11.束の間のランチタイム
慌ただしい午前中を過ごした私は、ニーナと約束していたカフェテラスへ向かった。
先に来ていたニーナの向かいに座り、いつものランチを注文し終わったところで──
既に向かいでは、話を聞きたくてウズウズと目を光らせたニーナがいた。
「…そんなに、面白い話はなにもないわよ?」
「それでもいいの!ねぇ、結局レヴィとニコラス様ってどういう関係なの!?あれは何なの!?」
「わかったわかった、落ち着いてってば。え〜…とですね───」
届けられたランチを食べながら、先週から今日にかけて起こった出来事を、声を潜めてニーナに話した。
ニコラスからは、信頼できる人間であれば話していいと言われている。
ニーナはこう見えて口は硬いため、ニコラスとの関係性についても包み隠さずすべて話すことにした。
(正直、誰かに言わないとパンクしそうだったしね…)
黙って聞いていたニーナだったが、途中途中何かをいいたそうにウズウズとこちらを見つめていた。
話が一通り終わったところで気持ちがあふれかえったのか、ニーナが勢い良く身を乗り出して話しだした。
「てことは、今レヴィとニコラス様は、こ、恋人同士!ってことになるのよね…!?」
「まぁ仮ね、仮だけど。あと声は小さく」
「嘘〜!やだなにそれ!ロマンチック!いいな〜いいな〜!!」
「だから声…まぁいいや。…そんなにいい?全然代わってあげるけど」
私の言葉に、ニーナが可愛い頬をふくらませる。
「やだレヴィったら!私じゃ意味ないじゃない!それに、ニコラス様もレヴィだから頼んでるんでしょ!」
「たまたま暇そうなのが私だっただけだと思うけど…」
「も〜違うに決まってるじゃない!ていうかね!」
わざとらしく机を叩くニーナ。
「レヴィは自分の評価が低すぎるのよ!確かに普段は化粧も薄いしメガネ分厚すぎるけど」
「ちょっと」
「持ってるものは美人じゃない!隠れ美人と官僚の王子…ロマンス小説でもやり過ぎなくらいよ」
「ロマンス小説ねぇ…ていうか、なにその官僚の王子って。ニコラスってそんな意味分からないあだ名付いてるの?」
勢いに押されながらも、楽しそうに盛り上がっているニーナを見る。
まだ一人でキャッキャと謎の妄想を繰り広げている彼女を見ていたら、なんだか私が深刻に考えすぎているのか?とも思えてきた。
「いいな〜…秘密の職場恋愛、始まりは契約恋人から!しかも身分差!私が小説にしたいくらい」
「あ、そう……まぁ、ニーナが楽しそうでよかったわ…」
よく考えれば、たった三ヶ月間だ。
女で平民の私が、高官の補佐官に上がれることはこの先もう訪れないだろう。
期間限定の職場体験(…業後のくだらない契約オプション付きではあるが)を楽しめばいいか、という気持ちになってきた。
思っていたよりも一人で考え込んでしまっていたのか、ニーナと話していたら少し気持ちが楽になった。
「まぁでもね、冗談抜きでニコラス様はレヴィのこと結構好きだと思うんだけどなぁ」
そんなことを考えていたら、ニーナが急にそんなことを言い出した。
思わず驚いて口にしていた紅茶がむせそうになる。
「どこが?全然普通だと思うけど…むしろ、あんまり女として見られてなさそうだし」
「いやいや〜。そもそもさ、ニコラス様って女性があんまり好きじゃないでしょ?こう、色んな女性に言い寄られすぎて…」
「あぁ…」
そう。すっかり忘れていたが、ニコラスはあまり女性が好きじゃない。
大っぴらに言っているわけではないが、誰か一人を特別扱いすることもなく、いつなん時も全員に同じ対応をしている彼は、なんとなくそういうオーラがあるのだ。
官僚の王子などという大層なあだ名も、ある意味皮肉が入っている気がする。
まぁ、あの顔で肩書があれば人気にもなるだろうと思うが。
「あんなに気軽に話してるのはレヴィだけだもの。恋愛的な意図はなくても、多分レヴィは特別なんだと思うよ」
「うーん…。女としてみてないだけだと思うけどね…」
「レヴィもレヴィだからな〜…え〜私も補佐官になってそっちに行きたかった〜!」
「いつだって代わるわよ」
「レヴィもいないと意味がないの!」
今後、仕事に慣れるまではしばらくこのような時間は取れるかわからない。
少し惜しむような気持ちで、そんな軽口を叩きながらのニーナとのランチタイムは、あっという間に過ぎていったのだった。




