第八話
同じような魔が蠢いている。
全て醜い見た目をしていて、目に入れたくもなかった。
「うわぁ…嫌だなぁ…」
そう言いつつも足は止まらない。なぜなら、絶対に勝てるという自信があるからだ。
こちらを視認してくる前に一発腹にぶちかます。
それだけでその魔は味方もろとも巻き込み、遠くの岩場にぶち当たり、ベジータ状態になった。
それだけで笑ってしまいそうになったが、横から来る敵に対して意識を切り替える。
振り回されている棍棒をギリギリで躱し、逆に棍棒を奪い取る。
それのせいで相手の骨がバキバキっと一、二本逝った音がしたが、聞かなかったことにしよう。
痛みに悶えている魔に向かって、全力で頭を刎ねる。
頭が跡形もなく消し飛び、そこから血が吹き出してくる。
そのあまりのグロさに、チーズ牛丼温玉のせが食道にせり上がってくるが、気合で押し止める。
また、そんなことをしている間にも、魔が全方向から押し寄せてくる。
数の多さに舌打ちしつつも、数が少なそうなところを一点突破でどんどん倒していく。
もうこの頃には血肉が飛び交っていたので、いい加減慣れてしまった。
慣れたくなかったんだけどなぁ…
「えっ」
そんなことを続けていると、何か壁のようなものに阻まれ、これ以上進めなくなっていた。
このままでは後ろから魔が来る……と思ったのだが、なぜがジリジリと魔全体が下がっていっている。そして、きれいな片膝立ちをし、まるで忠誠を誓う兵士のようだった。
「こんにちは。冒険者」
後ろから声がする。その気になれば俺なんか簡単に殺されそうだが、今は殺意を後ろから感じないので、こちらも殺意をゼロにして対応する。
「おう。こんにちは。なんだか仲間さんがここをめちゃくちゃに荒らしたみたいだけど」
「あはは。僕は関係ないよ。なにせ、こんな雑魚の隊長な訳が無いからね」
「まあ、お前強そうだもんな」
率直な感想を伝える。それが照れくさかったのか、頬をポリポリと搔いている。
「いや…そんなことないよ。だって僕、幹部の中で一番弱いんだもん」
「ん?」
「だから、幹部の中で一番弱いんだって」
今聞いてはいけないことを聞いた気がする。幹部…?幹部って何?
「幹部って何?」
「冒険者なのに知らないの?」
「だって俺第一志望ニートだもん」
「それは志望とは言わない」
なんかこいつと話しのノリあうな…
俺が少なからず友情を感じていると、急に表情を暗くし、ダウナー系の声で彼がポツポツと話し始める。
「最初は、僕だって人間だったんだ。だけど、突然現れた魔のせいで僕の人生がめちゃくちゃになったんだ…」
強く奥歯を噛み締めているのが分かる。手には青筋が浮き出て、強い苛立ちを抑えているように受け取れた。
「その魔は喋ったんだ。だから、強そうな人たちが十人ほどで倒した。だけど、魔が、最後の呪いを死ぬ前に放ったんだ。適性がない人は死に、適性がある人は魔になるっていう、最悪の呪いを!他の大人は全員死んだ!だけど、僕だけが適性があって、魔になって、そして、やたらと強い力を持ってしまったっ…!こんなことになるんだったら死んでしまえば良かったのに…!」
何と答えたらいいかわからない僕の前で涙を流している。その涙は、本当に人間性を持っている証拠と言っていいだろう。
「それで、入りたくもない幹部になってしまって、もう引き返せないんだ……頼む。もうこれしか無いんだ…僕を殺してくれよ…」
痛々しい笑みを泣きながら浮かべる。僕は黙って棍棒を上から下に振り下ろす。
もうあの障壁は無い。そのまま彼の頭を押し潰す───直前に棍棒を止めた。
「………なんで………なんで殺してくれないの…?」
「お前が人間のときの名前は何だ」
「え…?」
「お前が人間のときの名前は何かを聞いている」
「春風…俊希…」
「住所」
「東京都江戸川区…」
「おけ。ありがと」
そう言ってスマホを操作する。
【急募】戸籍があるか調査して
1=イッチ
頼む。
2
どうした
3=イッチ
本当に助けたいやつが居るんや。力を貸してくれないか?
4
仕方ないなぁ…
5
手伝ってやるさ
6
とりあえず、住所と名前を送ってクレメンス
7=イッチ
名前:春風俊希
住所:東京都江戸川区…
8
サンガツ。検索してみるわ
9
見つけた
10
早すぎて笑った。
11
それで?
12
戸籍は…
「……良かったな」
「何が、ですか…?」
「お前はまだやり直せる」
そう言ってスマホの画面を突きつける。
そこには、実際にある戸籍の情報。
「まだ、お前は死んでいない。行方不明者判定にはなっているが、戸籍はまだある」
「え…」
「お前が、魔ということを最後まで隠し通せれば、お前は冒険者としてやり直せる」
「そんな…」
「無茶か?いや、全然そんなこと無い。そもそも、お前のスキルは障壁を作り出す能力だろ?なら全然人間として戦えるさ。さあ、魔たちを殲滅しようぜ」
彼に手を差し伸べる。今にも泣きそうな顔になりながらも、彼は俺の手を取り、涙を乱暴に拭い取る。
「ええ。そうですね。もう一度、頑張ってみますよ」
跪いている魔たちを、彼が障壁で一つに纏める。非常に小さく圧縮されているようで、魔が苦しそうに蠢いている。
「貴方が殺って下さい。そうでないと、魔力の波長で僕が殺ったということが上にバレてしまいます!」
「はいはい」
死んだ魔が落とした剣を持ち、走り出す。勢いに任せて振り、刃が障壁に当たろうとした瞬間に、障壁が解除され、一網打尽、と言ったほうがいいだろう。血飛沫がバケツをひっくり返したように降ってくる。
「じゃあ、僕はちょっと幹部のところに戻る必要があるから、少しだけ離れるね。また後で戻ってくるから」
「はいはい」
突然現れたワープホールのようなものに入っていく。全く…なんでもありだな…
「はぁ…飯食うか…」
まだ半分以上あるチーズ牛丼を現実逃避するように貪った。




