5.ニコラスのお願い②
その後も話は平行線で、どうやらニコラスは、二つ目のお願いについても全く引く気がないようだった。
というか、こちらが何を言ってもあれやこれやと笑顔でかわしてくるので、こっちが辟易してきた。
(ていうか、恋人のフリってなんなの?それ)
改めてそう心の中で思ったつもりだったのだが。
どうやら口から出ていたらしい。
「おっ、興味持ってくれた?」
「…ない。ついそのまま口に出てただけ」
「まあまあ、そう言わずに聞いてくれていいんだけどさ〜」
「ねぇ、聞かないってば」
「俺的にはこっちのほうが大変なんだよ」
「私の話こそ聞いてくれない?」
勝手に話しだしたニコラスによると、どうやら、彼の従兄弟に当たる女の子が、彼のことをいたく気に入っており、何度も婚約の打診をしてきてはやんわりと断る、を繰り返しているそうだ。
挙げ句の果てに、それだけでは飽き足らず、最近ではニコラスの仕事場にも顔を出しにくるらしい。
「それって、ストーカー?っていうやつよね?」
「…まぁ、そうだな」
諦めた笑いを浮かべるニコラス。加えて、その女の子はニコラスよりも家格の高いご令嬢らしく、強く断ることもできないと。
…そこで、恋人がいると伝え諦めてもらおう大作戦、らしい。
(…ダサいし意味がわらからないわ)
「…もう、婚約してあげたらいいじゃない」
これはしっかりと心から発言した。
「嫌だよ!というかその子、今18歳だし」
「あぁ…まぁ、貴族の婚約であれば、その程度の年齢差はあるあるなんじゃない?」
「いや、俺はどちらかと言うなら年上がいいし、あと諸々あんまりタイプじゃない。しつこい女の子嫌いだし」
「あ、そう…。もうそれをそのまま伝えたら?」
「家の関係もあって強く言えないんだよ。本当に困ってるんだって」
まぁ、話しぶり的に本当の事なんだろう。
ニコラスは肩をすくめながら続けた。
「レヴィ頼むよ。もう、俺は恋人と結婚目前だからって言うしか諦めてくれなさそうなんだって」
少し考えてみたが、お相手の令嬢はニコラスよりも家格の高い家ときた。
以前ニコラスは、伯爵家の次男坊、と言っていた記憶があるので、それより高い爵位の高位貴族で間違いない。
そして、ニコラスの話によると、23歳の彼に怯むことなく何度もアタックし、なおかつ諦めない胆力の女の子ときた。
こう言ってはなんだが、なかなか手ごわそうな女の子だと思う。
「…恋人のフリを頼むにしても、相手が間違ってるんじゃない?その…平民の、こんなに野暮ったいボサッとした女なんて、その子からしたら、私はライバルとして大したことないんじゃないの」
自分で言うのもなんだが、今の私はただの平民上がりの文官である。
加えて、本当の自分がバレないように、信じられないほどの分厚い眼鏡をかけて、本来は薄ピンクの髪色も真っ黒に染めている。
お金を貯めるために、業務に関係ないアクセサリーはつけないし、化粧だって最低限だ。
18歳の貴族の女の子目線で考えると、こんなのが想い人の恋人だと紹介されても、だから何だ、というレベルだと思う。
「まぁ女性のレヴィがそう言うならそうかもしれないけど、残念ながら、こんなことを頼める女性は他にいないんだよ」
「じゃあ、あなたが諦めるか我慢をするしかないわね」
「まぁ細かいところは俺が頑張るからさ、とりあえず恋人って形で演じてくれよ」
「ねぇ、話聞いてた?」
あくまでニコラスは譲らない様子だった。
私は、大きく何度めかのため息をついた。
「第一、後者の方は、あまりにも私にメリットがないじゃない」
「え、そう?」
「そうでしょ。ニコラスの恋人なんて触れ回ったら、仕事もやりにくいし、恋人だって…」
「いるの?」
一瞬、ニコラスのその言葉に、部屋の空気がひんやりとした気がした。
「え?」
「今、レヴィには、恋人がいるの?」
「いないけど…できないじゃない?って話」
「あぁそういうことね…。うん、俺がなるんだからそれでいいじゃん」
「そういう話じゃないし、そもそもそれは仮、でしょ!?」
ニコラスとの話し合いはまだまだ平行線だった。




