2・アルベン辺境伯邸
本日も晴天。
馬車は進むよどこまでも。
そんな私は課題の山に囲まれます。
サシャは一体これらの書物をどこから出したのでしょうか……。
「外が綺麗ね」
「私語は慎みください」
「……」
「……」
「……この書物の山は」
「私語は慎みください」
「……」
「……」
「おっ、あれがアルベンの街か」
表からキース様の声が聞こえて来ます。
「凄いわね。 しかも大きい街なのね」
リリア様の弾んだ声も聞こえて来ます。
「……うん、ここまで来たことが無かったから楽しみだ」
この声は、確かダリア様でしたね。あまり喋らない印象の女性の方でした。
……楽しそうです。
私は書物を下にずらしてサシャを見ます。
サシャは読んでいた書物から視線だけをこちらに向けて見てきます。
ずらした書物上に上げ、顔を隠しました。
サシャの無言の圧力……。
これがお屋敷なら、すかさず逃げ出していましたわ。
外は快晴。
外から楽しげな声。
なのに私の周りは暗雲立ち込めています。
*
馬車はアルベンの街に入り、クランツ様の屋敷へと向かっているはずです。
「……外が見てみたいですわ」
「集中してください」
そう、私が外に気を取られないように窓はカーテンで閉められているのです。
やるわねサシャ……。
そんなこんなで馬車が止まりました。
外からお疲れ様でしたみなさまと声が聞こえたので、ついた事がわかりました。
書物から顔を出すと、先ほどまで山のようにあった書物が無くなっているではありませんか。
一体いつの間に片付けたのかしら。
馬車の扉が開き、表へ出ると目の前には大きなお屋敷がそびえ立っていました。
白を基調に青色で屋敷の格式を上げるかのように配色されています。
「凄い綺麗なお屋敷ですね」
素直な感想が口から出て来ました。
「お褒めいただきありがとうございます。 フィリアお嬢様」
どうやらクランツ様に聞かれていたらしいです。
「あ、クランツ様。 あまりに美しかったもので、つい言葉が出てしまいました」
そんな些細な会話を壊すかのようにマイラー先生とキルデ主任の会話が飛び込んできました。
「老師! 先ほどの理論をもう一度! もう一度お願いします!」
「なん度言えばいいんじゃ……」
「何度でも!」
「勘弁してほしいのじゃ……とほほ」
「老師ー!」
「誰か助けてくれー!」
小走りに逃げていくマイラー先生を追いかけていくキルデ主任。
二人のやりとりを見て、私とクランツ様がお互いの顔を見て思わず笑ってしまいました。
「ここで立ち話もなんですから中へ行きましょう」
クランツ様が屋敷の中へ案内をしてくれるそうです。
「ルベルト、すまないが騎士や冒険者の案内を頼む」
「かしこまりました」
ルベルト様は言われた通りに騎士や冒険者を別の場所へ案内をしに行きました。
「それでは中へどうぞ」
私とサシャは、クランツ様の後に続いて屋敷の中へ入っていきました。
「お帰りなさいませ。 クランツ様」
「紹介しよう。 我がアルベン家に仕えるダナトス執事だ」
「ダナトスです。 御用の際は何なりと」
「そしてこちらはモンティーレ家の御息女のフィリア嬢とお付きのサシャだ」
紹介されたので挨拶をします。
「お初にお目にかかります。 モンティーレの娘、フィリアと申します」
礼儀作法通りの挨拶をしました。
「メイドのサシャです」
サシャは完璧に挨拶を済ませました。
「これはご丁寧にどうも」
ダナトス様はにこやかに微笑んでくれました。
「ダナトス、すまないが表で追いかけっこをしているマイラー老師とキルデ主任を、後で案内してやってくれ」
「かしこまりました。 クランツ様」
クランツ様はダナトス様に指示を出してから、私たちを客室まで案内してくれました。
客室につくと、クランツ様は部屋で待機していたメイドにお茶を用意するように申しつけていました。
「フィリア嬢、こちらに」
そう言ってクランツ様は椅子を引き、私を座らせてくれました。
「サシャもこちらにお座りください」
サシャにも同じように座るように促しました。
私はサシャに頷いて座ってもらいました。
「それでは失礼します」
クランツ様は私たちの向かいに座りました。
そしてクランツ様が話し始めました。
「フィリア嬢、アルベン領の街並みはいかがでしたか?」
この言葉にサシャが咽せました。
私は街並みを見ていません。
微笑みを浮かべて、体から嫌な汗を流しています。
どうしましょう……。
考えるのはやめましょう、素直に話すのよフィリア!
「申し訳ありません。 少々馬車の中で書物にて調べ物をしていましたら、お屋敷に着いてしまっていたので」
申し訳なさそうにするのよ! 私! 嘘は言って……いないはずです!
「それは申し訳ない事を聞いてしまいましたね」
頭を下げるクランツ様。
サシャは……目を逸らしていますわ。
コンコンと扉をノックする音と共に、先ほどのメイドが、お茶を運んできました。
入れたお茶を私たち三人の前に並べてくださいました。
クランツ様はメイドにお礼を言ってから「どうぞお飲みください」と勧めてくださいました。
先ほどお答えしたことが嘘ではないにしろ、気まずさにお茶の味がしませんでした。




