11・フィリア畑で捕まえた
「なに、その荒くれ者……」
私を見ながら殿下が言いました。
サシャも隣で頷いていました。
そしてマイク様は怯えながら私を見ていました。
というのが昨日の出来事でしたね。
私は畑を耕しながら何がいけなかったのか反省しています。
台本ではザックは傭兵で、面倒ごとは好まない人物らしいのです。
「難しいですわね」
鍬を振り下ろしながら考えました。
「それにしても、いい感じに耕せましたわね」
私は鍬を地面に立て、片手で押さえながら、首から下げていたタオルで汗を拭いました。
服装は汚れてもいい様に、上下だぼだぼの上着を羽織って、長靴を履いています。
日差しも強いので、帽子もしっかりかぶっていますわ。
——ここは私の畑。
畑の目立つところに立て札があります。
“フィリア畑”
まだ何も無いですが、畑に植える物は決めてあります。
お芋とキャロット。
それと薬草ですわ。
お芋やキャロットは簡単だと聞いてますの。
薬草は……植えておけばいいのかしら?
畑を耕し終えてから、サシャに買ってきてもらっていた畑の作り方の書物を開いて確認しました。
「腐葉土を一緒にすると土が元気になるのですね……ふむふむ」
アイテム袋からサシャが用意してくれた腐葉土の袋を取り出し、畑に撒いて耕した土と混ぜていきます。
「どうでしょう。 いい感じではないですかね」
「後はこのお芋とキャロットの種を植えていけばいいのですよね」
種を均等に植えていきます。
薬草は……、畑を囲む様に植えましょうか。
私は腰を屈めながらせっせと植えていきます。
無心で植えていたせいか、いつの間にか終わってしまいました。
「……腰にきますわね」
腰をトントン叩いて思います。
農業する方は凄いですわ。
こんな過酷な労働とは思いませんでした。
これからはもっと食材に感謝を込めないといけませんわね。
…………。
何か忘れていますわね。
「あっ! 思い出しましたわ。 私の演技の事でしたね」
畑に夢中ですっかり頭から離れてしまいましたわ。
今から練習してみましょう。
お水をあげながら。
私はタブに入った水を、レードルを使って撒きます。
「ほーらお前たち、水だぞ。 しっかりと味わえよ」
……なんか違いますわね。
「君たち、僕が水をあげるんだ。 感謝したまえ」
……これは全然違いますわね。
「あー、だりー……。 ほら、水だぞ」
……美味しくなりそうになりませんわね。
「デュフフフ……。 ぼ、ぼくの……み、みずをあげるね。 デュフフフ」
………………完全にダメな気がします。
「フィリア様、何をなさっているのですか?」
「!?」
突然後ろから話しかけられたので、私の口から心臓が飛び出るかと思いましたわ。
ドキドキしながら振り向くと、そこにはチャーニさんとラザリア様がいました。
ラザリア様は何やらノートを大事そうに抱えていらっしゃいますが。
「お二人とも……、ど、どうなさいましたか?」
少しばかり驚いてしまって上手く喋れませんわ。
「フィリア様が何かやられていたようなので」
そうですわ! チャーニさんに聞いてみましょう。
「実は、演劇のことを考えていましたの」
チャーニさんとラザリア様が、うんうんと聞いてくれています。
「上手く男性の演技というものをやるにはどうすればいいのかと思いまして……」
それを聞いたチャーニさんは直ぐに答えてくれました。
「やはり常日頃、男性の格好をして演じるのはどうでしょうか?」
その言葉を聞いて、私は先日のサシャが殿下に言った言葉を思い出しました。
『お言葉ですが、ランディル殿下! 役を演じるのに何故そのままだと言い切るのですか? 慣れない演技だからこそ、普段から演じるのです!』
そうでした、私自身その言葉を実践しなくてどうするのですか!
「そうですわ! 私としたことがそこを見落としていましたのね」
私はチャーニさんの手をがっしりと握り、感謝の言葉を言って、職員室へ向かいました。
*
チャーニとラザリアがフィリアと出会う少し前のこと——。
「チャーニさん! 一緒に来てくださいな!」
私は問答無用でラザリア様に校舎の外へ連れて来られました。
「一体どうしたというのですか?」
私が聞くと、ラザリア様が泣きそうな顔をして言いました。
「授業が終わった瞬間にフィリア様が消えてしまったのです! 一緒に探してくださいませんか?」
はい。 いつものラザリア様がいました。
私は泣きそうなラザリア様を宥めながら、学園を回りました。
フィリア様を探しながら中庭まで来ると、ラザリア様は目に涙をいっぱい浮かべ、今にも泣き出しそうでした。
(ラザリア様〜! こんなところで泣かないでくださいよ!)
そんな時、離れたところから三人の女学生が話しているのが聞こえました。
「最近、奥にある花壇だったところに鍬を持った人がいるって話聞いた?」
「え? 何それ」
「あまり近寄りたくないわね」
そんな話をしています。
……まさかね。
でも、行ってみますか。
手がかりもないですからね。
私は半べそ状態のラザリア様の手を引きながら、噂の場所を探しました。
すると、一番奥の花壇にしゃがんで何かを植えている人がいました。
私は近づいて、茂みの中へ二人して身を潜めました。
「……腰にきますわね」
腰をトントン叩いている人物の声——。
フィリア様でした。
一体何をしているんですか?
その姿は伯爵令嬢からかけ離れ過ぎています。
何かを思い出したと声に出しながら、フィリア様はレードルを使って水を撒き始めました。
「ほーらお前たち、水だぞ。 しっかりと味わえよ」
………………え?
「君たち、僕が水をあげるんだ。 感謝したまえ」
………………何事?
「あー、だりー……。 ほら、水だぞ」
………………疲れたのかな?
「デュフフフ……。 ぼ、ぼくの……み、みずをあげるね。 デュフフフ」
………………聞いてはいけないものを聞いてしまった。
隣で身を屈めているラザリア様に目を向けると——。
ムフームフーと鼻息を荒くしながら何かを書き留めています。
……内容なんて怖くて見たくないわ。
流石にこのままと言うわけには行かないので、声をかけることにしました。
私は茂みから身を出し、花壇に近づき立て札を見ました。
“フィリア畑”
なんか、フィリア様がたくさん生えて来そうですね。
それよりも声をかけましょう。
「フィリア様、何をなさっているのですか?」
フィリア様は驚いた様子でこちらを振り向きました。
話を聞くと、どうやら役作りがうまくいかないらしいです。
私はチラリとラザリア様を見ました。
期待に満ちた目をこちらに向けています。
そしてため息を一つついてから、フィリア様に言いました。
「やはり常日頃、男性の格好をして演じるのはどうでしょうか?」
その言葉を聞いたフィリア様は私の手を握り、感謝の言葉を述べて走り去っていきました。
私はラザリア様を見ると、ドヤ顔で親指を立てていました。
……どこで覚えて来るの? その仕草。




