20・サシャとの模擬戦
久しぶりにサシャと素手で模擬戦をしました。
やはり全然敵いません。
「サシャはやはり強いです」
「そんなことありませんよ。 お嬢様も動きが良くなっています」
そう言われても、サシャが相手だと実感が湧きませんわ。
私だっていつまでも負けっぱなしのままではいきませんので特訓です。
何かないかとアイテム袋を覗いて見ると、それはありました。
急いで部屋に戻り、その書物を取り出しました。
悪役令嬢が辺境で畑を作って生活をする話!
「さあ、読みますわよ!」
——一時間後。
「ふぅ……よかったですわ。 そうですよね、食べ物は大事ですよね。 これならいつでも練習できそうですわ」
そう、サシャにも手伝って貰って——。
「違いますわよ、私! これじゃない。 いえ、とても大事ですが」
私は再びアイテム袋から厚みのある塊を取り出しました。
「そう言えば一緒に買いましたわね……絵本」
タイトルは剣神伝説、全八巻セット。
「私も剣は扱えますが、別に剣士になりたい訳ではありませんし……」
そんなことを言いながら、ページを捲ります。
「こ、これは……これならサシャに勝てるのではありませんか!?」
夢中になり絵本を読みふけりました。
「意外に面白かったですわね。 私にもできるかしら?」
読んでいた本を片付け、私は闘気とやらを使えるようになるため、特訓を始めました。
体の中にある魔力とは違う力、それを身体中に巡らせる、そう書いてありました。
絵本なので細かく書いている訳ではありませんから、ここからは色々やるしかありませんわね。
何をすれば良いのかわからないですが、まずは色々動いてみましょう。
「やっ! とうっ! へやっ! にょわっ!」
もっとこう、凄い動きにしてみましょう。
両手両足、体もプルプル震わせてみました。
そしてくるくる回ってみました。
何回か回ると——。
いつものように突然サシャの姿が目に飛び込んできました。
「……お嬢様、また怪しい事を始めましたね」
「にゃっ! サシャ! これは違うんですのよ!」
「大丈夫ですよ。 もう慣れましたから」
「サシャああああ!」
*
「サシャに聞いてみたいことがあります」
「私にですか?」
「サシャは魔力以外の力はあると思いますか?」
「しっかりと体を鍛えればよろしいのでは?」
そうじゃありませんの!
「そうですわね……剣から斬撃を飛ばすとか」
私の言葉にサシャは何かを思い出したようです。
「噂なら聞いたことがありますね。 なんでもSランクの一部の人が剣から斬撃を飛ばすというのを」
なんと、噂でもあるのですか!?
「噂でもあるのですね」
「あくまで噂に過ぎませんよ?」
まさかあの書物は実在のことを書き記したものだったりとかしませんわよね。
巻末に、一部を除き創作と書かれていましたから。
希望が見えて来ましたわ!
「打倒、サシャですわ!」
「……ふっ、面白いですね。 受けて立ちましょう」
「なんでこと! 思わず口から出てしまいましたわ!」
焦る私を見ながら、サシャは楽しそうに指を鳴らし始めました。
そんなことを数日間続けていました。
——とある日。
サシャとの模擬戦も楽しくなっていたときに、それは突然訪れました。
サシャに接近するにしても、もっと速く動かないとダメです。
私は絵本に書かれていた闘気を意識しながら、身体の中にある力に集中しながらサシャに飛び込んで行きました。
突然私の中から何かが湧き上がる感触があり、それを受け入れるように動いたときでした。
サシャの姿が突然目の前に迫ったのです。
「なっ!」
サシャの驚く声が聞こえ、サシャは初めて防御をしました。
「今のは何ですか!?」
サシャは驚きを隠せていないようです。
私は身体が軽く感じます。
——しかし、終わりは突然訪れます。
突然訪れる倦怠感に、私はサシャのデコピンを喰らって終わりました。
「ああ、また負けましたわ」
サシャがタオルを持って私に手渡してくれました。
「流石サシャです、全然届きませんわね」
「お嬢様、先ほどのあれは一体……」
「先ほどのとは?」
「お嬢様の動きが突然速くなったのです。 私はその一瞬防御をしてしまいました」
あれは夢や幻では無かったのですね。
「ふふふ……そうですか、私にも出来てしまったのですね」
私はサシャに絵本のことや、先ほどのことを話しました。
「にわかに信じられませんが……先ほどのお嬢様からは魔力を感じませんでした」
サシャは先ほどの私の動きを思い出しているのか、その場で身体を動かし始めました。
「なるほど、こんな感じですか?」
そんなことを言った瞬間、サシャの動きが今までにないくらい速くなっていきました。
……ちょっと待って下さい。
サシャは何ですぐに出来るのですか!?
ずるいですわ。
*
休みも残すところあとわずかです。
毎日勉強をしたり、サシャと運動をしたり、アレスとうさぴょんと遊んだりしていました。
「お嬢様、そろそろ学園寮に向かいませんと」
「そうですね」
私とサシャ、それとうさぴょんは学園の寮へ向かうのでした。
お父様は泣きながら手を振っていましたわ。
お母様は扇子でお父様の頭を叩いています。
アレスも手を振っています。
また、帰って来ますわ。
この楽しい家に。




