18.アレックス殿下の依頼①
照れを隠すために私はどんどん紅茶を煽った。
ちなみに、令嬢としては完全に失態である。
横から、ケラケラと腹立たしい笑い声が聞こえている気がするが、無視だ。
改めてアレックス殿下に向き直す。
「実はさ、ドモン公爵家で開催される夜会に出席してきてほしいんだよね」
「え!?」
「夜会?」
私とニコラスの考えていることはおそらく違うのだが、アレックス殿下からの思わぬ依頼に二人の声が重なった。
殿下は、懐から1枚の招待状を取り出し、机の上に置きこう続けた。
「ニコラスは知ってると思うけど、あの例の法改正の件。ドモン公爵率いる旧体制派の反発が強くて、面倒くさいことになってるだろ?」
「あぁ、そうだな」
ニコラスは、そう答えながらチラリと私を一瞥する。
きっと、"あの例の法改正"というのは、爵位継承に関するものだろう。
私がこの法律を人一倍気にしていることを、ニコラスは知っている。
だから、私の方を見たのだと思う。
とは言っても、今の私に現状でできることは殆ど無い。
まずはおとなしく、二人の会話を聞くに徹することにした。
「ドモン公爵の親戚に、シール伯爵家という家があるんだ。ちょうど王都から少し離れた海辺のあたりが領地に当たるんだけど…どうやらそこで、うちでは禁止されている薬を密輸入しているらしい」
「それがどう関わってくるんだよ。シール伯爵家は、確かに前から怪しいと睨んでたけど、法律の件とは何ら関係ないだろ」
「とりあえず話を聞いてくれない?」
逐一文句を言うニコラスに、殿下がやや呆れた様子で苦笑する。
「シール伯爵家で密輸入を先導しているのも、どうやらドモン公爵のようなんだ。シール伯爵家の領地の港で、異国から薬を輸入、横流しして、高値で売り捌く。…で、ここからが本題だけど」
机に置いた招待状をみつめ、指で叩きこう述べた。
「シール伯爵家は、元々ドモン公爵家との関わりは無い家だったんだ。それが、伯爵家も子供が娘しかおらず、婿養子として入ったドモン公爵の縁戚のものが、今、爵位を継いでいる。そして今、その婿養子と妻は不仲で、離婚の危機にあるらしい」
その言葉にハッとして、思わず呟いた。
「離婚して、なおかつ法律が通ったら、その…縁戚の男が今まで所有していた爵位が妻に渡り、悪事が明るみ出ることを恐れて、改正をゴネているかもしれない、と、いうこと…?」
「流石レヴィちゃん、頭が切れるね」
「!いえ、すみません。つい気になってしまって」
気にしなくていいのに、と殿下は笑った。
「そこまではわかった。でも、それがなんで俺とレヴィがドモン公爵の邸宅で開かれる夜会に参加することになるんだよ」
「あのさ、お前はもう少し、俺を敬うっていう言葉を覚えたほうがいいんじゃない?」
「今更だろ」
「まぁそうなんだけどさ」
まったく可愛くないね、と言いながら、アレックス殿下はもう冷え切ってしまったであろう紅茶を一口口に含んだ。
なんとなく察してはいたのだが、改めて思った。
この二人、やっぱり、私の思っているよりも気安い関係なのだろう。
だったらなんで最初から教えてくれなかったんだ。
そんな気持ちを込めてチラリと横に座るニコラスを見やる。
しかしさっき、アレックス殿下との雑談で、ニコラスの顔が好き、などと言ってしまったせいなのか、いつもよりもどこか彼の顔が端正に見えるのだ。
なんとなく納得いかずにぼんやりと彼の顔を見ていたところ、少し見つめすぎたのか、何故か不意に私の方に顔を向けたニコラスとバッチリ目があってしまい、慌てて視線をそらした。
ニコラスが不思議そうな顔をしているのがわかるが、気づかないふりをする。
そして、すぐにアレックス殿下が続きを話し始めた。
「その会場には、どうやシール伯爵本人も来るらしい。それに、保守派──ドモン公爵率いる反改正派がたくさん集まるんだ。…そこで、可能な限りの悪事を引ければ、一気にこっちが優勢になって押し通せるだろ?」
その言葉に、ニコラスは即座に否定する。
「…そんなにうまいこといくわけ無いだろ。それに、俺は参加してもいいけど、レヴィは反対だ。そんなに敵ばかりのところ…というか、密輸が行われる現場になり得る会場に連れて行くのは危険すぎる」
「ジャン補佐官のことがあったからか?」
「アレク」
珍しくニコラスが一段低いトーンで圧をかける。
ジャン補佐官のことは、結局なぜ怪我をしたのかは聞いていないため、意図はわからない。
ただ、おそらくこう言った潜入のような業務で何かがあったのだろうと推測出来た。
「ごめんごめん、冗談。でも、そのパーティーは同伴じゃないと入れないんだ。レヴィちゃん以外の女性といくの、嫌だろ?」
殿下のその言葉に、ハッとした表情を見せ、すぐさま眉を寄せるニコラス。
「あぁ、その手の薬ってことか…。だからといって、レヴィを連れてくのは───」
「あ、あの、良いでしょうか」
「ん?どうぞ」
ここまでなるべく黙って聞いていたが、まず一つ訂正しないといけないことがある。
おずおずと手を上げて、小さく咳払いをして口を開いた。




