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4・麗人

 コンコンコン……


「あなた、大丈夫ですか?」


「どうしました?」


「先ほど走り込んできた方なんですが、中でゴソゴソ音がしたり、唸り声が聞こえてくるので具合でも悪いのかと」


 ガチャ……


 扉が開き、中から出てきたのは男性のような方でした。


 長い髪を後ろで纏め上げ、キリッとした顔立ち。


「失礼、お嬢さん。 心配をかけてしまったようだね」


「ひゃっ……ひゃい!」

 

 美しい麗人は、女子生徒の頬に手を当て微笑んだ。


 赤面した女子生徒から手を離した麗人。


「……わたくし、今日はもう顔を洗いませんわ」


 御手洗いから出ていく麗人を見て、そばにいた別の女子生徒が、


「あのお方、手を洗っていなかったですよね……」


 そう言って、赤面している女子生徒を見るのだった。


    *


 購買所で買った男性用の運動着ですが、思ったより女性用と変わらないですね。

 

 さて、ラザリア様たちはどこにいらっしゃいますの?


 私は辺りを見回しました。


 それにしても、なぜだか私を見る人が多い気がします。


 気にしても仕方ありません。


 校庭の中ほどで見知ったクラスメイト達が集まっているのを見つけました。


 見つけました。


 私はラザリア様の後ろから近づきました。


「遅れてすまない」


「どちら様でしょう……」


 セタ君が途中で言うのを止めて、目を丸くしています。


「フィ……フィリア様!? どうしたんですかその恰好は!」

 

「え? フィリア……さま?」


 チャーニさんも目を大きく見開いています。


「そうだが? 僕以外の誰に見えるんだい?」


「いや……え? 言葉遣いも違います…………よ」


 ラザリア様も後ろを振り向いて、私を見ます。


 しかし、ラザリア様の反応は違いました。

 

 私を見るなり、お顔が真っ赤になりました。


「な……ななな……」


 ラザリア様は震えながら私を指さしています。


 ふらつき始めたラザリア様が危なかったので肩に手をやり支えて差し上げました。


「大丈夫かい? ラザリア」


 ラザリア様はぷしゅーっと音を立ててその場で意識を無くしてしまいました。


「ちょ……フィリア様、なにを」


 見ていたチャーニさんが慌てだしました。


 ラザリア様、男性のお姿の私に恐れをなして倒れてしまいました。


 昔読んだ悪役令嬢物の定番の一つ、練習していた甲斐がありましたわ。


 私はラザリア様を木陰のある場所まで運び、横にしてあげました。


「あ……あのフィリア様? なぜそのようなお姿を……」


 セタ君が恐る恐るたずねてきました。


「セタ、君には申し訳ないと思っているよ。 僕の浅はかな提案で君を困らせてしまったからね」


 ここでフッと笑って見せましたわ。


 どうですか!


 悪役令嬢っぽく振る舞えたはずです。


「そんな……俺……いや、僕なんかのためにそこまで気を使わせてしまって……」


「気にするな。 君だけのためではないさ。 僕自身のためでもあるからね」


「……僕自身?」


「いや、なんでもない」


 セタ君との話を終えて、ラザリア様を見るとチャーニさんが介抱していた。


 チャーニさんの介抱のおかげで、ラザリア様が目を覚ましました。


 ラザリア様の目がカッと見開き、飛び起きました。


「麗しの殿方は!?」


 そこへ先生の号令が聞こえてきました。


「お前たち集まれー」


 その声に、チャーニさんがラザリア様を立ち上がらせて歩き出しました。


 その後を、私とセタ君がついて行きます。


「よし、揃ったな。 説明するぞ」


 オーブル先生の説明が始まりました。


 まず、体力測定からです。


 その後に魔力測定。


 最後にチーム戦だそうです。


「ところで……お前はなんでそんな格好をしているんだ? フィリア」


 クラス全員が私を見ました。


「ちょっ、フィリア様なの!?」


 浮き足立つ女子生徒。


「俺達より美男子なのか……」


 項垂れる男子生徒。


 更には後ろを振り向いて驚くラザリア様。


「先生、気にしないでください」


「……そうだな、フィリアにばかり時間は割けないからな。 男子から始めるぞ」


 先生は私から目を逸らし、体力測定を始める合図をしました。


    *


「女子もフィリアで最後だな」


 私で最後です。


 頑張りますわ。


「まず握力から」


 私は握力計を握りしめました。


 先生は無言で記録していきます。


 続いて柔軟です。


 柔らかさには自信があります。


 サシャに硬すぎますと、よく呆れられていましたから特訓いたしました。


 次です。玉投げです。


 普通によく飛んだと思います。


 記録係の人が走っていきます。


 短距離走。


 かけっこには自信がありません。


 昔はサシャから、よく逃げ出していました。


 部屋から逃げ出すと、必ず屋敷の門のところで、あっというまに捕まってしまうのです。


 きっと、私の足が遅いからなのでしょう。


 全ての記録が取り終わると、先生が言いました。


「フィリア、お前は冒険者にでもなるつもりか?」


「なりませんよ?」


 私は悪役令嬢になるのですから。


 先生はため息をつきながら一言。


「Cランク上位、下手したらBランクの基礎体力だぞ……これ」


 記録が終わると他の女子生徒から質問攻めにあいました。


「短距離走の姿勢が美しいです!」


「どのような鍛錬をされているのですか?」


「羨ましいくらいに柔らかなお体です!」


「本当にフィリア様なのですか!?」


 暫く私の周りは騒がしくなってしまいました。


 私の中で、悪役令嬢としての自覚が芽生え、自信に繋がりました。

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