22・ルッツの誤解
「よーし、今日の練習はここまでだぞ」
オーブル先生が終了の合図をしました。
「あ、来週から講堂が使えるようになるよ。 他のクラスも使うから、通し稽古をやるなら申請しろよー」
先生は最後にそれをみんなに伝えて教室から出て行きました。
「ルッツ様、この背景の色はこれくらいですかね?」
大道具係の女子が、イメージイラストを持って私に聞きに来ました。
そう、私ルッツは大道具係の責任者として演劇に関わっています。
「そうね……もう少し明るくしましょうか」
背景に関しては、台本制作者のレコラさんと打ち合わせしてありました。
夕方の背景として、原作だと凄く暗いイメージがありましたから、明るくしようと決まったのです。
「わかりました。 少し修正したら今日は終わりますね」
「ええ、よろしくね」
私も遅れている道具製作の班に加わり、作業を始めました。
外が暗くなり始めた頃、ようやく遅れていた班の作業が一段落したので今日はお終いとなりました。
他の人たちも帰る準備をしています。
教室の扉が開き、一人の男子生徒が入ってきました。
トーラスです。 彼は舞台設置担当だったはず。
「トーラス、今まで打ち合わせ?」
私が聞くと、トーラスはこちらを見て近づいてきました。
「うん、そうなんだよ。 舞台の配置とかの打ち合わせで大変だったよ。 本番は力仕事が重要なんだって」
でしょうね、今作っている大道具も完成したら結構な重さになるはずよ。 ま、トーラスとセタだったら問題ないでしょ。
「それよりルッツ様ももう終わるの?」
「ええ、そうよ」
トーラスは少し間を開けてから話してきました。
「だったら、寮まで送るよ。 いくら学園内でも、暗くなってきたから危ないでしょ」
トーラスは深くは考えていないはず。
普通に心配してくれているのはわかっている。
……少しは優しいところあるじゃない。
「なら、お言葉に甘えるわ。 しっかり護衛を頼むわ」
そう言うとトーラスはにこりと笑って「任せてよ!」と胸を叩いていたわ。
*
私とトーラスは校舎を出て歩き出したとき、広場の方からフィリア様とラザリア様、それにチャーニさんが話しながらやってきました。
「フィリア様、あそこはもう少し自分の気持ちを……好きだという気持ちを押さえた方がよろしいのでは?」
ラザリア様! 今なんと!?
「そうですね、相手も感情が読みにくいですが、フィリア様も読みにくいお方だと」
チャーニさんまで!
ひょっとして、お二人に自分の、オーブル先生に対する気持ちを打ち明けたのですか!?
「ルッツ様が何考えてるか知らないけど、僕は違うと思うな」
トーラス! お黙り!
なんで人の心を読むのよ!
私は気になったので、草陰に隠れて聞き耳を立てました。
「君たちは何をやっているんだい?」
「静かに! 話が聞こえなくなります!」
まったく、トーラスのくせに。
「トーラス君、彼女は何をしているのかな?」
「クラスメイトの話が気になるみたいですよ? 先生」
「トーラス! 変な独り言はやめてちょうだい!」
「えー。僕独り言なんて言ってないよ」
「僕はトーラス君なのかな?」
そういえばさっきから聞きお覚えある声が聞こえますね。
しかし今は――。
「フィリア様とオーブル先生の関係が気になります!」
「僕とフィリア君の関係? 先生と生徒以外何物でも無いよ」
「さっきから、トーラスうるさ……」
私はトーラスに文句を言ってやろうと振り向くと、そこにはトーラスと一緒に屈み込んでいたオーブル先生がいました。
「あ……あら先生……」
「こんばんは、ルッツ君。 もう遅いよ」
ああああ! 何てこと! こうなったら聞いちゃえ!
「あの! 先生はフィリア様のことどう思っていますか!?」
ついに聞いてやりました!
さあ! どんな返答が来るのかしら楽しみです。
「……教師の僕が言うのもなんだけど」
焦らしますね! はっきり言ってください!
「面倒くさい子」
……は?
「いやね、クラスで慕われているのは知っているよ? でも、なんだろう……他とは違うことを考えていう風に感じるんだよね」
なんですかそれは……。
「先生はご結婚は?」
「僕? 妻子持ちだよ? それがどうしたの?」
なんと先生妻子持ちですか!?
「先生、良く結婚出来たんですね」
トーラス! ストレートすぎ!!
「僕もそう思うよ。 良く結婚できたかなと。 で、この質問の意味は何かな?」
オーブル先生は私を見つめています。
「きょ……」
「きょ?」
「興味本位です……」
「興味本位かー……ならしかたないね。 うん、そういうお年頃だもんね」
そう言って先生は立ち上がり、歩いて行ってしまいました。
「びっくりしたわー」
トーラスはしゃがみ込みながらずっと私を見ています。
「……なによ」
「ルッツ様って……面白いね」
ぬがああああああああ!
トーラスに言われたあああああ!
*
「それにしても、フィリア様は誰か気になる人は居ないんですか?」
「私もそれは気になりますわね」
「ラザリア様もチャーニさんも何を言ってますの? 私に気になる方なんていませんわよ?」
(え!? いないんですか! では、あのとき喜んだのは一体なんだったんですか!?)




