第三話
「全く…人に向かってエアガンであろうと発射しちゃいけないのは親から教わったんじゃないの?ニートの俺でさえ知っていることだよ?」
「はい…」
なぜ、なぜ私はこの人に怒られているのだろうか。
正直、背後を取られたときには死を覚悟した。私は素の身体能力は高くない。ただただ狙撃だけでここまで上がってきたのだから。
そんなやつが銃という武器を使わずに戦えと言われても、無理があるというものだ。
だが、この人は銃をひょいと奪っただけで、そこからは何もしてこなかった。なんなら足元に置いている。
職員から通達された内容は『逃げている男がいる。直ちに気絶させてくれ』という内容だった。
それを聞いて、内容が薄いなと思った。そして、私はもっと感情的で危険な人物と相対する必要があるのか、と思っていたのだが…眼の前の人を見る限り、その心配はなさそうだった。
「んで、なんで狙ったの?まぁ、大体分かるんだけどさぁ…」
「……職員に要請されたから。それだけだ。それと、私も聞きたいことがある。なんで逃げているんだ?」
特段、何かを探ろうという考えではない。本心から出た質問だった。
「そりゃ、ニート生活を満喫したいからだよ。うちの親両方とも高収入だからさ!親の脛をすり減るぐらいまで齧っても大丈夫ってわけさ!」
……なんだこいつ
すごく呆れたぞ?あー、あれか。あの制度か。私も使われたことある。
何歳だったっけな。あ、十歳だ。思い出した。
十歳の頃、異様にモデルガンに執着して、いろいろなものを狙撃してたんだった。
最初の頃は紙とかだったけど、段々と、生き物も狙いたくなってきて…アリ、ネズミ、ヘビ、あと…リスもいたっけな。
そうして、家の犬を狙おうと構えたときに、後ろから職員に捕まったんだった。あれ以来家には帰っていないし、帰れない。勘当されてるから。
「………働いたらどう…?」
「はは、さっき2ちゃんねらーに言われたよ。だけど、もうそろそろ強制的に働かせられそうだなぁ…」
彼の後ろにある扉から、職員がぞろぞろと出てくる。
「やっと…見つけたわよ…さっさと…働きなさい…」
「はぁ…流石に、もう無理だなぁ…ここから飛び降りるわけにはいかないし…ん…?さっきまでの衝撃の三倍って考えると…」
彼が、無言で柵の方に歩いていく。そして、軽々と飛び越え、言った。
「あ〜ばよ!銭形のとっつあ〜ん!」
「あ゙っ!早坂さん!奴の頭に遠慮無しでぶち込みなさい!」
「は、はい!」
少し戸惑いながらも、瞬時に拾い、引き金を引いた。
「全く…もう少し丁寧に扱ってくれないかね。俺は腐っても冒険者の卵だろ?」
「貴方が大人しく捕まらないから悪いんですよ。なんで二時間にも及ぶチェイスをけしかけたんですか。それのせいでこっちも百人を動員するしかなかったんですよ?わかってます?」
自由落下している途中で、後頭部に強い衝撃を受け、次に目を覚ましたときにはベッドの上にいた。
そして、こうやって詰問を受けているわけだ。うん。意味がわからない。
なんで僕はニート生活を満喫したいだけだったのに、強制的に気絶させられた挙げ句、詰められているのだろうか。
「だからと言って、人が落下している途中で狙撃を唆して、死ぬ危険性があったのに気絶させたのは人の所業とは思えないすけどね。足から落ちたから良かったものの、頭から行ったらどうするつもりだったんすかねぇ…?」
「うっ…ま、まぁ!まあまあまあ!まあまあまあまあまあ!助かったからいいじゃないか!はっはっは!」
無理に高笑いをしていたが、俺の冷たい視線に耐えられなくなったのか、一つ咳払いをし、真面目なトーンで話し始める。
「さて…今から冒険者になるために、色々な手続きをします」
「うわぁ!急に落ち着くなぁ!」
「ええい!だまらっしゃい!とっとと行きますよ!」
俺の両手をぎゅっと掴んでくる。
女性経験ゼロの俺はその仕草だけでドキッと来てしまうものがあったのだが、その行為の意味は全く可愛いものではなかった。
ガシャン!
「え」
手に手錠のような、光のリングが装着され、腕が固定される。
「念の為こっちもやっていきましょう」
容赦なく足を手と同じように固定され、身動きが取れなくなる。そして、そのまま横にあった台車付きの担架に乗せられそうになる。
「おい!なんでベッドの横に担架があるのかと思ったらそういうことかよ!人のやる所業じゃねぇぞ!やめろ!HA☆NA☆SE!」
「もう絶対逃さないですよ!早く担架に乗りなさい!」
すると、病室のドアがガラッと開く。
そこには、一瞬だけ視界に映った、俺を気絶させようとした人が、呆れた顔で立っていた。
「あっ!黒ローブニキ!助けて!このお姉さんに拘束されて襲われる!タイプだけど!」
「なっ!何を言っているのですか!私は貴方はタイプでもないし、襲おうとも考えていない!」
「何があったんですか…?」




