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19・アルベンからの使者

 実家に帰ってきてから数日。


 いつもの様にベッドから起きてから窓を開け、軽く体を動かします。


「今日も一日頑張りましょう」


 私もメイドのみなさんの頑張りに励まされる思いです。


 窓の外ではメイドたちが走りながら、仕事をしているのですから。


「どこに隠れているのですか!」


「今日という今日は許しません!」


「捕まえたら縛り上げてやります!」


 とても賑やかです。


 その時ドアが開いて、サシャが現れました。


「おはようございます。お嬢様」


「おはよう。 サシャ」


「つかぬ事をお伺いしますが……こちらにゴミが来ていたりはしませんか?」


「ゴミかどうかはわかりませんが、マイラー先生なら表の花壇に隠れていますよ」


「それは朗報です!」


 サシャは窓の外に向かって何やら無言で合図を送っています。


「それではお嬢様、私はまだ片付けることがありますので失礼させていただきます」


 部屋から出て行くと、勢いよく走り去る音が聞こえてきました。


「私も鍛錬頑張ります! サシャには負けていられませんわ」


    *


 食事も終わった時に、お父様から報告がありました。


「今日、午後にアルベン辺境伯から使者が来る事になっている。 皆、失礼のない様にな」


「カルロス。 マイラー老師を学術棟へ」


「かしこまりました、奥様」


 学術棟、私も昔はよくサシャに連れていかれて勉強させられていましたわ。


 それが嫌でよく、逃げ出してましたわね。


 ……私には拷問部屋のようでしたが。


「フィリアとアレスも学術棟へ行って勉強しなさい」


「わかりましたわ、お父様」


「わかりました。 お姉様とお勉強します」


「うむ、良い子だ」


 アレスはお父様に褒められて喜んでいます。


 私はアレスを連れて学術棟へ向かいました。


「お姉様、本日はどの様なお勉強をなさるのですか?」


 可愛い弟が、私のお勉強に興味がある様です。


 なら、それに応えてあげるのは姉の勤めです。


「本日は将来に役立つ知識と、動きのキレというやつですわ」


「……知識はわかりますが、動きのキレというのが僕にはよくわかりません」


「大丈夫ですわ! 教えて差し上げます!」


 私はアレスにも色々教えて差し上げないといけないことがある様ですね。


 でも、私が悪役令嬢になる事は秘密にしていないといけませんわね。

 

 学術棟へ入る私とアレス。


 中には大量の書物や丸められた地図などが棚に置かれています。

 

「相変わらず凄い資料ですわね」


 そういえば、マイラー先生が見当たりませんね。


 カルロスが連れて来られているはずでしたが……。


 それにしても、いつもなら騎士たちが数人は書物を読んだりしていますが、今日はアルベン辺境伯様の方々がいらっしゃるという事で、みなさん外へ出て行ってしまっているのですね。


「では、アレス。 お勉強を始めましょうか」


「はい。 お姉様」


 私がアレスに計算問題を教えたり、簡単な問題を出して勉強を進めました。


 ……


「お姉様、できました」


 私はアレスに出した問題を採点してみます。


 二桁の足し算は完璧です。


「アレス凄いですわ、全問正解ですよ」


 私はアレスの頭を撫でてあげました。


 アレスは嬉しそうに笑ってくれています。


「一旦休憩にいたしましょう」


「疲れました」


 アレスも腕を上に上げて、軽く伸びをしています。


 私も席を立ち上がり、全身を使って以前やってたポーズをやります。


 以前は未完成だったポーズをサシャに見られて恥ずかしかったのですが……あれから改良を重ねて素晴らしいものへと変わっているのです。


「僕もやりたいです!」


 さすが私の弟です!


 そうでなくてはいけません!


「……お姉様、その動きはなんですか?」


 いい質問が来ました。


「これはですね、将来役に立つ物なのですよ」


 ふふんと心の中で誇らしげに胸を張りました。


 ほえー、と感心しているアレスもまた可愛らしいですね。


「では、始めてみましょうか」


 アレスに動きの指導をすると、飲み込みが早いせいか動きが完璧に近づいています。


「どうですか? お姉様」


「素晴らしいですわ!」


 拍手をして弟を褒めます。


「今度は二人で合わせ鏡の様にやりましょう」


「面白そうですね!」


 私とアレスは窓の方を向き、アレスは私の左側に立ちます。


 ここで口上を述べるのです。


「お前たちの悪事はそこまでです」

「お前たちの悪事はそこまでだ」


 そこで私は右足を、アレスは左足を下げてから、クルリと後ろを向いて私は右腕、アレスは左腕を伸ばし、胸を逸らしながら反対の手は額に添えるのです。


「観念なさい!」

「観念しろ!」


 言い切ってから目を開けて扉を見ると……


 伸ばした手の先に……目を点にしたお父様と――


 額に手を当ててよろけるサシャ。


 その横には――クランツ様ともう一人の男性が笑いを堪えながらこちらを見ていました。


 私は石化したように動くことができず、


 ただただ顔を赤らめていくだけでした。

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