19.アレックス殿下の依頼②
「あの、私ではパーティーに参加することは難しいかと…。えっと、見目もこんな感じですし、ドレスとかもないですし、マナーも身についておりませんので…」
そう。
まず、ニコラスが許可するか以前に、私では難しい。
というか、難しいということにしないとまずい。
仮にパーティーに参加すると仮定した場合。
おそらくドレスはどうにかなるだろう。
二人にはああ言ったが、令嬢時代に教わったマナーは体に染み付いている。
よく、『レヴィって、平民なのに、食べ方とか歩き方とか、言葉遣いもきれいよね』と言われることもあるのだ。
当たり前にダンスだって踊れる。
むしろこの二つに関しては、逆に正体がバレる可能性もあり危ないまであるのだ。
そして何よりもまずいこと。
パーティーに参加するとなると、メガネをかけた野暮ったい格好のままで行くわけにはいかない。
化粧をしっかりとして、場に浮かないよう着飾らなければならないのだ。
バレる。流石に確実にバレてしまう。
仮にニコラスが私の顔を全く知らなかったとしても、父や母…元婚約者など、私のことを知っている人間がいる可能性だってある。
背中に冷や汗が伝うのを感じながら、あくまでも
『平民の私には、パーティーなんて敷居が高いですわ』
という体で二人に提言する。
参加は難しいと。
ところが、この会話の相手は、国のすべてを受け入れられるような寛大な心を持ち、莫大な資金を持つ王族なことを忘れていた。
「ドレスは僕が用意するから大丈夫だよ?ニコラスでもいいしけど」
「え」
「こっちから頼んでるしね。それに、マナーは…僕が見ている限りはしっかり身についてるみたいだし問題ないと思うけど」
「いや、殿下、あの」
「見た目も…うん。今はお仕事用だと思うけど、しっかり準備すれば全然大丈夫だと思うよ?レヴィちゃんはかわいいしね」
「!?そ、それはどうも、ありがとうございます…?」
全く気にしないといった様子の殿下。
でも今はその言葉を求めていない…!
頭の中で一人うるさく慌てていたら、その隙にニコラスが横から口を挟んだ。
「だとしても、他に誰かいないのか?レヴィ以外に参加できそうな人間」
「いないよ。気難しいお前とペアなんて余計にね」
「…別に気難しくなんてないだろ」
「…というかさ、ニコラス。ちょっと」
そう言ったアレックス殿下は、ニコラスの方に顔を寄せ、ニコラスも何かを察したのか、殿下の方に少し顔を傾ける。
そして、アレックス殿下がニコラスにだけ聞こえる声量で何かをつぶやくと、ニコラスはその言葉に大きなため息をして呆れたような表情を見せた。
「お前…はぁ、まぁいいや。どうせ反論するだけ無駄なんだろ?」
「じゃ、受けてくれる?レヴィちゃんは良いみたいだけど」
「えっ」
そんなこと、一言も言ってませんが。
そう反論しようとしたときには、何故か嫌々ではあるものの、勝手に承諾しているニコラスがいたのだった。
「まぁ仕方ないか…。安全だけは、アレクが全力で確保しろよ」
「いや、え?ま…と、とりあえずニコラス、殿下に向かってその言い方は、」
「いいんだよ別に」
「いいよ、気にしてないし」
アレックス殿下は、やっぱり爽やかな顔で笑いながら、伸びをしてソファから立ち上がった。
「承諾してくれるならそれでいいからさ。じゃ、僕はそろそろ戻るね。レヴィちゃん、またお話しようね」
「あっ、ちょ、まて!っレヴィ悪い、書類だけまとめといて!」
「は!?」
私が止めるよりも早く、そう言って二人は部屋をあとにしてしまった。
私はというもの、静かにしまっていくドアを見つめ、ゆっくりと視線を室内に戻す。
ニコラスの机から吹き落ちている書類の山と、殿下の置いていった招待状を見つめながら、大きなため息をつくしかないのだった。
「ていうか私、行くなんて言ってないし…」




