22・話し合い
あの後、お父様やクランツ様がマイラー先生を交えて話し合いが始まりました。
そして私もコソコソ参加している訳です。
「……お嬢様は何をなさっているのですか?」
「しーっ! サシャに見つかってしまいますわ」
私は書棚の後ろからみなさんが座っている所をじっと眺めているのです。
「……サシャに見つかるとどうなるのですか?」
「……そんなの決まっています。 ひどい拷問を受けるのです」
「…………どの様な……拷問なのですかね」
「……お鼻グリグリですわよ」
先ほどから話しかけてくる方のせいで、お話がよく聞こえませんわ。
「……話を戻しますが、お嬢様はここで何を?」
「決まっていますわ。 私も話を聞いてついて行くのです」
「……そうですか」
「そうなんです。 ところで先ほどからあなたは…………」
私は後ろを振り返ると、
すぐそこに笑顔のサシャがいました。
「サ………………サシャ?」
「なんでしょうか? お・じょ・う・さ・ま」
そして私はお鼻グリグリの刑になりました。
*
「なんか娘がすまない」
モンティーレ伯爵が娘のフィリア嬢のことで謝罪をしてきた。
そう、彼女はずっと書棚の後ろからこちらを見ていたのだ。
ここにいる人はみな気がついていたのだが、なんか言い出せなくてそのままにしていた。
メイドがフィリアお嬢様の後ろに回り込んでからの喜劇を見ることになるとは思わなかったが。
それにしても面白いお嬢様だ。
「フェリオよ、フィリア嬢をいかせてみたらどうじゃ? 学園も休みじゃし、外の世界を知るのも勉強じゃよ」
マイラー老師は向かわせる事に賛成なようだ。
俺も別に構わない。
彼女は見ていて飽きないからな。
「クランツ君はどうだ? 娘が同行したら迷惑ではなかろうか」
モンティーレ伯爵が俺に尋ねてきた。
「問題ありません。 伯爵様」
俺の言葉を聞いて頷き、
「老師、すまないが面倒は見てもらえるのだろう?」
モンティーレ伯爵はマイラー老師に確認する。
「何、心配には及ばんよ。 サシャちゃんも着いて来るしの」
あのメイドが一緒なのは決定なのか。
「それはもちろんです」
相当信頼されている様だな。
我が家がルベルトを信頼しているようなものか。
「サシャ」
「はい。 お呼びでしょうか」
先ほどまで、フィリア嬢の鼻をグリグリしていたメイドが、いつのまにか伯爵の横に移動していた。
「フィリアと一緒にアルベン領へ行ってくれないか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、フィリアには外の世界を見てきてもらいたい」
「本当によろしいのですか?」
「ああ、もちろんだ」
「また奥様に、娘に甘すぎますと言われるのでは?」
このメイド、伯爵相手に突っ込んでくるな。
「……だ、大丈夫だ。 私が言うのだからな」
「……かしこまりました」
伯爵がメイド相手に腰が引けるとか……なんなんだ?
普通なら不敬に当たるだろう……。
そしてわからないのが弟のアレス。
この子は普通にみなに混じって座っているのだから。
「お父様、僕も行ってもいいですか?」
「アレスにはまだ早いな。 もう少し大きくなったら連れて行くとしよう」
そう判断するのが普通だろう。
しかし、アレスは妙に落ち着いている子供だな。
「わかりました。 僕はお留守番しています」
「うむ、いい子だ」
父親に頭を撫でられて喜ぶ。
……気のせいだったかな、年相応の子供だな。
出発は明日の朝だ。
今日俺は、モンティーレ家に厄介になる事になった。
じきにルベルトもキルデ主任を連れて戻って来る。
*
フィリアにアルベン領行きを許可したら大変喜ばれた。
父親冥利に尽きる。
「よし、アリサに報告だ」
わが妻、アリサもわかってくれるだろう。
「アリサ、私だ入るぞ」
扉を開けて、アリサの部屋へ入る。
「あら、どうしましたかあなた」
いつ見てもわが妻は美しい。
「ああ、フィリアを語学の為アルベン領へ行く事を許可したのだ」
アリサは笑顔のままだ。
それはそうだろう、娘の成長を喜ばない親がいるものか。
「あなた、こちらにいらして下さい」
「うむ」
私はアリサのそばへと寄った。
「はい、そこでしゃがみなさい」
「何故だ?」
「……お座り」
妻よ、圧が凄いぞ……。
さ……逆らえない。
「……はい」
アリサは扇子を叩き、私を見下ろす。
「あなた、何を考えていらっしゃいますの?」
「何って、娘の成長を思ってだな……」
アリサはため息をついた。
「あなた……年頃の娘を他領の、しかも辺境の危ない所へ娘を行かせるのが成長のためと?」
言われてみればそうだった!
しかし……既に許可してしまったので、今更取り消すなど俺の面目が立たんではないか……。
「あなたはフィリアに甘すぎます。 それはもう……あまあまです」
「……むむむ」
「仕方ありませんね……騎士を十名ほど護衛に付けなさい」
「今、騎士をそこまで割くことはできないぞ……」
アリサはじっと私を見ている……。
その笑顔が……怖い。
「な……なら、信頼できそうな冒険者に護衛を頼もう。 それと騎士を四名だ」
「……仕方ありません……でも!」
「……はい」
これ以上アリサに反論しても無駄だ。
アリサを怒らせてしまう……。
……それだけは避けなければ。
……俺、伯爵なのにな。




