7.やっぱりずる賢い男
「じゃあ早速…俺の家に引っ越してもらう件だけど」
「ちょっとまって」
「ん?」
「は?引っ越し?一応聞くけど、誰が?」
「え、レヴィに決まってるじゃん」
まるで私が変なことを聞いたかのように笑い飛ばすニコラス。
あまりにも当然のように言ってくるが、この場合、絶対に間違っているのはニコラスの方だと思うが。
「どこからそんな話が出てきたの」
「親戚の子…名前、エレーヌって言うんだけどさ。そいつ、俺の家まで普通に来るから、できたら恋人と一緒に住んでるっていうことにしたくて」
「そういうことは絶対に先に言うべきじゃない!?あと、普通にお断りなんだけど!」
「変なことはしないって約束するから!」
「それは当たり前では!?」
変なことをしないって、いわゆる恋人的なあれこれということだと思う。
当たり前だろう、私達契約関係だし。
しかも、しれっと聞き流しそうになったが、親戚の女の子の名前がエレーヌと言っていた。
今まで聞いた条件に当てはまりそうな『エレーヌ』という名前の女の子は、この国では一人しか思いつかない。
ドモン公爵家のご令嬢だ。
この国の筆頭公爵家で、兄と妹の二人兄弟。
お父様が娘を溺愛されており、たいそう可愛がられて育ったせいか、それはそれはわがままになってしまった…との話だったはず。
公爵家からのわがままとなると、ニコラスも強く出れないのは納得である。
(しまった、もっと細かい条件を聞いておくべきだった…。仕事終わりで疲れてたのもあってヤケになってたわ、私としたことが…)
契約完了後の条件なんてものよりも、契約中の詳細のほうが大切に決まっている。
そんなことを考えていたのが、きっと顔に出ていたのだろう。
それでなくても彼は、いつだって私の心情をピッタリと言い当ててくるのだ。
「あ、もしかして気づいた?さすがレヴィは鋭いな〜」
「…ズルだと思う。後出しすぎるもの、今からでも拒否させて」
「ま、レヴィには残念だけど、もう契約書にサインしただろ?レヴィって、こういう書類…特に自分に関するもの結構読み飛ばすところあるよね」
睨みつけた私の目線なんて気にする素振りもなく、ニコラスはそう言った。
その言葉に、私ももう一度契約書を見つめ直す。
改めて見てみると、大きな文字で書かれた契約の大枠の他に、それはそれは小さな文字で書かれた補足事項を見つけた。
【契約期間中、甲は乙と生活を共にすること】
「こんなの気づくわけない…」
「まぁでも書いてるからさ!」
爽やかに笑ってそう言い飛ばすニコラス。
私は完全に彼の手の上で踊らされていた。
仕方ない。
大変腹立たしいけど、ニコラスの言うとおりではある。
やたら細かい文字だなーと思って、正直読み飛ばした所はある。…私が誓約書を書こうと言い出したのにも、だ。
わざとらしく大きなため息をつき、少し行儀が悪いことは承知の上で、残った紅茶を一気に飲み干した。
うだうだ言っても仕方ないだろう。
「わかった。…三ヶ月間"居候"させていただきます」
「恋人同士の"同棲"じゃなくて?」
「契約だし!違うから!…というかもうなんでもいいから、疲れたし早く案内してちょうだい」
「はいはーい、じゃあ早く俺達の新居に向かおっか」
「もう突っ込むのも疲れてきたわ…」
すぐに終わると言っていたニコラスの話は、かれこれ数時間がすでに経っており、ニコラスに翻弄されて疲れきった私と、何故かやたらと楽しそうなニコラスは、
伯爵家迎えの馬車に揺られながら、二人で彼の家に向かうこととなった。




