10・殿下とおしゃべりですわ
「では、ランディル殿下。 ここからは私とおしゃべりをしましょう」
私は殿下とおしゃべりをする提案をしました。
「サシャは少し大人しくしていてもらいますわ」
「そ……そんな」
そんなにがっかりしなくてもよろしいではありませんか。
肩を落としたサシャはそっとしておきましょう。
「では、始めましょうか」
「ああ、よろしく」
「ランディル殿下、さっそくダメですわ」
殿下は思わず手を口に当てます。
なんでしょうか、仕草は可愛いのですよ、殿下。
「ああ、よろしく。 ではなく、「ええ、そういたしましょう」もしくは「わかりました」などを用いましょう」
「そ……そうですわ……ね。 失礼……しましたわ」
殿下は素直に謝り、言葉遣いも直してきました。
ぎこちなさは、その内消えますわ。
私はお茶を一口飲んでから会話を始めました。
「あら、このお茶は良い香りがしますわね。 殿下もお飲みになってください」
殿下に話を振ると、殿下もお茶を一口飲んでから会話を始めました。
「ほ、本当に……美味しい……ですわ」
顔を赤らめながら話す殿下、頑張り屋さんですね。
私も頑張りますわよ。
その後、日常的な会話をしながら、殿下は徐々に言葉遣いに抵抗が無くなってきた感じがしますわ。
女性の私から見ても、殿下が本当の女性に見えてきますね。
声なんか、元々女性的な感じがしていたのに、言葉遣いを変えたら本当に女性と言われても信じてしまいますわ。
そして会話は続いて行きます。
「フィリアさんは、角うさぎのうさぴょんとどのように仲良くなれたのかしら? 私気になって」
殿下の話し方と仕草、この短時間で完成度が高いですわ。
「そうですね。 出会いはアルベン領へ行った時ですわね。 ギルドの依頼を受けた時、森の中で出会いましたの。 もう、あれは運命ですわ」
私とうさぴょんの出会いを思い出しながら、床で寝そべっているうさぴょんを見ました。
「そうなんですのね、羨ましいですわ。 私はお城から自由に出られませんので」
話が少し逸れましたか?
少し殿下が悲しそうに俯きましたが顔を上げて言いました。
「それでも私はお兄様のお手伝いをすることには後悔などしていませんわ。 でも、行けたら行ってみたいですわね」
なんでしょうか、殿下の本心を聞いている感じがしてきました。
……気のせいですわよね。
少ししんみりしていた時に、部屋の外からこちらへ向かって走ってくる足音が聞こえてきました。
そして——。
「殿下ああああああ!」
叫び声と共にまたしてもマイク様が現れました。
「フィリア・モンティーレ! 貴様、殿下を何処へ隠した!」
またですか!?
マイク様は私を見るなりそんなことを言い始めました。
マイク様は怒鳴りながら私の前に座っていた殿下に気がつきました。
「おお! 麗しのプリンセスよ! 再び巡り合わせてくれた神に感謝を!」
素早い動きで殿下の前にひざまづき、これまた素早い動作で手の甲に口付けをしていました。
殿下の顔がみるみる歪んでいきました。
「マイク様、申し訳ありませんがその方にあまり……」
私は殿下からマイク様を離そうとしたら、向こうから私に近づいてきました。
「そもそもなんで貴様のところに殿下がくるのだ!」
えぇぇ……。
私にマイク様の注意が向いている間に殿下は浴室へ消えて行きました。
「そ、そう言われましても、演劇の練習としか言いようがありませんわ」
私は間違ったことは言ってませんわ。
たじろぐ私に、食ってかかるマイク様。
そんなマイク様の後ろから肩に手を置く人物が現れました。
「マイク、いい加減にしようか」
それは殿下でした。
「殿下! ご無事ですか?」
殿下は「無事だよ」と言ってマイク様を落ち着かせるのですが、今度は別のことで騒ぎ始めました。
「は! いつの間にか私の麗しのプリンセスが消えてしまった! 一体何処へ消えてしまったんだ!」
私はその麗しのプリンセスに顔を向けました。
麗しのプリンセスは深いため息をついていました。
「貴様! またしても私のプリンセスを隠したな!」
お顔を真っ赤にしながら私に文句を言ってくるマイク様。
「ランディル殿下、どうしましょう」
困り果てた話は殿下に助け舟を求めました。
そこへ殿下は何やらニヤリとして私を見るのです。
「そうだフィリア君、君の実力でマイクを黙らせると言うのはどうだろうか? ほら、君は傭兵役だろう?」
なんと、ここでザック役が出来るのですか!?
ちょっと嬉しく思いながら、私は確認しました。
「よろしいのですか? マイク様は宰相様の息子様ですし……」
その言葉を聞いた殿下は言いました。
「構わん。 僕が許す」
殿下の許可が降りました。
確かに悪役令嬢でも男性に変装する話もありましたしね。
それをザックに置き換えるのです。
行くわよ! フィリア!
意識を男性に変えるのです!
日頃の練習がものを言いますわよ!
一度深呼吸をしてから、マイク様を鋭い目つきで睨みつけました。
「貴様! なんだその目は!」
私は素早くマイク様の懐に入り込み、体を少し持ち上げて壁側に押しやりました。
そして壁に手を、ドンです!
ミシリ……
そして相手を見ながら低い声で言うのです。
「……おい、少しは静かにしろや。 さっきからぎゃーぎゃーうるせぇんだよ」
マイク様は目を白黒させています。
どうですか、私の完璧な演技は!
そんな私を見た殿下が一言言いました。
「なに、その荒くれ者……」




