6・ランディル殿下、練習します
まだ殿下はいらっしゃいますかね。
私はSクラスへ向かいました。
教室の前まで行くと、ちょうどランディル殿下が教室から出てくるところでした。
取り巻きの方はみなさんいないようです。
「ランディル殿下」
「フィリア君か、どうしたんだい?」
「はい。 手紙を拝見し、私なりの練習方法を思い付きましたので、ご連絡をと思いまして」
ランディル殿下の顔が少し嬉しそうに目を見開きました。
「そ、そうか。 僕もやるからには完璧を目指したいからね」
「そういうことなので、コレを」
私はオーブル先生から頂いた、女子寮入寮特別許可書をランディル殿下にお見せしました。
「……フィリア君、コレは?」
「はい。 誰にも気づかれずに特訓するには丁度よろしいかと思いまして」
「練習ではなく特訓?」
「早速いきましょう!」
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ」
ランディル殿下は教室の黒板に行き先だけを書いていました。
「これで大丈夫だ」
私は女子寮にランディル殿下をお連れするのでした。
*
寮にたどり着いてから、私は寮母様に許可書を提出すると、大変驚かれていました。
そうですよね、ランディル殿下が来るなんて思いもしませんよね。
私は殿下を自分の部屋へ案内いたしました。
「フィリア君、ここは?」
「私の部屋ですわ。 椅子に座ってお待ちいただけますか?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
殿下が椅子に座ると、テーブルの下からうさぴょんが出てきました。
「キュ?」
「うわ! 魔物が!」
ランディル殿下は驚き、勢いよく席から立ち上がりました。
「大丈夫ですわ。 おいでうさぴょん」
うさぴょんは私のところへ飛び跳ねながらやってきます。
私はうさぴょんを抱きかかえ撫でました。
「この子はうさぴょん。 私の可愛い相棒ですわ」
「だ、大丈夫なのか? もしかしてテイムしているのか?」
「はい、テイムしましたわ。 角の部分にリボンを結んで可愛くしていますの」
ランディル殿下は珍しそうにうさぴょんを見ています。
「抱いてみますか?」
「大丈夫かい?」
不安そうにしている殿下に、うさぴょんを手渡しました。
「なんと……こんなにも大人しいものなのか?」
「ランディル殿下はそこでうさぴょんとお待ちください。 直ぐに用意致しますわ」
「用意?」
私はクローゼットの中からあまり着ていないドレスを一着取り出しました。
背丈は私と変わらないですし、なんといっても殿下は線が細いからきっと似合いますわ。
「ランディル殿下、こちらをお召しになってください」
私の顔と手に持っているドレスを交互に見て、殿下の顔が引き攣っています。
「……本気かい?」
「勿論ですわ! ランディル殿下の演劇に対する気持ち、しっかりと受け取っていますから。 私も妥協するつもりはありませんの」
「し、しかしだ。 ドレスなんて冒頭の部分しか着ないだろ?」
顔を引き攣らせながら殿下は言いました。
「あまいですわ! ドレスは基本です、その後も女性としての振る舞いは続くのです!」
さあ、さあ、さあとドレスを手に殿下に詰め寄ると、殿下も合わせて後退りしていきます。
こうなったらサシャ直伝、壁ドンですわ!
*
僕は今、ピンチに陥っていた。
役作りのために協力を仰いだだけなのに、ドレスを手にしたフィリア嬢に詰め寄られている。
頼む相手を間違えてしまったか……。
最初に教室に入った時は、大人しそうな女生徒に見えたんだ。
女性の仕草などのレクチャーと、軽い動作指導をしてくれれば良かったのだが、まさかここまで強引とは思わなかった。
ひょっとして、僕の説明が悪かったのかもしれない。
気がついたら、流れるように彼女の部屋まで連れてこられた。
何がどうなっているんだ?
そして今、僕は逃げ場のない壁際まで追いやられてしまった。
ドンッ!
フィリア君の右手が壁に勢いよく叩きつけられた。
今、壁がミシリと音を立てていた気がするのだが……。
「さあ、ランディル殿下。 演技のためです、覚悟を決めてくださいませ」
左腕にドレスを掲げて顔を近づけてくる。
なんだか目が怖い。
そんな彼女の迫力に、僕は白旗を上げた。
「わ、わかった。 着るから離れてくれないかな?」
彼女は嬉しそうに離れてくれた。
フィリア君は着替えを手伝おうとしてくれたが、そこは遠慮した。
彼女はしばらく外に出てくれるそうだ。
「……覚悟を決めるか」
僕は衣類を脱ぎ、彼女の用意してくれたドレスを身に纏った。
「こんな感じだろうか」
よくわからないが、僕はその場でくるりと回ってみた。
「ドレスというものはこんなにもヒラヒラするものなのか」
僕はとりあえず、椅子に座って彼女が戻ってくるのを待つことにした。
「キュキュ……」
足元に角うさぎのうさぴょんがやってきた。
僕はうさぴょんを膝の上に乗せて話しかけた。
「君のご主人様はいつ戻ってくるのだろうな」
「キュ……」
おや、本当に触り心地がいいな。
頭から体に向かって撫でていたら、扉が開いて人が入ってきた。
フィリア君かと思ったら、メイドが僕の方をじっと見ていた。




