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妹はヤンキーちゃん。  作者: 灯いるか
【シーズン1】 ミーツ・シスター編
4/5

#3 オープンキャンパス事変・前編

「それはなしっすよみやさん!ずるじゃないすか!」

「ずるではない近道だ!」


 猿渡くんはあれからよくうちへ来るようになった。


 アリア女学院に通う都がどのようにして猿渡くんたち不良仲間と出会ったのかはわからないが、彼もどうやら神奈川県内の高校に通っているらしく、こうして都の様子を見に来ては、他の仲間たちに伝えているらしかった。


 熱心なことである…。


 遊びに来ては俺のゲーム機でよく都とカーゲームに興じているのだった。


 まぁね、いいよもう、俺の家だけどな!俺のゲームだけどな!


「何か言ったか兄貴」

「いいえ、何でもないです」


 家が賑やかになっていいじゃないか花咲千景。


 まだ子どもなんだこいつらは…。


「じゃ、俺大学戻るよ。今日も帰り遅いから」

「最近は随分と忙しそうだな」

「今週末のオープンキャンパスの準備で大変なんだよ。俺はバイトがある分、空いた時間は手伝わないと」

「オープンキャンパス…」

「都たちも高校生なら聞いたことあるだろ。高校生の子たちを対象に、こういうことやってる大学ですよ〜って見せる日だよ」

「それだ猿渡!」

「へ!?なんですか!?うわあ!落ちちゃったじゃないですか!」


 都はコントローラーを投げ捨て(だから俺のゲーム機…!)、立ち上がりながら言った。


「私たちも行くぞ、オープンキャンパス!」

「ええ!?」


 猿渡くんはまだゲームに向かいつつ声だけで驚いている。今のうちに都を出し抜くつもりだ。


「まぁ別にいいけど、お前の頭だったらもっといいところに行けるだろう」


 偏差値75の高校に通っているのだ。うちのような普通の大学には興味ないだろうと思っていた。


「ああそうだ。だが、一度大学というものがどういうものなのか簡単に知っておく必要がある」

「簡単にって…」


 うちの大学を気軽に見に行ける場所みたいに言いやがって。


「それに、我が兄上様が大学でどんな風に過ごしているのか、興味があるしな」

「え…」


 都が俺にそんなに興味を持っていたとは…!


 兄妹だったらお互いがどんな風に過ごしてるかはやっぱり気になるものなんだろうか…。


 確かに俺も、あいつがアリア女学院でどんな風に過ごして、どんな風に猿渡くんたちと遊んだり喧嘩をしたりしているのかはとても気になる。


 というかそもそも都は謎が多すぎる。


 最近猿渡くんが来るようになってやっと不良仲間たちとの話はしてくれるようになったものの、学院の話や家の話、そして家族の話なんかは依然全くしてくれないのだった。


 俺から何度か話を振ってはいるが、あまり自分のことを話したがらないようだった。


 家のこと、家族のことについてはとりわけスルーされる。


「ま、まぁじゃあ好きにしなよ。じゃあ俺行くね!そろそろ雪乃が来るとは思うけど」


 そう言って俺は家を出た。



「大学内で監視を探す」


 千景がいなくなった部屋で、都は言った。


「大学で、ですか?」

「ああ。私についていないということは、兄貴が危ないのかもしれない」

「な、なるほど…でも花咲さんのこと知ってるのって…」

「予想はしてたことだったが、私がここに来たことで、兄貴の存在をダディに知られた可能性がある」

「まじすか…じゃあ花咲さんどうなっちゃうんすか?」

「家の方で話がついていれば見守るだけで何も起こらないとは思うが…」

「が?」

「もしママとダディの間で話がついていなかったり、何か勘違いが起きた時、兄貴が狙われる可能性は高い」


 唾を飲む猿渡。


「ずっと思ってましたけど、みやさんの家ってなんていうか、物騒すよね…」

「ま、複雑だからな」


 真面目な顔で外を見る都。


 千景が外を歩いている。





 オープンキャンパス当日。


「ここが兄貴の通う大学か」

「結構立派っすね〜」


 大学の校門には『ようこそ柑子山こうじやま大学へ!』の文字が書かれた大きなアーチが設置されている。


 制服を着た高校生たちが次々にアーチの中へ入っていく。


 短ランを着た背の高い銀髪の男が都たちの方へ歩いてくる。


「久しぶりのカチコミだな」

「狼谷さん!」


 狼谷颯斗かみたにはやとはニヤつきながら、都の横に並んだ。


「別に戦いに行くわけじゃないぞ」

「なんだ今日は喧嘩しねぇのか」

「みやさんちの見張りがいないか見回りに行くんですよ」

「兄貴に何かあってからじゃ遅いからな」

「ふ〜ん、随分その兄貴とやらに肩入れしてんだな」


 狼谷は不満そうに言った。


「まぁ一応あれでも私の実兄だからな」

「ふ〜ん。まあ今の俺たちの頭は都だ。俺はお前についていくまでだが…つまんなかったら帰るからな」

「ああ。悪いな来てもらって。ありがとう」

「おっしゃ、じゃあいくか!」


 大学内へ歩き出す三人。


 都の後ろを猿渡と狼谷が歩いている。


 狼谷が猿渡に近づき、小声で話しかける。


「おい潤、その兄貴ってやつはどんなやつなんだ?つえーのか?」

「花咲さんすか?いやぁ強いって感じではないすけど、兄貴って感じっすね!面倒見よくて、優しくて。一緒にゲームしてくれるし!俺もああいう兄貴がほしかったな〜」

「なんだよお前まで」

「あ、わかった。狼谷さん拗ねてるんすね!みやさんの兄貴ポジションとられちゃったから!」

「べ、別に俺は兄貴とか…そ、そんなんじゃねーし…」

「花咲さんって、狼谷さんみたいに顔怖くないし、なんたって実の兄だからなぁ」

「だぁからそんなんじゃねぇって言ってんだろうが!」

「ほらまたそうやってすぐ怒るじゃないすか〜」

「なにぃ!」

「おい、さっきから何をコソコソやっている。怪しまれるだろ」

「すいません…」

「ふん」


 颯爽と歩く都の後ろを二人が歪み合いながら歩いている。


 他の高校生たちが都の方をチラチラと見ている。


「どっちかって言うと目立ってるのみやさんですけどね…」

「お嬢様学校の制服だからだろ」


 猿渡が小声で狼谷に耳打ちする。


「それもありますけど、やっぱり見た目も派手だし、結構かわいいですからね、うちの番長さんは」

「はぁ?かわいいだと?あの暴力女のどこが…」

「何か言ったかお前ら」

「な、なんでもありません…」


 都の鬼の形相にようやく静かになる二人であった。





 時は同じくして柑子山大学、生徒用裏口。


 朝練終わりでジャージ姿の太一が、学内へ入ろうというところで裏口付近にたむろしていたとても大学生には見えないガラの悪そうな男たちに道を塞がれていた。


「なんですか。俺中に入りたいんですけど」

「君、花咲千景くんの友達だよね」


 何も答えず睨みつける太一。


 太一は目の前のやつらを見て、どうも千景が知り合いではなさそうだと思い、危険を感じていた。


「どうして何も答えないのかな?おじさんたち、千景くんに用があるんだよね」

「知りません。というか、ここ大学ですよ。おじさんたちが来るところじゃないでしょ」

「ガキ、生意気言ってんじゃねぇぞ」


 後ろにいた坊主の男が叫んだ。


「まぁまぁ、連れて行ってくれないなら、力づくでも案内してもらおうか」


 男たちが太一に迫る。






 本当に都たちも来るんだろうか。別に何をやるわけではないけど緊張してきた。


 俺は大学では文学部で学んでいる。


 その中でも特に欧米の文学に興味があった俺は、欧米文学の研究室に所属していた。


 もともと本が好きだったのもあり、この研究室を選んだものの、女子が多くていつもどこか馴染めていないような気がしているのだった。


 研究室に入るのは2学年からというのもあり、2年の俺はこの研究室の中では下っ端だった。

そういうわけで、特に男手が必要な作業がある時などは積極的に手伝うようにしていた。


「いやぁ、花咲くんがいてくれてよかったよ。このボード作ったはいいけど運ぶこと考えてなかったんだよね〜はははは〜!」

「お役に立てたなら何よりです…」


 4年の餅田さんはスコット・フィッツジェラルドのオタクで、彼の話を話し始めると止まらなくなる。


 前にグレート・ギャツビーの映画を見に行った話をしたら2時間研究室で解説されたな…。


 今日も大きなボードにフィッツジェラルドの特集を組んでいた。


 高校生相手にマシンガントークをかまさないことを祈るばかりである…。


 研究室の他の先輩たちもそんな感じで本当に本が好きな人が多い。


 みんないい人たちではあるが、その中にいるとどうも自分の本好きなんて大したことないような気がしてきて、俺なんて小物だなと感じてしまうのであった。


「千景!」


 ボードを研究室前に運び終え、声が聞こえた方を振り返ると太一が差し迫った様子でこちらへ走ってきていた。


「太一…ってどうしたんだよお前そのアザ…!」


 太一の右目の周りは痛々しほどに内出血を起こし、青くなっていた。


「千景、早く大学から逃げろ」

「逃げる?何言ってるんだ。どうしたんだよ部活でボールでも当たったのか?」


 太一はバスケ部である。


 中学の時にバスケ漫画にわかりやすく影響を受けて始めたそうだが、大学までしっかり続けてるのだから大したものである。


「お前、一体何やらかしたんだよ」

「だから、さっきからなんの話を…」

「いい加減とぼけるなよ!友達だろ!さっき、見るからに輩っぽいおっさんたちに襲われたんだ。お前のところに案内しろってな」

「え…」

「お前、本当に大丈夫なのか」


 輩…なんで俺が?


「人違いじゃないのか?」

「花咲千景ってそう言ってたぞ」


 どういうことだ…全く身に覚えがない…。


 もしかして都か…?


 とにかく、太一を殴るようなやつらだ。本当に危ない人たちかもしれない。


「俺のせいで殴られたんだよな…ごめん。その、どんな人たちだった?」

「どんなって大柄な男が4、いや5人だな。」


 なんだか嫌な予感がする。


「どうした二人して怖い顔して」

「葉…」

「こいつ、なんかヤバい奴らに追われてて」

「え…」

「でも俺全く身に覚えないんだ」

「千景は自分が身に覚えない不幸も引き寄せてくるからなぁ」

「確かに」

「太一の顔のそれはそいつらに?」

「ああ。ったくとんだ災難だぜ。まぁでも俺はいいやつだからな!お前の場所には死んでも連れていかねぇ!って言って逃げてきたよ」

「太一…ありがとう…」

「怖かっただけじゃ」

「ち、ちげーよ!…とにかく、千景、お前はさっさと逃げろ!」

「で、でもオープンキャンパスの準備が…」

「アホかそんなんいいんだよ!殺されるぞ!」

「あー。妹ちゃんたち来るんだっけ?」

「え!?あのギャル妹が!?」

「うんそうなんだ。もう大学に着いてる頃だと思う」


 男たちは俺を狙ってるなら都は大丈夫だと思うが、ただ、太一を知っていたというなら、都のことも知られていてもおかしくはなかった。


 まぁ、俺より全然強いから、もしかしたら杞憂かもしれないけど、やっぱり放っておけない。


 葉と太一は顔を見合わせた。


「よし、いくかじゃあ」

「探すんでしょ妹ちゃん」

「二人とも…!いや、でも危ないし、二人は準備に戻って…」

「ここまで巻き込んどいて何言ってんだ」

「そうだよ。生徒を殴ったなら警察に通報しなきゃだしね」

「ごめん…!ありがとう!」


 頼もしい友人を持ったものだ。


 そう思った時、俺はふと都と不良仲間たちのことを思った。


 都たちもこんな風に何かあった時、きっと協力し合っている。そんな絆を猿渡くんを見て感じるのだった。


 俺は葉と太一とともに校門付近に向かった。


 この時間ならまだ着いたばかりだろうし、きっと入り口あたりにいるはずだ。






 千景の予想は大きく外れていた。


「どこだここは」

「多分屋上じゃないすかね」

「おいみろお前ら!望遠鏡があるぞ!」


 大学は都たち高校生には広すぎる場所だった。


 3人は完全に迷っていた。


 が、


「なんも見えねぇ」

「これ夜に使うものですよ狼谷さん」

「そうなのか!?」

「天文学部もあるんだな」


 なんだかんだオープンキャンパスを満喫していたのだった。






「いない…」


 入り口付近をあらかた探し回ったが、都たちを見つけることはできなかった。


 あんなブロンドの女の子なんて、そうそういないからいたら一目でわかるのに。


 さっきから何度も電話をかけているが、電話には出ないし…。


 太一や葉にまで時間を使わせてしまっているのも申し訳なかった。


「本当にいるのか妹?もしかしてお前の妄想じゃないよな」

「いるよ!」

「太一じゃないんだからそんな妄想しないでしょ」

「はぁ!?俺だってしないわそんな妄想」

「あれれ。さっきぶりだね〜」


 裏庭に出ると、ガラの悪そうなヒゲを生やした大柄な男たちがこっちを見ていた。


「お前、さっきの!」

「やっと見つけだぞ花咲千景」


 太一に絡んでいた髭の濃い男がこっちを見てそう言った。


 いやまじで誰だ。


 本当に身に覚えがない…。


「なんで、俺の名前…」

「よくも俺のかわいいまぁくんをボコボコにしてくれたな」

「まぁくん?」

「まさか忘れたわけじゃないだろう?」

「千景、お前にそんな趣味が…」

「いやないないないない」


 都じゃあるまいし…。


 そもそも俺に人を殴るくらいの度胸もパワーもない。


「あの〜もしやとは思いますが、ボコボコにしたのは俺の妹では?」

「何を言っている。まぁくんが女にやられるわけないだろう。お前の働くコンビニの駐車場でお前にボコられたと俺のかわいいかわいい弟が泣きついてきたんだ。お兄ちゃんとしてきちんと仕返しをしてやらんとな」


 コンビニって…あの時の高校生たちか…!


 てかやっぱり都じゃねぇか!


 あの悪ガキたち…女にやられたとは言えないからって俺のせいに…!


「どうやら思い出したようだな」

「俺じゃない」


 けど、都のとこに行かれても困る。


 ここは穏便に…。


「往生際が悪いぞ」


 男たちはどんどん距離を詰めてくる。


「お、落ち着いてください!とりあえず暴力はふるってない。人違いです!」

「ガキ!つべこべうるせぇぞ!なんだ、今更怖がってんのか!?ああ!?」


 後ろにいた坊主の人が俺を殴る一歩手前まで出てきた。


 今まさに殴られんというところだった。


「人違いで他人に怪我を負わせていいんですか!」

「葉!」


 葉が俺の前に立ち、声を張り上げた。


「俺の弟がお前に殴られたって言ってるんだから人違いじゃないだろ。殴られたやつの気持ちはどうでもいいのか。そうか」

「蜂尾さん。もうらちあかねぇんでやっちゃいやしょう」


 ひときはでかい巨人男が拳を握りながらそう言った。


「ああ。やれ」


 巨人男は俺と葉に向かって大きな拳を振り下ろした。


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