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17・帰省

「よっ……ほっ……違いますわね。 こうかしら……やっ……たっ」


 朝一番から体を動かす。


 気持ちがいいですわ。


 足を肩幅くらいに広げて体を捻りながら片腕を脇腹に、もう片方の腕を顔を隠すように斜め上にまっすぐ上げるのです。


「やっ……たっ……」


 ここで後ろを振り返り……


「ほっ……わっ!? サシャいつからそこに!?」


 無言で立ってこちらを見ているサシャに、私は顔を真っ赤にして驚きました。

 

「よっ……ほっ……の辺りからでしょうか」


「ほとんど最初からではないですか! 声をかけてくださいまし!」


 私はさらに顔を赤らめて言いました。


「お嬢様が何やら面白いことをなさっていたので、声をかけたら悪いかと思いました」


「くぅ〜……サ〜シャ〜……」


    *


「そろそろ迎えの馬車が来る時間です。 お嬢様」


「久しぶりの実家ね。 王都のお土産は何がいいかしら」


「……なに寝ぼけたことを言ってるのですか? 学園から見ると、モンティーレ家はお城を挟んだ反対側ではありませんか」


「サシャには冗談というものが通じないのかしら」


「お嬢様の冗談は、私の理解を超えていますので」


 サシャ失礼ですわ!


 そんなやりとりをしていると、部屋をノックする音が聞こえてきました。


 サシャが扉を開けると、我が家の執事長が佇んでいました。


「お久しぶりです。 フィリアお嬢様」


「お久しぶりですわ、カルロス」


 カルロス執事長は真面目な御方ですが、最近は柔らかくなられたようです。


 私も小さい頃はよく叱られていたものです。


「サシャ、お嬢様のお荷物を」


「こちらに」


 カルロスとサシャのやり取りに無駄がないのが凄いです。


 思わず見入ってしまいました。


「相変わらずの手際ですねカルロス爺や」


「はっはっはっ……それほどでもございませんよ。 では参りましょうか」


 こうして私は学生寮を後にするのでした。


    *


 あっという間にモンティーレ家の門を潜り、屋敷の前に馬車が止まりました。


 馬車の扉が開き、カルロス爺やとサシャが先に降りていきます。


 サシャは周りを警戒しているようにも見えます。


 どうしたのかしら?


「……いないようですね」


 安堵のため息を吐いたサシャは私に降りるように手を差し出しました。


 私はサシャの手を取ろうとした時、突然サシャが後ろを蹴り上げました。


「そこっ!」


「ウヒャ!」


 サシャの蹴りを受け止めた老人、マイラー先生がそこにいました。


「相変わらずサシャちゃんは守りが固いの〜」


「まだ、生きていたのですか。 マイラー先生」


「当たり前じゃ! わしはサシャちゃんのお尻を触るまで死ぬわけにはいかん!」


 マイラー先生は相変わらずお元気でいらっしゃいます。


「マイラー先生。 お久しぶりでございます」


 私が挨拶をするとマイラー先生はこちらに気がついたようです。


「お……おお! フィリア嬢ではないか! 大きくなったの〜!」


 話しながらサシャの攻撃を躱しています。


 遠くからメイドたちの声が聞こえてきます。


「あそこにいました!」


「今日こそこの箒のサビにしてくれるわ!」


「あ、サシャ様がお帰りになられています」


「みんな! サシャ様に加勢するわよ」


 箒やモップを持ったメイドたちがサシャの乱闘に加勢し始めました。


 乱闘を始めたメイドたちは、手を休める事なく私に挨拶をして来ました。


「お帰りなさいませ。 フィリアお嬢様」


「ただいま」


 それにしてもマイラー先生を追いながら器用に挨拶をしますね。 みなさん。


「お嬢様、お父上がお待ちです。 中へどうぞ」


 カルロス爺やはメイドたちやマイラー先生を見てから、私の前を歩き始めました。


「ありがとう。 カルロス」


 私はカルロス爺やの後をついていき、屋敷の中へ入っていきました。


 屋敷の中へ入ると、フェリオお父様とアリサお母様が階段を降りてこちらに向かって来ます。


「おお! フィリアよくぞ帰ってきた」


 お父様は両腕を広げて近づいてきます。


「ただいま帰りました。 お父様」


 その後ろからお母様も近づいてきます。


「お帰りなさい。 フィリア」


「お母様も、お変わりなく」


 そして、お母様のスカートの後ろに隠れるように、弟のアレスがいました。


 アレスとは八つ離れている可愛い弟です。


 私はかがみ込んでアレスに挨拶をします。


「ただいま帰りましたわ、 アレス」


 にこやかに微笑むと、アレスも笑い返して挨拶をしてくれました。


「おかえりなさい。 お姉さま」


 アレスと挨拶をしていると、後ろから声が聞こえました。


「旦那様、奥様、ただいま戻りました」


 いつのまにかサシャが後ろにいたのです。


「サシャ、いつもすまない」


 お父様がサシャにお礼を言っています。


「いえ、好きでやっていることですから」


「そう言ってもらえると助かる」


 なんかお父様とサシャの話は、他の方と少し違うのですよね……


「さ、こんな所で立ち話もなんですから、あちらでお茶でもいただきながらお話をしましょう」


 お母様の一言で、みんなでテラスの方まで移動しました。


 この後、私の学園生活の話しや、お友達が出来たことをたくさんお話ししました。


 時折サシャが笑いを堪える仕草がありましたが気のせいでしょうか?


 話を終えて、自分の部屋へ戻って来ました。


 久しぶりに戻る自分の部屋。


 わずかな期間ですが懐かしく感じます。


 私はすかさず書棚へ行き――


 昔、お父様に買っていただいた、とても大切な書物を手にしました。


「懐かしいですわね。 私の憧れ、全てはこの書物のおかげですわ」


 昔を懐かしみながら書物の表紙を優しく撫でました。


 書物の表紙には――


 〝悪役令嬢ここにあり 悪はあなた達ですわ!〟


 あの頃は、お父様もお母様も大変お忙しくて、

 

 一人寂しく過ごしていた私に、お父様が買ってくださった書物。


 私に夢を与えてくださった大切な書物ですわ。


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