20・アレスの耳打ち
「それでは、みなさまはマイラー先生にお会いになるためにこちらへお越しになられたのですね」
「うむ。 カルロスがこちらへ先生を連れてきてくださっているはずだ」
「私とアレスがきた時は、マイラー先生はいませんでしたわ」
「僕も先生見てないです」
その時、ドアが開いてカルロス爺やが入ってきました。
「おや? みなさまお揃いで」
「おお、カルロス。 マイラー先生はどちらに?」
「マイラー様なら、地下においでです。 連れて参りましょうか?」
「すまないが頼む」
「承知いたしました」
一礼をしたカルロス爺やはまた部屋から出て行きました。
カルロス爺やが来てくれたおかげで、先ほどの気まずさは無くなりましたわ。
「お姉様、お姉様。 続きやらないのですか?」
アレスが先ほどのポーズをとりながら聞いてきます。
アレス……この子ったらもう!
私はしゃがみ込み、アレスのほっぺたをムニムニ動かします。
「お姉様、私も興味がございます」
……サ、サシャまで?
「ふむ、娘が何をしていたのか気になるな」
お、お父様まで何をおっしゃいますの!?
私がわたわたと慌てていたら、
なんとクランツ様が助け舟を出してくれました。
「あれじゃないですか? 次の学期は演劇をやるはずでしたから、その練習なのでしょう」
クランツ様は私を見て、軽く頭を下げて合図をくれました。
「そ、そうなんですの! 今から何があっても大丈夫な様に、れれ……練習ですわ!」
クランツ様! ありがとうでございますわ!
でも、なんでかしら? 従者の方が驚いた顔でクランツ様を見ていらっしゃる様な……。
私はアレスのほっぺをムニムニしながらクランツ様と従者な方を眺めていました。
*
「旦那様、マイラー様をお連れいたしました」
「すまない、カルロス」
カルロス爺やの後ろからマイラー先生が現れました。
「わしに何か用かのう」
「お初にお目にかかります。 マイラー老師。 私、アルベン辺境伯から来ました、クランツと申します」
「従者のルベルトと申します」
「まさか、マイラー老師がモンティーレ伯爵家にいらしたとは」
クランツ様はマイラー先生がここにいらした事は知らなかったようです。
「王宮勤めを終えてから家庭教師として、ここでずっ…………と世話になっとったからの」
「そうだったんですか」
「して、アルベンの息子がわしに何か用かの?」
マイラー先生の顔つきがいつにも増して真剣になりました。
「はい、我が領の防衛力を上げるため結界魔法を教えていただきたく……マイラー老師のご助力をお願いしたい」
クランツ様はマイラー先生に頭を下げます。
「魔法省の誰かに頼むがよかろう」
しかし、マイラー先生の答えは拒否でした。
「すでにキルデ主任には打診はしてあります。 キルデ主任はマイラー老師の理論が出来れば結界用魔導具が完成すると言われたのです」
クランツ様は顔には出していませんが、握った手が悔しさを表しています。
「……わしはもう、自分が編み出した魔法を悪用されるのは嫌なのじゃよ」
みなさんが沈黙をしてしまいます。
マイラー先生の言うこともわかります……ならば、
「マイラー先生、その魔法を私に教えては下さいませんか?」
「フィリア、何を!?」
「……お嬢様」
「聞けば、マイラー先生は協力は出来ないのて、私が教わってからクランツ様に協力すればよろしいではないですか」
「それとこれとは違うじゃろ」
「違いありませんわ。 先生は私にたくさんの魔法を教えてくださいました」
先生は黙って聞いています。
「……」
「それに、私だっていつ悪い人になってしまい、悪い人をバッタバッタとやっつけてしまうかもしれませんわ」
「……お嬢様、それは悪人とは言いませんよ」
サシャ〜……今いいところなんですよ?
「そうだ、先生!」
アレスが先生に何かを言うつもりです。
「先生、耳を貸してください」
アレスはしゃがみ込んだマイラー先生の耳元で何かを話しています。
他の人は何を言っているのかわからなかったみたいですが、サシャは凄く驚いた……というより、驚愕さているみたいですわ。
「な……なんと! そんなことが! アレス、お主天才か!?」
どうなさったのかしら。
私はサシャを見ると、壁に手をついて頭を押さえていますわ。
アレスを見ると……今まで見たことのない笑みを浮かべていましたわ。
……あの笑みは、お母様が何かを企んでいる時に浮かべる笑顔に似ていました……気のせいですよね。
「そんな事考えもしなかったぞい! いつもむさい男ばかりだったからの! うほー」
マイラー先生の突然の豹変ぶりに、訳のわからない私たちは困惑しました。
「アルベンの息子よ! わしは行くぞ! 手を貸すぞい!」
「ほ、本当ですか! あ、ありがとうございます!」
クランツ様は出来る限り頭を下げました。
そしてルベルト様に指示を出しました。
「ルベルト! 急ぎキルデ主任に連絡を!」
「かしこまりました」
ルベルトさんは急足で部屋を出て行きました。
アルベン領……どの様なところかしら。
私の中で、行きたい衝動に駆られて行き、口に出していました。
「私もご同行してもよろしいですか?」




