12.初めての対面
そして事件が起きたのは───なんと、早速その日の午後のことだった。
早速溜まった書類作業のために、執務机で作業をしていたところ、コンコンとドアが叩かれたノック音がした。
また新たな書類が届けられたのかと、席から立ち上がりドアを開けようとした瞬間。
既の差で、バン!と勢い良く誰かの手によって開かれた。
そして下から、威勢のいい女の子の声が聞こえてきた。
「は?あんた誰」
慌てて目線を下げると、そこには、可愛らしい顔立ちで、質のいいドレスに身を包んだ少女が立っていた。
隠しきれない私への苛立ちを全面に出しながら。
「ニコラス様!父の仕事の付き添いで城まで来たので、お会いしに来ました!」
先程私に向けた声とは三段階ほど高いイントネーションで、扉の奥にいるニコラスに笑顔を振りまいている。
その様子を見て、すぐに納得した。
(…この子か!)
「…で?あなたは誰なの?邪魔なんだけど、どいてくれない?」
再び私の方へ向き直ったエレーヌは、あの可愛らしい笑顔を消し大変不愉快ですという口調で私に尋ねた。
エレーヌにバレないように、ちらりと後ろのニコラスを見やると、目線で何かを伝えようとしてきている気がした。
まずは、穏便に解決を図ろうと、改めてご令嬢の方に向きを変え、少し咳払いをしてできるだけ丁寧に謝罪をする。
「ご挨拶遅れて申し訳ありません。ジャン補佐官の休職期間に、三ヶ月間だけニコラス様の補佐官として務めることとなりました、レヴィと申します」
「…へぇ?」
すると彼女は、その言葉を皮切りに、私を品定めするかのように目線を上下に動かした。
「ニコラス様の補佐官が、こんな芋臭い平民の女?ありえないわ!ニコラス様、私が父に言って、変えてもらうように伝えてあげますわ!」
(おぉ、想像通りの反応)
なんだか、あまりにも想像通りの反応が返ってきて、思わず笑いそうになった口を必死に抑えつつ、極めて平然を保ちながら返答する。
「申し訳ありません。ですがこれは、ニコラス様から任命されたものですので…」
「え!?ニコラス様が指名したの!?こんな女を!?」
(というかこの子すごいな)
ニコラスは奥にいるとはいえ、同室内に座っているのだ。
彼に聞こえるとか、聞かれては困るとか、そういうことに臆することなくガンガン言う。
そのあたりは全く気にしないと言うことなのだろうか…そんなことを頭の中で考えていたら、いつの間に近づいてきたのか。
知らない間に私の真後ろに立っていたニコラスが、何故かいきなり私のことを後ろからハグする形でエレーヌ様と話し始めた。
「エレーヌ様。あなたの気持ちは大変ありがたいですが…あんまり、彼女をいじめないでいただけると嬉しいです」
「ニコラス様は、その女の肩を持つということですか?」
「その女、というか…彼女は、私にとって特別な人なので」
「…ニコラス様、からかうのも大概にしてください」
エレーヌの表情が強ばり、強く手を握ったのが見えた。
そこまで見えた後、何故か私はニコラスに顎を取られ
「えっ」
顔を上に向けられ、口づけをされる…すんでのところで止められ、そのままニコラスの胸元に顔を押し付けられる形になった。
「…っ!?」
「すみません、エレーヌ様。こういうことなので…悪いですが、私と私的に話をしに、という理由でこちらに来るのは今後ご遠慮していただけると」
「…ニコラス様ともあろうお方が、公私混同ではありませんの?」
「ジャンが戻るまでの期間限定ですので。それに、彼女はれっきとした文官ですから。公務に関することであれば、いつでもお待ちしておりますので」
私にはエレーヌ様がどういう顔をしているのかわからなかった。
しかしながら、エレーヌ様からビシッ、という何かがひび割れる音ようなが聞こえた気がした。
ニコラスは、そんなエレーヌ様を一瞥したあと、笑顔を貼り付けたままあっさりとドアを閉め、加えて内鍵までしっかりとかけてしまったのだった。




