。
わからないもんだ。
*
学園食堂――
「フィリア様は放課後はどうなさるのですか?」
チャーニさんが私の放課後の予定を聞いてきました。
「今日は畑の方に向かいますわ」
それを聞いたセタ君が、私にお願いをしてきました。
「フィリア様、お願いがあります」
かなり真剣な顔です。
聞けることなら聞いてあげましょう。
「なんでしょうか?」
「俺を……いや、僕を弟子にしてください! お願いします!」
今の一言で食堂が静まりかえりました。
「えーっと……なんですって?」
聞き間違いかしら? 弟子とか聞こえましたが……。
「僕を弟子にしてください!」
はい、聞き間違いではありませんでしたわ。
私は考えました。
確かに一人だと大変ですよね。 これからは……。
それに、人手が増えることは嬉しいことですからね。
これは断る必要は無しですわね!
「わかりました。 セタ君を弟子にしますわ」
セタ君は凄く喜んでいます。
良かった。
「これからはしっかりと畑の作り方をお教えしますわ!」
私は拳を振り上げて頑張りましょうと言いました。
セタ君は――。
「いや、違う、そうじゃないです……」
そう言って、表情が暗くなっていきましたわ。
どうしたのかしら?
*
放課後になって畑にやって参りました。
「セタ君も最初から強くなりたいと言ってくれれば、私も勘違いしなかったのですよ」
私は少し頬を膨らませて言いました。
「ご、ごめん……」
こちらの確認不足もありましたので、本気で怒っているわけではありませんわ。
「でも、何で私なんですか? 強いお方は他にもいると思いますが」
気になったことを聞いてみると、以前依頼を一緒に受けたときに私の戦いぶりを見てから決めていたようです。 それに、私の戦いぶりがダリア様に似ているとかなんとかで。
確かに私も見たことはあります。 ダリア様の双剣は見事でしたからね。
私は畑の雑草を取りながら、畑の横で剣を振っているセタ君を見ました。
なんかバランスが悪いですね。 更によく観察すると、左腕が追いついていないようです。
なので私流のアドバイスをしてあげます。
「セタ君、しばらく左腕をメインとして生活してみてはいかがでしょうか? 見た感じ、左腕が追いついていないようですし」
セタ君は素振りをやめて、左腕を眺めていました。
「わかりました師匠! これからは左腕で生活していきます! やるぞー!」
やる気が出るのはいいですが、師匠呼びは恥ずかしいですね。
「セタ君、師匠という呼び方はやめないですか?」
「駄目です! フィリア様は師匠です! なので呼び方は変えません!」
爽やかな笑顔で言いましたよ……。
私は深く追求することをやめました。
時間の無駄なような気がしたからです。
素振りをしながらセタ君が私に聞いてきました。
「フィリア様はどうしてそんなに強くなったのですか?」
強くですか……考えたことがありませんでした。
私はただ、理想の悪役令嬢を目指していただけ……あ、これですか。
しかし、それをはっきり言うのは恥ずかしいですね。 なら――
「サシャですね。 サシャに鍛えられましたから」
無難な回答ですわね。
逃げ回っていた小さい頃を思い出しながら――。
「あぁ……あの人ですか……」
セタ君はサシャが苦手なんですかね。 サシャの名前が出たら小刻みに震えていますわ。
「それにしても雑草が多いですわね。 これはあれの出番ですね」
私は畑の外に置いてあった棒を持ち、先端に回転するシールド魔法を使いました。
シュバババババ……
やはり早いですわ。
「フィリア様、なんですかそれは?」
セタ君が気になって素振りを中断して草刈りを眺めて言いました。
「そうですわね……そうだ! 草刈り魔法ですわ! うん、そう呼びましょう!」
我ながら素晴らしい名付けだと思います。
「そ、そうですか」
セタ君、なんですかその何か言いたそうな微妙な顔は。
セタ君とそんなやりとりをしていると、こちらに向かって歩いてくる人たちがいました。
どうやらルッツ様とトーラス君です。 それと見覚えのある三人が一緒でした。
「フィリア様、お客様ですよ」
どうやら私のお客様を連れてきてくれたようです。
私は首から提げたタオルで汗を拭ってから立ち上がりました。
「えーと……フィリア嬢、今度は何をやっておられるのかな?」
第一声がそんなことを言った人を見ると……クランツ様でした。
「ク、クランツ様? どうしてこのような場所に?」
久しぶりにクランツ様を見ました。
しかし、クランツ様と会うときは必ずタイミングが悪いときですわね。
初めてお会いしたときは、男装していましたし、二度目の時なんて弟のアレンと遊んでいて、振り向きざまに決め台詞を言ったときですし、今回なんて畑いじりのお姿でしてよ。
私はきっと、この方とは相性が悪いのですね。
「あ、そうだったな、来た理由だったな」
クランツ様は私を見ながら一度咳払いをして話し始めました。
「フィリア嬢には一度、正式に感謝を述べたいと思っていたのです」
急に真顔になって何を言っているんでしょうか?
「感謝……ですか?」
訳がわかりません。 感謝されるようなことをしましたっけ?
「師匠はなにをやったんですか?」
セタ君、この場で入ってきますか……。




