8月~お盆期間の前に(2)~
しんみりとした雰囲気を打ち破ったのは、ある疑問を幸子に聞きたい拓巳だった。
「あのぉ、もしかして、阿部さんが言ってた先月の取材で気になったことが出てきたというのは、これのことだったんですか?」
拓巳は思っていたことを幸子に言った。
「正確に言うと、当時思っていた疑問が取材を受けているときにだんだんと思い出してきただけ」
「何で、その疑問を忘れてたんですか?」
「部活や勉強で忙しかったからねぇ…いつの間にか忘れたんだよ」
「年を取るにつて、小さな疑問は忘れる。私も何個か忘れた」
「私もそうなるんでしょうか…」
沙維香が心配そうに言った。
「疑問は口に出すのが1番」
「私やさっちゃんのようにならないためにもね」
あれっ、話しが別の方向に進んでいる気がする。
「盛り上がっているところ悪いけど、取材を進めようよ」
浩太も拓巳と同じことを感じ取ったのか、話しを軌道修正する。拓巳は尊敬した表情で浩太を見たが、浩太が気づいた様子はなかった。
「そうだね…といっても、他にあったっけ?」
「母がいた頃には、読書会があったと…」
「あぁ、読書会。あったね」
「俺が中等部1年の頃まであったよ」
「2年以降は…」
「なくなった。原因は、部員の対立」
「対立!?」
拓巳と沙維香の声が重なる。
「私も初めて聞きました」
幸子も若干困惑している。
「あの出来事は、誰も話そうとしないし、当時の部員しか知らないと思うよ。説明は浩太にまかせた」
「…姉さんの方が詳しいと思うけど…」
「こういう説明はあんたの方が上手いっ」
「…まぁ、とにかく説明するよ。読書会はね、本を読んで、感想を言い合ったりするんだけど、読書会に惹かれて入部した部員も何名かいた。でも、当時の部長が、読書会を活動からなくそう、と言い出したんだ。理由は、広報誌の締め切りが忙しいこと。あと、これは言いにくいんだけど…図書部員って、読書が好きでない人のいるからね…本を全く読まない部員も何人かいたし…」
「僕も本を読みませんよ」
「いらない報告ありがとう」
拓巳の発言をあっさり片づける浩太。
「読書は好きでも、感想や意見を言いあうのが苦手な人、つまり俺のようなタイプ…」
「最後の説明はいらん」
千明が浩太に容赦なく突っ込む。
「…まぁ、先へ進むよ。部長の一言が原因で、賛成派と反対派に分かれ対立。その後、反対派が読書同好会を設立」
「読書同好会…大岐君知ってる?」
「知らないなぁ…」
「私が在籍していた時も聞いたことがない」
「阿部さんが知らなくて当然かもね。誰にも知られずに、ひっそりと活動していたみたいだからね。新入生を募集してる様子もなかった…というより出来なかった」
「何でですか?」
「この学校での同好会の扱いは、非公認みたいなものでさ。基本、‘部’は公認扱いで、新入生歓迎会や文化祭で表に出て活動が出来る。同好会はそれが全く出来ないから、廃れて廃部になるところも多い」
「読書部には出来なかったのですか?」
「顧問の先生が見つからなかった」
拓巳は、それを聞いて、読書部が公認扱いで良かった、と心からホッとした。
「それに、中等部に在籍中は同好会に入部出来ない規則がある」
「えっ、だって反対派の生徒には、中等部の生徒もいたんじゃ…」
「いたけど、図書部には在籍していたんだ。一応、同好会と部は兼部可能だったしね」
「読書同好会も気になる?」
千明が聞いてきたので、沙維香が頷いた。
「詳しい内容じゃないけど、読書同好会部長のインタビューが校内新聞に載ってたから、少しは分かるんじゃないかな。新聞部に頼んで見せてもらいなよ」
「また、新聞部に行くのか…」
「またって?」
幸子が聞いてきたので、拓巳は慌てて、
「それは、こっちの要件です」
と答えた。10年前の事故死した部員についてだなんて、幸子には言えない。
OBOGへの、取材は終わった。帰り際、「今年の文化祭行くね」「フリーペーパー楽しみにしてるよ」とそれぞれ言われた。
「取材も終わったし、残りの夏休みのんびり出来るぞぉ」
「何言ってんの、大岐君。フリーペーパーを作成しなくてはなりません」
「夏休み明けに作ればいいんじゃないの」
「顧問の稲峰先生に聞きました。文化祭の日程の関係上、印刷所の締め切りは9月上旬だと…昨年もそうでしたよね?」
「あぁ…忘れてた」
ガックシした表情になる拓巳。
「でも、早く書き終われば残りの夏休みはゆっくりと…」
「早く終わればいいというものではありません。読んでくださる方が分かるようじっくり考えて書くべきです」
沙維香が当たり前のことを言った。
「ですよね…」
「大岐君っ」
「はいっ」
「書く前に、どういう構成にするか考えましょう」
「はいっ」
お盆期間を除いて、拓巳の夏休みは、フリーペーパーの作成に追われることとなった。




