17.アレックス殿下の突撃②
「はぇ!?え、わ!ニコラス!?な、いつからっ…」
聞き慣れた声に慌てて振り向くと、そこには、少し頬を赤くして殿下を睨みながら立っているニコラスがいた。
「レヴィちゃんがニコラスの好きなところを羅列したあたりから、かな?」
殿下が答える。
よく考えれば、彼の位置からはドアの開閉も丸見えなのだ。
気づいてたのなら教えてほしかった。
「き!?聞いたの、聞いてたの…!?」
「…ごめん」
ニコラスもどこか気まずそうに頭を掻いている。
穴があったら入りたい。
というかもはや、できることならソファに顔を埋めてしまいたいレベルだ。
私は、必死に赤くなった顔を抑えようと、やや冷めた紅茶をひたすら飲み続けた。
「おかえり、ニコラス」
「来るなら言っとけよ…。ていうか、ここ俺の部屋だっつーのに、なんでそんなに寛いでんだよ」
大きなため息をつきながら室内に入っていくニコラス。
その口調に思わず私が焦ってしまった。
「ちょ、ニコラス!言葉使い!」
「え?あぁ、大丈夫大丈夫。俺とアレクの仲だから」
…アレクって。
そんなに親しいんだったら最初から言っててくれ。
ニコラスに恨みを込めた目線をやるも、彼はなんのことやらとして頭を傾けた。
「どした?俺のことじっと見て」
「ちょ、やめて!な、急に何言うのよ!?」
「いや、そっちがじっと見てくるから」
「ちがっ、違うって!ばか!」
「え〜?」
そんな私達のやり取りに、アレックス殿下が笑い声を立てる。
「ふふ、いいなーニコラス。俺も恋人が欲しくなるよ」
「お前…それ、父親に言ってやれよ。喜んで縁談持ってくるぞ」
「そういうことじゃないんだよ。わかってないなぁ、ね、レヴィちゃん」
「えっ!?え、えぇ…?」
急に振られた話に、思わず詰まりながら返事をした。
そういえばアレックス殿下は、そのお育ちと年齢を考慮すると、王族には珍しく今でも独身で、婚約者もいらっしゃらないというお話だったと思う。
「おい、わかんないのに適当に返事するなって。…つか、え?レヴィちゃん?」
「うん、そっちのほうがいいでしょ?」
「何と比較してだよ、別にいいけど…」
微妙な反応をしながら、執務机の前まで行ったニコラスは、手に持ったままの書類を整理することなくバサリと机に置いて──
なぜか、そのまま私の横に腰掛けた。
「え!?なんでこっちに座るの!」
思わず立ち上がって飛び退く。
「いや、男二人でこのソファは狭いだろ。でかい男が横並びで座るのも、なんかキモいし」
「いやいやいや…」
だからといって急に横に座られてはびっくりするだろう。
それに、殿下もニコラスも見目はいいから、別に二人で横並びに座ったとて、さほど変な絵面にはならないと思う。
…狭いのは、そうだと思うが。
「じゃあ、私が一回部屋を出るから──」
「あ、待って待って」
私のその言葉に、黙って座っていたアレックス殿下が慌てて静止をかける。
「レヴィちゃんに会いに来たのも本当なんだけど、もう一つ。ちょっと、二人に頼みたいことがあってさ」
「えっ」
「そっちが本命だから、もう少し話を聞いてもらえると嬉しいんだけど」
アレックス殿下からのお願いであると、断るわけにも、無視するわけにもいかない。
私は仕方なく、可能な限り、ニコラスの腰掛ける位置と反対側の端、ギリギリの位置に座り直した。
「避けすぎだろ、照れてるのか?」
「照れてないです!殿下、お話というのは?」
もうニコラスは無視しよう。
というか、恥ずかしくて顔を見られない。
いくら口からでまかせといえど、完全な嘘を言っていたわけではない。
普段こんな仲なのに、あんなことを言っていたを聞かれたのが恥ずかしすぎるのだ。
「仲良しだねぇ」
「レヴィがもうちょっと、素直になってくれるといいんだけどな」
「二人していじめないでください!はやく、お話を!」
「うん、じゃあ本題に入ろうか」




