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9・サシャの受けた依頼

 出かけに見たキルデ様の様子だと、もっと大きな魔石が必要になるでしょう。


 お嬢様は冒険者に任せましたので、素早く依頼をこなしましょうか。


 私は気配を探りながら森の中を走り抜けていきます。


「目撃情報と、依頼内容ではこの辺りのはずですね……」


 私は気配を探り、当たりを付けました。


「いましたね」


 そこには大きなトラがいました。


「サーベルタイガー……間違いなさそうですね」


 巨大な体に巨大な牙。


 手足には獰猛な爪が伸びている魔物です。


 依頼内容はサーベルタイガーの討伐。


 そこには魔石は含まれていません。


「貰いますよ。 その魔石」


 私は駈け出します。


 向こうも私に気が付いて、迎え撃つかのように身構えます。


 久しぶりに強敵に挑む感覚……。


 接敵と同時にサーベルタイガーは手を使って私を叩き潰そうとしてきた。


 私はシールドを展開し、それを防ぎ――、


 そのまま相手の顎を蹴り上げようとしましたが、


 すんでの所でサーベルタイガーは後ろに飛び退きました。


「……面白い!」


 そこから私とサーベルタイガーの戦いが始まりました。


 私は地を蹴り相手との距離を一気に詰める。


 サーベルタイガーも距離は取れないと悟ったのか、近距離の戦いへと切り替えてきました。


 お嬢様が面白い事をしていましたね。


 私は戦いながら、先ほどの光景を思い出しました。


 そう、シールド魔法の一点集中型です。


 魔力量の少ないお嬢様が、本能的に行ったのでしょう。


 あれは使える!


 その瞬間、私は両方の拳にシールドを纏わせました。


 あとは防御、相手の攻撃が当たる瞬間だけの一点シールドの展開が出来るかです!


「試させてもらいます!」


 サーベルタイガーの素早い爪による攻撃が私に迫る。


 点で発生させた極小のシールドに、


 爪が当たる――。

 

 だが、受けきった!


「いける!」


 私は久しぶりに、この戦闘を楽しみだした。


    *


「遠くから凄い音が聞こえてくるけど、サシャさんは無事なのか?」


 俺は音が気になり、フィリア様に尋ねてみた。


「キース様、サシャなら心配ないと思うわ。 それよりこのうさぎさんたちはどうしたのかしら? ちっとも動きませんわ」


 フィリア様はサシャさんを心配するより、自分で地面に刺した角うさぎが動かなくなっている事の方が気になっているようだ。


「……おそらく頭に血が上って動かなくなっただけ」


 ダリアはナイフを取り出し、解体しようとしていた。


「フィリア様。 この角うさぎから魔石を取り出しましょう」


 アランが提案した。


「……そうですわね。 キルデ様も必要とするかもしれませんしね」


 フィリア様は懐いた角うさぎを抱えながら、地面に刺さった角うさぎから魔石を取り出すのに賛成した。


「それなら、私たちでやるからフィリア様はその薬草を仕舞っていてください」


 リリアがフィリア様に薬草を仕舞うよう促した。


「そうですか? ではよろしくお願いいたします」


 俺たちは地面に刺さっている角うさぎから魔石を取り出す作業を開始した。


 俺はさっきから聞こえてくる戦いの音が気になっていた。


 角うさぎの魔石回収は順調だ。


 動かない角うさぎから取り出す簡単なお仕事だったからだ。


 音が近づいてくるのが気になるが……。


 地面に刺さっているすべての角うさぎから魔石を回収した俺たちは、アイテム袋に角うさぎを収納しておいた。


 フィリア様もギルド指定の袋に薬草を詰め終わり、角うさぎを撫でまわしていた。


 その時、戦闘する音が近くまで来ていた。


 音のする方へ全員が首を向けた。


 木をなぎ倒しながら、何か巨大な物が飛んで来た。


 それは、よろよろと立ち上がったサーベルタイガーだった。


「サーベルタイガー!」


 俺は叫んだ。


 あれはAランクパーティが相手をする魔物だ。


「まさか……サシャさんが受けた依頼って……」


 なぎ倒された木の奥から歩いてくる音が近づいてくる。


 奥から現れたのは――、


 どこも乱れた様子のないメイド姿のサシャさんが歩いてきた。


「なかなか素晴らしかったですよ。 あなたは」


 サシャさんの声に怯え始めているサーベルタイガー。


 俺たちは黙って見ているだけだ。


 下手に入ればこちらが危険だ。


 それに……いつものサシャさんと違って、なんか獰猛な感じがする。


「お前たち……下手に手を出さない方がいいぞ」


 俺は仲間にそう告げた。


 仲間たちも黙って見ている。


「凄く大きなトラですね。 うさぴょんもそう思いますわよね?」


 緊張した場面で、緊張のない声が聞こえた。


 ……うさぴょんってなに?


    *


 サーベルタイガーを吹き飛ばした先にはお嬢様たちがいました。


 そろそろ街に戻らないといけませんね。


 よろめきながら立ち上がるサーベルタイガー。


「なかなか素晴らしかったですよ。 あなたは」


 私は素早くサーベルタイガーの目の前まで移動し、


「最後です。 楽にして差し上げましょう」

 

 私はお嬢様がアルベン邸で見せたもう一つのシールド魔法の使い方を真似た。


 サーベルタイガーの首周りに輪っかにした薄いシールド魔法を展開。


 高速回転をさせながら、輪っかを縮めた。


 その瞬間――、


 サーベルタイガーの命が尽きた。

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