第二話
結果を言おう。何故か無事に着地できた。骨の一本二本は折れると覚悟していたのだが、全然そんなことはなく、階段を降りたぐらいの衝撃で済んでいた。
上では人があたふたしているのが見えたので、今の内に逃げる。
「うわっ!早すぎるだろっ!」
その速度は、自分でも分かるぐらいに早かった。いつもの風景がどんどんと消え、新しい風景に変わる。
「もしかして俺って…スキル持ち…?」
その驚愕の事実に足を止めそうになるも、持ち前の精神で走り続ける。
そして、落ち着きを取り戻しつつあるスレに、レスを投下する。
373=イッチ
【速報】ワイ、逃走中
374=イッチ
窓から飛び降りて助かった。ちなスキル持ち。
375
働けゴミ
376
なんでスキル持ちが逃げてるんすかねぇ…
377
糞裏山
378
とっとと社会の役に立て
あぁ…居心地が良いねぇ…
やっぱりこのくらいの民度がちょうどいいんだよ。
レス数が400を超えたのを眺めていると、後ろから気配と嫌な予感がし、咄嗟に身を屈める。その瞬間、恐ろしく早い手刀が髪の毛を掠める。
「なっ…」
黒ローブの男はまさか回避されるとは思っていなかったのか、たじろいでいた。その隙を見逃さず、さっきよりも早くなった気がする足でその場から離れた。
『春風二級!捕まえることは出来たか?!』
いつものクールな表情からは出るとは思えない声が僕の耳を襲う。
「いや、取り逃がしましたよ。普通に」
『どういうことだ!』
「いや〜全力で手刀を放ったんですけどね〜脛骨を折る勢いで。それも直前まで気づかれていなかったはずなんすけど、何故かギリギリで避けられてしまいましてねぇ…」
『チッ…あいつはどれだけ私達を手こずらせれば気が済むんだ…あんなのは十年…いや、三十年に一度の逸材なのに…』
ブツッ、と電話を一方的に切られる。はぁ…
「行けると思ったんだけどなぁ…ま、GPSをつけたから良しかな」
「なんでっ、毎回追ってこれるんだ…?」
チェイスを始めてから早一時間。一向に追跡の手は止まない。それどころか、増えていっている気がする。
「あっつ…」
まだ三月だったので道端で拾った上着を着ていたが、長時間走り続けているため、中がサウナのように熱くなっていた。
自分のじゃないのでそこら辺に脱ぎ捨て、何倍にもなったジャンプ力で工場の壁に取り付けられている鉄パイプを握り、壁をよじ登っていく。
やっとこさ屋上にたどり着いたのと同時に、上着を脱ぎ捨てたところに冒険者を管轄する職員が続々と集まってくる。
はは〜ん…?なるほど?
GPSでもつけていたんだな?
職員たちの動きを確認しようと、伏せの体制を取ると、頭上に高速の何かが飛来してきた。
敵襲だと瞬時に判断し、飛んできた方向を見る。
すると、そこには三百メートルほど離れている、マンションの屋上からライフルを構えている少女の姿が有った。
………殺す気か?
なんだか憤りが湧いてきたので、これまた強化された足で突っ走っていく。
途中で職員に止められそうになったが、腕を交差させ、体の前に作ったら流石に命の危機を感じたのか、大人しく道を譲ってくれた。
赤になりそうな信号機を走り幅跳びの要領でひとっ飛びで超え、度々撃たれるライフルを全て躱し、なんとかマンションにたどり着く。
うーん…入れないンゴねぇ…
外側には登れそうな場所が無く、なんとかして中に入らないと行けなさそうだ。
あ、そうだ。
424=イッチ
【急募】誰かこのマンションの住民
住所貼るからよろしくンゴ。
千葉県市川市…
425
それワイが住んでいるマンションやん。というか、なんで入る必要があるんだ?
426=イッチ
狙撃されてる
427
は?
428=イッチ
狙撃されてるんだって。ワイを捕まえるために、あっち側も本気を出してきてる。
429
いや草
430
狙撃とかいうパワーワードやめぃ
431
どんな逃げ方すれば狙撃なんてされるんですかねぇ…
432
仕方ないなぁイッチくんは。ほら、開けたぞ。
ウィーンと自動ドアが開き、スレに『本当にありがとう』と打ち込みながら通る。
いつの間にか職員たちも追ってきていたようで、自動ドアの向こう側に居る俺を見て悔しそうにしていた。
へっ!ざまぁ見ろ!
そんなことを心の中で思いながら、階段を駆け上がる。五階に十秒ほどで着いた時には、エントランスから人が傾れ込んでいた。
これはとっととずらからないとまずそうだな…
この後のことは一切気にせず、ただひたすらに屋上を目指した。
……居ない。
何処に行ったんだ。
直近三分間、ターゲットの姿を見ていない。
何処かに身を潜めているか、もしくはもうここのマンション内に居るのか。
一秒ほど考えて、後者の考えは捨てる。なぜならここのマンションは内部の人間が開けてくれない限り入れない仕組みになっているからだ。
職員たちがエントランスのところに傾れ込んできている。
なんだ。と思った。
それに並行し、あそこで捕まったんだな。とも思った。
必要じゃ無くなったBB弾を手の中で遊ばせる。気絶させる工程なんていらなかったじゃないか。
だが、耳につけているイヤホンから、連絡が来る。
『早坂準一級!今すぐに逃げなさい!もう貴方のところには…』
「はえ〜これBB弾だったんだ〜もしかして気絶させろとか言われたのかな?」
冷や汗が一筋、背中に滴った。




