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21・我が妻

「さて皆さん、そろそろ良いお時間となりましたので、本日はお終いといたしましょう」


 サシャに言われるまで私たちは台詞の言い方などに注意しながら進めていました。


「僕もそろそろ着替えないと……」


 言い終わる前に、遠くの方からまた来ました。


「……かあああああああ!!」

 

 マイク様が。


「殿下ああああああああああ!!!」


 その声は部屋のすぐそばまで迫っています。


 ラザリア様と、チャーニさんはこの声に驚いていました。


 そして、扉が勢いよく開かれました。


「殿下! 殿下は何処に!?」


 マイク様は部屋に入るなり、周りをキョロキョロしだして、ある一点で止まりました。


 ランディル殿下です。


 まだ、着替えていません……。


「なんと! 麗しのマイエンジェルではないか!」


 マイク様は一片の迷いもなく、且つ素早い動きで殿下の手を取り、またまた甲に口付けをしました。


「やはり貴方と私は結ばれる運命! さあ! 今から教会へ!」


 もはや私たちは置いてけぼりですわ。


 サシャも唖然としています。


 ラザリア様とチャーニさんまで、固まってしまいましたよ。


 かく言う私も、このお方は目がとても悪いのではと思い始めてしまったくらいです。


 手の甲に熱いキスを受けた殿下なんて、前より顔が引き攣っていますわ。


 流石に殿下をお助けしましょう。


「すまない、マイク様。 そろそろ彼女の手を離してもらえないかな」


 ちょっとザックが入ったままでしたね。


 しかしマイク様は——。


「なんだ貴様は……ん? いや、もしかして貴方は——我が妻の兄上様ですね!?」


「……え?」


 えええええ!? どうしてそうなるんですか!?


 マイク様がわかりません!?


 で、殿下! ランディル殿下!?


 い、いない? どこですか?


 私は部屋の中を見回しました。


 いました。


 どうやら私に注意が向いた時に着替えに向かったようです。


 ここからよく見えるのですが、手を満遍なく洗っていますね。


 サ、サシャは!?


 お腹を抑えて、口を膨らませながら笑いを堪えています。


 残る二人は石像のように固まっています。


 誰か助けてください!


「す、すまないが俺はそういう……」


「そうに違いありません! お兄様!」


 ていうか、ここは私の部屋ではありますが、演劇の役割などから察することができませんの!?


 それとも殿下に一目惚れしたあれですか? 恋は盲目というやつですか!?

 

 ランディル殿下! ご愁傷様ですわ!!!


 なんだかんだ擦ったもんだしていると、着替えた殿下が現れました。


「マイク、落ち着け」


 その声を聞いたマイク様が突然我に返りました。


「殿下! 探しましたよ!」


 我に返ったマイク様もそうですが、更に部屋へ入って来た三人がいました。


 それはリド様と、兄のサイラス様と弟のイコラス様のクランゼ兄弟ですわ。


「おい、マイク。 殿下はいたのかよ」


 リド様はだるそうに言っています。


「僕たちを外で待たせておいて何やってるのさ」


 サイラス様は、待たされたのが不満なようです。


「あ、お邪魔します」


 イコラス様はこちらに向かって挨拶をして来ました。


 三者三様ですわね。


「なんだよ、殿下いるじゃん」


 リド様が頭の後ろで手を組みながら笑い出しました。


「やあ、リドにクランゼ兄弟。 すまなかったね」


 殿下はリド様の方へ向かって歩いて行きます。


「さぁ、マイク。 戻ろうじゃないか」


 殿下はマイク様に告げました。


 しかし——。


「どこに行ったんだ? 私の妻は……」


 マイク様は部屋を見渡しながらまだ言っています。


「はあ? 妻だ? お前何言ってんだ?」


 リド様が訳がわからず声を上げました。


 そしてリド様は男装している私を見て、チャーニさんの台本を見てから殿下を見て察したようです。


「ああ〜……なるほど。 アイツの春は一瞬で通り過ぎたのか、だろ? ランディル殿下」


 ニヤニヤしながら殿下に話しかけるリド様。


 クランゼ兄弟も今のやり取りで察したようです。


「んんっ、なんのことだい?」


 殿下もとぼけていますね。


 その時、リド様がニヤリとして廊下を指差して叫びました。


「おい見ろ! すごい可愛い子が歩いて行ったぞ!」


 素早く反応したのはマイク様でした。


「なんだと!? 我が妻はどこだ!?」


 廊下に飛び出しあちらこちらを見渡しています。


「今階段のほうに行ったぞ! 急げマイク!」


 リド様、楽しんでいますね。


「うおおおおおおおおおお!! 待っていろおおおお!」


 マイク様は走って行ってしまいました。


「…………リド、やりすぎだぞ」


 殿下も笑いながら言いますか。


「いや〜、モテモテだね。 ランディル殿下は」


 わははと笑うリド様に釣られてクランゼ兄弟も笑いを堪えていました。


「フィリア君、最後に騒がしくなってすまなかったな」


 殿下の謝罪を受けましたが、私は気にしていませんと答えておきました。


「フィリア・モンティーレ。 お前、男の格好似合っているじゃないか」


 リド様は別れ際にそう言ってくださいました。


「では、また来る」


 殿下はそう言って三人を連れて部屋を出て行きました。


 残されたラザリア様とチャーニさんは固まったままでしたが。

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