10・テスト前の勉強会
もう直ぐ夏休みです。
学生にとって楽しみな季節となりました。
しかし、
それには試練を乗り越えなければいけません。
テストです!
こんな物、悪役令嬢への道の障害にもなりませんわ。
かかって来なさい。
「フィリア様、もしよろしければここの問題の解き方を教えてくださらないかしら」
ラザリア様が問題用紙を持って聞きにきました。
「フィリア様、私はここが苦手で……」
チャーニさんもですか。
「……すみません!僕はここが!」
セタ君まで。
他の方も問題用紙を持って集まってきました。
いいでしょう。
どんな問題でも解いて差し上げますわ。
これは悪役令嬢へと続く道です。
こうやって手を差し伸べていけば——
貸しというものが出来るということですわ。
「今度みんなでお礼しないとね」
チャーニさんがそんな事を言い出しました。
「お礼なんてとんでもないですわ。 このくらいの事でしたらお気になさらずに」
私は笑顔で答えました。
「さすがフィリア様ですわ。 このような事で対価を求めない。 素晴らしいですわ」
ラザリア様のお言葉で気がつきました。
あ、あれ?
*
「すみません、先生。 いつもご迷惑おかけします」
「構わないよ、クランツ君。 君だった大変だろうに」
俺は今、学園の書庫に来ている。
去年から父が病に倒れ、領の運営は俺が行なっている。
その為に必要な資料が、王都の城か学園の書庫にしかないのだ。
本来であれば、代々親から学ぶことで済むのだが、今はそれが叶わない。
だから、オーブル先生に頼んで書庫の奥を借りているのだ。
こんな事なら、もっと勉強しておくのだったな。
前回来た時は新入生のチーム戦が行われた時だったな。
そういえば一人、毛色の変わった奴がいたな——。
不正を働いた不届なガキを止めに入ろうとしたら、
俺よりも早い動きで懐に入り込んで、蹴り上げていたな。
しかし、なんであの女生徒は男の格好をしていたんだ?
趣味か?
必要な資料をまとめ終え、カバンにしまい込んでから席を離れた。
「先生。 ありがとう」
「もう、いいのかね?」
「はい。 また何かあれば伺わせてもらいます」
「いつでも来るがいいさ」
オーブル先生に礼を言い、二人で書庫から出ようとしたら、生徒たちが入ってきた。
「なんだお前たち。 試験勉強か?」
オーブル先生は生徒に声をかけた。
「はい、みなさんと一緒にお勉強会をと」
「フィリアが一緒なら大丈夫だろ。 下校時間だけは守れよ」
フィリア?
確か男の格好をしていた奴も同じ名前だったな。
俺はフィリアと言われた少女を見た。
その少女はなぜだか目を惹きつけるものがあった。
向こうも俺の視線に気がついたのか、会釈をしてきた。
「お久しぶりです。 クランツ様」
「俺を知っているのか?」
俺は気になったからこう返した……
「はい。 的当ての時からいらっしゃいましたよね」
「あぁ……しかし、俺は君を知らない。 いたか?」
俺が尋ねると、フィリアと呼ばれた少女は突然目を泳がせ始めた。
……なんなんだ一体?
「フィリア、早くみんなの所に行け、テスト勉強しに来たんだろ」
オーブル先生がフィリアと呼ばれた少女を他の生徒の所へ向かわせた。
「し、失礼しますわ」
フィリアは早歩きでこの場を立ち去っていく。
「先生?」
「彼女はちょっと変わっているからね。 あまり関わらない方がいいよ。 疲れるしな」
先生は苦笑いしていた。
変か……そうは見えなかったがな。
俺とオーブル先生は書庫を後にした。
後一つ、気になっていた生徒を思い出し、先生に聞いてみた。
「先生、測定の日に、暴走した生徒を止めた生徒はどうしたんですか?」
オーブル先生は俺に向き直り、苦笑いしながら――
「君……さっき話していたよね」
やはり彼女なのか。
そう……だよな、同じ名前だし。
*
びっくりしましたわ。
オーブル先生とクランツ様がいると思いませんでした。
しかし……クランツ様は少しお疲れの様子でした。
辺境伯というのも大変なのですね。
それにしても、
私の男装が見破られていないとは……私もやりますわね。 ふふふ。
この調子で悪役令嬢に近づくのです!
「フィリア様? いつまでそこにいらっしゃるのですか? 早く勉強会を致しましょう」
ラザリア様が私に話しかけてきました。
そうですね、今は勉強の方を頑張りましょう。
みなさん、教科書を広げ勉強を始めています。
「フィリア様、申し訳ないのですが、ここを教えていただけないでしょうか」
ルッツ様が質問してきました。
ルッツ様は、マズウェル様があの様な事があってから、家同士が少し離れたようなのです。
一人でいたルッツ様を私がお誘いしてからは、私たちと一緒にいる事になりました。
「ここは……こうすれば解けますわ」
「あ、そうか! ありがとうございます。 フィリア様」
席へ戻っていくルッツ様。
そうそう、もう一人お仲間が増えたのです。
トーラス君です。
なんでも、自分を鍛えなおしたいと言う事で、セタ君に頼み込んで冒険者登録をし、一緒に活動し始めたとか。
素晴らしいですね。
私も見習わないといけませんね。
「フィリア様、どうかなさいましたか?」
「はい?」
「なぜかぼーっとしていらしたように見えましたので」
ラザリア様が心配してくれています。
「大丈夫ですわ」
私は胸の前で両手の拳を握りしめて見せました。
「そうですか? でも、お体にはお気をつけてくださいね」
「お気遣いありがとうございます」
私とラザリア様は微笑み合いました。
勉強会を始めてからずいぶん経ちました。
そろそろ帰る準備を致しましょう。
「皆さま、そろそろ終わりにしましょう」
声をかけると、みなさんもテーブルの上の本やノートを片付け出しました。
「これで本番は大丈夫だな」
「きっと大丈夫だよ……ね」
セタ君とトーラス君がやり切った感じで話しています。
「みなさん、本番も頑張りましょう」
みなさんも、「はい」と返事を返してくれました。
いよいよテストが始まりますわ。




