11・大きな魔石
アルベン邸に戻ってきた時——。
うさぴょんを見た使用人の人たちが驚いていました。
剣を持った男性の方や、鍋蓋を持ったメイドたち。
料理人まで包丁を手に持ち、うさぴょんを見ながら舌舐めずりしているので驚きましたわ。
「騒がしいが、何があった?」
クランツ様が階段を降りてきました。
この人が現れたら、使用人たちは静まりました。
そして私と目が合いました。
彼の視線は徐々に下へ下がっていき、
うさぴょんで止まりました。
「角うさぎ?」
クランツ様の視線は再び私の顔へ戻り、
「この魔物、随分と大人しいみたいですが、どうしたのですか?」
私は昼間あった出来事を話しました。
「なるほどテイムか、珍しいな」
珍しそうにうさぴょんを見るクランツ様は、手を伸ばしてきました。
「……触っても?」
「どうぞ」
クランツ様はなんだか嬉しそうにうさぴょんを撫でました。
そこへ屋敷の扉が開き、キルデ様とマイラー先生が入ってきました。
「おや? みなさんお揃いでどうしました?」
キルデ様が不思議そうに聞いてきました。
そんなキルデ様がうさぴょんに気がつき、
「僕、うさぎ大好物なんだよ」
お腹を鳴らしながら近づいてきます。
私はうさぴょんを庇いながら後退ります。
そこへクランツ様が割って入りました。
「キルデ主任、結界はどんな感じでしょうか?」
話題を振られたキルデ様はクランツ様へ向きなおり、話始めました。
「よくぞ聞いてくれました! 老師がいてくれたから実験はかなり進んだよ! 後は大きな魔石に術式を刻み込んだら完成も間近だよ!」
「なぁに、お前さんの頑張りじゃろ。 だがな、完成するまで喜ぶなよ」
さすがマイラー先生。
喜び過ぎるキルデ様に釘を刺していました。
私はうさぴょんをクランツ様に抱かせて、サシャからアイテム袋を受け取りました。
「ちょ、フィリア嬢……」
クランツ様はうさぴょんと見つめ合っていましたわ。
私はアイテム袋から魔石を取り出して、手に持ちました。
「この魔石をキルデ様にお渡ししますわ」
それを見たキルデ様の目の色が変わりました。
「フィリア嬢、それは?」
クランツ様がうさぴょんを抱きながら聞いてきました。
「えーと……、確か大きな虎、でしたね」
名前を覚えていませんでした……。
「お嬢様、サーベルタイガーですよ」
ありがとうサシャ。
『サ……、サーベルタイガーだってえええ!?』
ホール内が騒然としてしまいました。
「聞くが、後ろの冒険者たちが討伐したのかな?」
クランツ様はキース様たちを見ながら確認してきました。
「い、いえ、俺たちは何も……」
キース様は少し困ったようにサシャを見ながら答えました。
「では一体誰が……」
今度は私を見てきました。
私はサシャを見て「彼女、サシャですわ」と、誇らしげに答えました。
クランツ様はうさぴょんを私に手渡して、額に手を当てながら「信じられない」と、呟き始めてしまいました。
「そんなことより、これ使っていい? いいんだよね!」
キルデ様は興奮しながら魔石を撫で回していました。
「どうぞ、使ってください」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、小躍り様ながらマイラー先生を掴んで屋敷を出て行こうとしましたが、マイラー先生が抵抗し始めました。
「ま、まてキルデよ! お腹ぺこぺこなのじゃ! 何か食べないと!」
「大丈夫ですよ! 老師! 僕はもうお腹いっぱいですから!」
キルデ様絶好調ですわ。
「お主がよくても、儂はいやじゃああああ!」
マイラー先生の抵抗は虚しく、叫び声は屋敷から離れていきました。
マイラー先生、先ほどの釘は台無しですわね。
*
——次の日。
「フィリア嬢たちには驚かされたな」
俺は昨日のホールでの出来事を思い出していた。
「そうですね、クランツ様がうさぎを渡された時には思わず笑ってしまいそうになりましたよ」
「ルドルフ、突然渡されてみろ、どう反応すればいいんだ」
俺も自分のことなのに、笑いが込み上げてしまいそうだった。
「それに、あの魔石だ。 よく手に入れたものだ」
メイドがサーベルタイガーを倒しただなんて、俄かに信じられなかった。
「お前はどう思う、ルドルフ」
「理由はどうあれ、善意で手に入れてくれた魔石ですからそこは素直に喜ぶべきかと」
「……そうだな」
ルドルフと今後の話をしようとした時に、部屋をノックする音がした。
「入れ」
扉が開き、ダナトスが入ってきた。
「失礼します、クランツ様」
ルドルフは書類を持って俺の前までやってきた。
「こちら、キルデ様より報告書が届きました」
ルドルフから書類を受け取り、目を通した。
「なるほど、魔石による結界は成功したらしい」
俺は続きを読んだ。
そこには魔石の必要数などが記載されていた。
「……よし、兵の準備が整い次第森に向かってもらう」
ようやく、ここまで来たな。
「ダナトス、兵舎に連絡を入れてくれ」
俺はダナトスに森へ向かう兵士たちを動かすことにした。
「かしこまりました」
ダナトスは部屋を出ていった、




