8月~お盆期間の前に(1)~
「うわー、懐かしい」
「姉さんは卒業以来だっけ?」
「そう。仕事が忙しすぎて、行く暇がないんだよね」
「仕事だけじゃなく、子育ても大変だと聞きましたが?」
「旦那が手伝ってくれないからね。さっちゃんも結婚するときは、家事や育児に参加してくれる人を条件にした方がいいよ。小野さんもね」
「はいっ」
8月上旬の土曜日、、図書室には、男女合わせて5人がいた。全員、図書部関係者。現部員の拓巳と沙維香。元部員の、幸子に門倉姉弟。姉は千明、弟は浩太。千明の方は、結婚し、姓が変わった。門間になったが、名字に‘門’が入っているから旧姓と変わらない、と千明が自己紹介をするとき笑いながら言った。
それにしても、千明さん話し長いなぁ…僕のお母さんも近所の人とのお喋りが長いし、女の人って30歳を過ぎると、話しが長くなるものなのかな?
拓巳が思っていることを感じ取ったのか、
「取材を始めようか」
浩太が次に進める。
「図書部の活動内容ね…今と大分違うのかな?」
千明が聞いてきたので、沙維香が応える。
「今の活動内容は、文化祭に出すフリーペーパーを作成するだけです」
「…随分と手抜きになったな…」
千明がチラッと責めるような目つきで拓巳の方を見た。
えっ、何だか知らないけど、僕責められてる。僕のせいじゃないのに…。
「…今の活動内容になったのは、僕じゃなくて、八橋先輩が…」
「今の活動内容になった理由を調査してるんだよね」
「はいっ。今年のフリーペーパーで発表しようと思い、OBOGの方に取材をしています」
しどろもどろの拓巳に、幸子と沙維香が話題を変える。
「へぇ~、そうなんだ。だったら、今年の文化祭は行こうかな」
「俺も、行こうかと考えているよ。卒業後の活動も気になるからね」
「先輩がいた頃より、パワーダウンしてますよ」
「普通、パワーアップしているものだろ」
上手く話しが逸れたみたいだ。
拓巳は心の中で幸子と沙維香に感謝をする。
「取材を始めたいと思います」
沙維香が改めて宣言した。
「話しは大体さっちゃんから聞いてるからよ。毎月、広報誌を書いたり、図書委員会と協力して蔵書点検なんかもしたね」
「広報誌なんて、毎月あるから、何を書けばいいか分からなくて、何回頭をひねったことか…」
「今思えば、毎月やらなくてもよかったよね…」
「先輩が卒業してからは、発行ペースを3か月ごとに変えました」
「うぉっ、それはズルい…」
「私も在籍していた時も変えればよかった…」
門倉姉弟が悔しそうな顔をする。
「あとは、図書祭り」
「俺が在籍しているときに、なくなったけどね…」
「何でなくなったんだっけ?」
さりげなく弟に質問する千明に、拓巳は内心『グッジョブ』と叫んだ。
「当時の先生方が、校内に学校に関係ない子供を入れるのを嫌って…」
「他にも理由がありますよね?」
幸子が話しを遮るように言った。
「先輩が卒業してから、古くなった本を整理する機会があったんです。その中には、ページが破られて本や落書きしてある本がいくつかありました」
「えっ、それは…」
拓巳と沙維香は驚いた表情になった。
「最初は当時の生徒がいたずらでやったのだろうと思いましたが、落書きを見た限り、園児や小学校低学年の子が書いたのではないかと」
「それで」
「その子らがこの学校に来る機会なんて、文化祭ぐらいだろうと思ったのですが、文化祭当日は図書室を閉めてました。文化祭以外を考えたとき、図書祭りがあったことを思い出しました」
「もしかして、図書祭りがなくなったのも…」
沙維香も何か分かったようだ。何一つ分からない拓巳は、門倉姉弟の顔を交互に見た。
「子供たちが、本を破いたり落書きをしたのも中止した理由の一つだよ」
「私らの頃からも問題視されていたね」
門倉姉弟の顔が若干曇る。
「図書祭りといっても、読み聞かせ以外はやってないからね。途中で飽きる子が出てくるんだよ」
千明が悲しそうに言う。
「そういう子たちのために、画用紙とクレヨンを置いたけど…」
「結局、本に落書きをされただけだった」
「置かなければ…」
拓巳が思っていることを口に出した。
「画用紙とクレヨンはそうだけど、本は関係なく破かれるからね」
「いつか忘れたけど、俺の前で破かれたこともあったな…」
沙維香と拓巳はなんて言えばいいのか分からなかった。
「それらの事が続いたから、図書祭りはなくなった」
ただ一人、幸子がまとめるように言う。
「元々、図書祭りが出来たのは、当時の理事長が『市民の協力なくして、楠木学園の発展はなし!』と言って、市民と交流するようにと作られたイベントだからね。広報誌の締め切りのこともあってか、図書祭りを疎んでいた部員は多かったと思うよ」
「市民と交流するなら、他にも方法があった気がするけどね…」
図書室はしんみりとした雰囲気が漂っていた。




