19・着替えましょう
「しかし、今日の台詞合わせは中々愉快でしたね、フィリアさん」
今目の前にいるのはドレスアップして、お茶を嗜んでいるランディル殿下です。
私の台詞の言い方、そんなにおかしかったのでしょうか……。
結構自信あったんですよ?
それなのに、ここに来てから殿下は笑いっぱなしです。
失礼しちゃいますわ。
「私の言い方、そんなにおかしかったですか?」
この際だからどこがおかしいのか聞いちゃいましょう。
「そうですね、感じ的には……酒癖の悪い貴族の酔っ払いかな?」
殿下がはっきり言いました。
……酒癖の悪い貴族の酔っ払い——。
『ぐへへへへ……うぃ〜。 酒が足りないぞ、もっと持ってこ〜い!』
『うひ〜……。 そこのメイドのねーちゃん、こっち来て酌をしろい、うぃ』
私は昔、パーティーで見たことがある光景が頭の中で再生されました。
「………………なんて事ですの」
私はテーブルに伏せってしまいました。
後ろから「ブフッ」とサシャの吹き出す声まで聞こえましたわ。
気を取り直しましょう。
姿勢を正し、カップに手をかけた時、扉がノックされました。
サシャが扉に向かい、お客様の対応をしています。
サシャが対応している間にお茶を飲みます。
サシャはお客様を部屋に招き入れました。
お客様はなんと、ラザリア様とチャーニさんでした。
私と殿下はお茶を口にしていた、その時——。
突然チャーニさんがラザリア様の頭にハリセンを叩きつけました。
思わず私と殿下はお茶を吹き出してしまい、二人して咳き込んでしまいました。
「チャーニさん、何を!?」
私はあまりの光景に、考えるより先に口から言葉が出てしまいましたわ。
だってそうでしょ!?
あのおとなしそうだったチャーニさんが表情を消してハリセンを構えてから迷いなく振り抜いたのです。
しかも、殿下の目の前で……。
しかし、殿下はお腹と口を押さえながら肩を震わせていました。
「す、すまない……つい面白くてね」
笑っています。
そして叩かれたラザリア様といえば——。
「……今、何かありましたか?」
……普通です。
ラザリア様は私と目が合い微笑みました。
「フィリア様、突然の訪問失礼します。 が……」
ラザリア様はズンズンと歩いてきて、殿下のそばで立ち止まりました。
ラザリア様はしばらく殿下を見つめています。
そしてポツリと言いました。
「…………男」
ラザリア様は目を細めて更に殿下の顔を見ています。
私は内心ハラハラしてきましたわ。
殿下はそんなラザリア様をニコニコして見ています。
「何をなさっているのですか? ランディル殿下」
凄いです! 凄いですよラザリア様!
一発で言い当てましたわ。
「へぇー……よく僕とわかったね」
殿下は感心して、ラザリア様を見ています。
「他の人は騙せても、私の鼻は誤魔化せませんのよ!」
フフンと、誇らしげに胸に手を当てているラザリア様。
ん?
目じゃなくて鼻……と言いましたか? ラザリア様。
「そ、それよりもお二人はどうしたのかしら?」
気になることが多いですが、部屋まで来ていただいた要件を聞くことにしました。
それを聞いたラザリア様は、両手を合わせて思い出したかのように話し始めました。
「そうでした! 台詞合わせの後に、私がフィリア様の演技の指導を担当することになりましたの!」
演技の指導ですって!
これは願ってもないことですよ! フィリア!
「そうなんですの! それは助かりますわ。 さっきまでランディル殿下にも笑われていましたから」
私の話を聞いたラザリア様の表情が消えていくよう……に見えました。
後ろではチャーニさんがハリセンを手で叩いていました。
その音が聞こえると、ラザリア様の表情が戻ったように見えました。
気のせいだったのでしょう。
「……では、早速始めようと思いますが、何故殿下はドレスなど着ているのですか?」
ラザリア様が殿下を見て質問しました。
「そうだね、女装を演じるならと着せられたのが始まりかな」
そういえばそうでしたね。
普通に受け入れていたので忘れていましたわ。
それを聞いたラザリア様の顔が一瞬輝いて見えました。
「なら、フィリア様も男装なさらないといけませんわね」
ラザリア様がもっともな事を言うと、サシャがいつの間にか男物のお召し物を持ってきました。
「では、お嬢様にも着替えてもらいましょう」
私はサシャに、あっという間に着替えさせられてしまいました。
それを見ていたラザリア様が、一瞬しょんぼりしていましたが、私の男装を見た瞬間に破顔していました。
なんでかしら?
「へぇ〜、フィリア君は男装がとても似合っているね」
殿下からお褒めの言葉を頂きましたわ。
当然です! 悪役令嬢に憧れるならですわ!
「ではフィリア様、男の方の喋り方で、会話をしてみましょう」
わかりましたわラザリア様。
演技ではない、私の実力をお見せしますわ!
一度深呼吸をして……。
やりますわよ。
「そうだな、自己紹介からしてやろうか、あ?」
そうそうこんな感じですわ!
「おれはよぉ、フィリアってんだ、よろしくな!」
調子出てきましたわ!
「ラザリアの後ろにいるお前、チャーニ。 さっきから黙って無いで俺の感想言ってみろよ、あぁ?」
あれ? チャーニさんが震えていますね。
あぁ、私の実力に震えているのですね!
「……フィリア君?」
殿下が話しかけてきましたわ。
「なんでぃランディル殿下よ」
殿下、なんで口元抑えて肩まで震わせているのですか?
「もうだめだ! あはははははは! フィリア君には笑わせてもらってばかりだな!」
えええええ! 私笑われていたのですか!?
「……フィリア様、なんですかそれ? お店に来る荒くれ者みたいですよ」
チャーニさんまで!
ラザリア様は!?
なんか興奮していますね……。
あ、ヨダレが垂れました。




