13・サシャの休憩時間
今日もお嬢様は無事に過ごせました。
お嬢様は学園に来てからとても生き生きとしていらっしゃいます。
いえ、それ以上かもしれません……。
登校初日になぜあのような格好で登校なさろうとしたのか、意味がわかりませんでしたが、
どうやら前の日に、私がお嬢様のお部屋に置き忘れた書物が原因でしたね。
あれは創作物であって実際の出来事ではありませんのに。
書物の名前は、「悪役令嬢登校初日にわからせてやったら皆がひれ伏した」でしたか。
面白い書物なので、私の密かな楽しみの一つです。
この書物はいろいろな種類がありまして、私もすでに二十冊も所有しています。
ハマってしまいましたね……私としたことが。
……まさか、お嬢様もハマり、実際に行動に移したとか――
考えすぎですね……お嬢様に限ってそんな。
気を取り直して読書をしましょう。
お嬢様もお休みになられた事だし。
ふふふ……昨日お嬢様が学業に専念している間に買ってきた最新刊ですよ。
面白いですよね。
この「だろう文庫」は。
同じようで違いがあるんです。
涙あり、笑いあり、たまりません。
……昔の私からは想像すらできませんでした。
あのとき、旦那様と出会っていなければこのような生活とは無縁でしたからね――
いけません、昔は昔です。
昔の事は今はいいでしょう……。
今回のお話は、冒険者となって世直しですか。
悪役令嬢と関係があるのでしょうか?
まぁ、読んでみましょう。
……
コンコンコン……
「サシャいらっしゃいますの?」
「どうしましたかお嬢様」
「いえ、少々眠れなくて、何か書物をお借りできればと」
私は立ちあがろうとしましたが、
「あ、よろしいですわよ。 読書をなさっていてください。 書棚から何か選ばせていただきますので」
「そうですか、ではお言葉に甘えまして」
だろう文庫は、お嬢様にはわからないように隠してありますから、問題ないでしょう。
読書を再開します。
……なるほど、いつも通りに追い出されるのですね、
ページをめくり続きを読みます。
「確かここの書物を……こうでしたわね。 サシャの書棚は面白いですわ、裏から別の書物が現れるのですから」
冒険者ギルドでも揉め事に遭うのですか……
続きは……
「いつ見ても、サシャの集めている書物はためになりますわ」
今度はモンスターとの戦闘ですか、
仲間の冒険者と力を合わせて切り抜けていきます……
ここで、自分を追い出した元婚約者が現れるのですね……
「”悪役令嬢、裁きを受けるのはあなた達です!” この書物のタイトルは素晴らしいです! 私にない物がこの書物に書かれているはずです! これは熟読ですね!」
ふむふむ、連れている女性は、主人公にない物があるというだけで捨てたという訳ですか……胸糞悪いやつですね。
こんなのがお嬢様の前に現れたら、この私が首をへし折って差し上げましょう。
ムカつきますが、この男は強いですね。
さらにページをめくっていきます。
「凄いですわ! これはぜひ私のものにしなければなりませんね!」
……時折聞こえるお嬢様の声。
専門書を見ているのでしょうか、自分のものにしようと意気込みらしきものが聞こえてきます。
いい事です。
私はページをめくる。
この展開は、予想がつきそうですね。
私は文字の世界にのめり込んでいきます。
……良い意味で裏切られましたね。
「……こんな感じでしょうか――よっ! ほっ!」
お嬢様は考えながら声を出しているようです。
おっと、ここでこんな展開をさせるのですね。
この作者、やりますね。
「ふふふ……やりましたわ」
なるほど……彼女が悪びれていたのは領民のためだったのですね……。
いけません、涙が出そうになりました。
なんて心優しい方なのでしょうか。
「悪をバタバタ倒していく! やはり悪役令嬢ですわ! カッコいいですわ! 憧れます!」
なるほど、この展開からご自分の家へむかうのですね。
――家は騙されて、乗っ取られる寸前ですか。
そして、今まで旅をしていたのが、証拠を集めていたと……ここに繋がるのですね。
「この展開は……これはきます」
ここで決め台詞がきます。
わたくしを誰だと思っておりますの?
「わたくしを誰だと思っておりますの?」
来ましたね。
これがないとスッキリしませんからね。
「完璧ですわ! 後はどのタイミングでこの台詞を言うかですね」
あと少しで終わってしまいますが、私の心に響きました……この物語は心の中にしまっておきましょう。
「素晴らしかったですわ! 明日からも頑張らないとですわ! お片付けをしてしまいましょう」
あとがきを読まないといけませんね。
「本は元の位置に戻しました。 棚もしっかりと元通りです。 少し眠くなってきました……法律の本の厚み、枕に良さそうですね」
……
はぁ、堪能致しました。
やはりこの書物はやめられませんね。
これはまた読み直すとしましょう。
私は書棚の隠し棚へ大切にしまい込みました。
さすがにお嬢様でもこの仕掛けには気がつくはずもありません。
さて、お嬢様はどのような書物をご覧になっていたのでしょう。
お嬢様は私のベッドの上で法律の書物を抱えて眠ってしまわれていました。
「仕方のないお嬢様ですね」
私はクスリと笑い、お嬢様を抱きかかえてご自身のベッドまで運んで差し上げました。
「本当に、寝顔だけは五年前と変わらないですね」
私はお嬢様に布団をかけてから、自室に戻りました。
おやすみなさいませ。




