一章 舞い落ちる白
いつも通りの日だった。無認可の違法コロニーのゴミゴミした裏路地。計画性なく乱立する建物群。放棄された廃墟にそれらの合間から見え隠れする人の営み。無秩序の中にある秩序を守りつつ暮らす普通から転げ落ちた普通の人々。
暴力は日常で揉め事はしょっちゅう。問題がない日なんてありはしない物騒な場所だ。
だけど訳ありの人間にとってここはどれだけ平穏から遠くても確かに必要な場所である。
だから住人達は皮肉とほんの少しの故郷への愛着じみた感情からこのコロニーを楽園と呼んでいるのだ。
そんな楽園内の比較的外側、宇宙港もどきのある区画をひとりの子供が慣れた様子で歩いていた。
歳の頃は13〜14才ぐらいの少年の姿。小柄な身体に着古したシャツとズボン。少し真深く被った帽子から覗く緑の目は楽しげな色を浮かべながらも油断なく周囲を警戒してるのがわかった。
カイと呼ばれているこの放棄コロニーに幼い頃から住んでいる子供だ。
カイは慣れた足取りで身軽に動いていたが足元の異変に気づき、足を止める。軽く足で蹴るとポロリと崩れ穴が開いた。開いてしまう事実に思わず天を仰ぎたくなる。軽く飛んで他には異常なしと判断したカイは穴から空気漏れはないことに安堵した。
「まぁた崩れてるよ。修理の材料ってまだ予備があったかなぁ」
正規に管理された物に比べて明らかに整備不足が見て取れる足元の崩れにカイは修理の算段をつけつつ軽く息を吐いた。
小さくともコロニー。ましては少なくない人間が住んでいるのに整備が追いついていない。この場所に統制する政府は勿論ないが曲がりなりにも秩序めいたものがあるのだからそれに近いものはいくつか存在している。
性質は海賊めいた武闘派から自警団に近い穏健派と危険度の違いはあれど妥協と打算と駆け引きでどうにかこうにかそれぞれの縄張りで均衡を保っている。
「共用施設の修繕費について寄り合いかぁ。絶対に渋るなみんな」
共用施設は使いたいが余分な金も出したくないのが各陣営トップの本音だが出さなければ他陣営から共用施設の使用を禁止なり制限されるリスクが大きい。
特に外部へと比較的安全に出られる宇宙港もどきはどこの陣営だって手に入れておきたい場所の一つだ。だからこそ火種になりやすいし火種にしないための中立地帯。
独占を企むバカがいたら全陣営が手を組んで潰す。
そんな場所だからこれから確実に起きる憂鬱すぎる寄り合いという名を被った魑魅魍魎達の集い。その開始の狼煙をあげなければならない自分の不運にカイは嘆きつつ腕につけた通信機を繋げ、保護者の一人に事態を伝えた。
カイが伝えた修繕費寄り合い開催してねに頭を抱えた保護者だったが相手も相手でちょっとした問題を投げてくるのだから平穏とは無縁の地である。
「不審な余所者が入り込んだ可能性ねぇ。不審な身の上の人間しかいないんだけど、ここ」
真理である。そしてそれ故に不審者が目立つことが余りない。
いくつかの陣営が縄張りを作っているとはいえ全てを把握してないし、監視の抜けも多い。宇宙港もどきを使わずとも小型船なら危険度さえ無視すれば誰にも見つからずにコロニーに侵入することも不可能ではないだろう。
過去に例がない訳でもなし、攻撃行動さえしなければ基本的に警戒しつつ放置だ。
「ほんと、問題しかおきない場所だなぁ」
呆れてコロニーの天井を見上げるカイの目の端に白が揺れる。
「え」
花のように広がる白がワンピースのはためきだと理解したカイの耳に機械的な声と低く悲鳴を飲み込むような音が飛び込んできた。
『ソコのヒトドケル!』
「っう!」
「わぁっ!」
白が舞い落ちる。




