15.そして、新しい味方?
二人同時に声の主を振り返る。
「えっ?」
「なっ……!なんで、あなたが…」
私の反応とは裏腹に、瞬時に熱が落ち着き顔が真っ白になる公爵。
そこには、ひときわキラキラとしたオーラを放って、この場に相応しくない爽やかな笑顔を顔に浮かべた男性が立っていた。
サラサラと流れる金色の髪はきれいに整えられ、見るからに仕立てのいい服装をしたその男性は、ドモン公爵のことなど露知らず、何事もなかったかのように、彼を押し退け平然と執務室に入ってきた。
「えっ、えっ、あの、」
執務室に入るやいなや、言葉を失った公爵の方を振り向き、穏やかに口を開いた。
「ドモン公爵。彼女の任命に関しては、私も事前に彼から聞いて、承認しました。あなたは、私のことも節穴だと言いたいのですか?」
「いえ!まさかそんな、節穴なのはあいつの女の趣味というところでして…」
(この公爵しつこいわね…もうわかったわよ)
「…いえ殿下、恐れながらですね。私はやはり、自分の女を補佐官にするというのは、よくないと思うのですよ」
(殿下!?…ってことは、この方が、アレックス王太子…ってことよね)
アレックス王太子のことは、恥ずかしながら、名前だけしか聞いたことがなかった。
若い頃から各国に留学し、知識欲もあり、先進的な視野を持つ方だと言うのが、以前からよく聞く噂だった。
器量も良く、頭も切れるが…その分、我が国の頭の硬い高齢の貴族達とは意見が合わず、議会が度々対立していたとも。
私の望んでいた、女性でも爵位が継げる法律改定は、とても先進的な考えだ。
高齢貴族達の反発の多い中、アレックス殿下が表立って舵を取ってくれたおかげと聞いていたため、一度どこかでお会いしてみたいとは思っていたのだ。
(平民になってしまった今では、そんな機会は到底無いと思っていたけれど…まさかこんな形でお会い出来るとは)
思わず見惚れていると、私の視線に気がついたのか、アレックス殿下は私を見やり、軽く肩をだいてドモン公爵に言った。
「彼女は、とても優秀な文官ですよ。ジャン補佐官は怪我が治ったら復帰する…その穴埋めのために、多忙で癖のあるニコラスの補佐官を探すのは時間も労力も割に合わない」
「レヴィ女子であれば、ニコラスの性格も熟知しているし、仕事もすぐに覚えて、期間限定の業務でも怠り無く執行できると思ったから許可したんです」
「もちろん、ニコラスには釘を刺してますよ。私情は持ち込まないように、と」
「で、ですが…」
なおも食い下がる公爵に、殿下は更に畳み掛ける。
「あなたの娘がよくここに訪ねて来ていることも、ニコラスから聞いています。彼女をクビにするのではあれば、貴殿の娘がここへ訪れることも、公務妨害として書面にして禁ずる必要があるかと思いますが…どうでしょうか?」
「…失礼いたしました。ご無礼をお許しください。…本日は、こちらで失礼いたします」
娘の言動を、追求されては言い返すこともできない。
加えて相手は我が国の王子なのだ。
流石に強くは出れないと判断したのか、最後に私を一睨みはしたものの、そそくさと執務室を後にした。
ドアが閉まったのを確認し、私は慌ててアレックス王太子から離れて、お礼をいう。
「アレックス王太子殿下。この度は、助けていただき、本当にありがとうございました」
「そんなにかしこまらなくていいよ?」
彼は、先程とほとんど変わらないトーンで、少し困ったように頬をかきながら笑った。
「年齢も近いんだしね。ニコラスに聞いてたけど、まさかこんなにピッタリのタイミングとは。助けられてよかったよ」
ニコラス以外のまともな男性と久しぶりに話したせいなのか、アレックス殿下の王族オーラなのか。
私は、彼の笑顔に、少しだけ圧倒されたのだった。




