交換された世界
指先が鏡面に触れた瞬間。
冷たいはずのガラスが、水面のように柔らかく波打った。
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
「えっ……?」
次の瞬間、強烈な白光が莉亜の視界をすべて埋め尽くした。
「何も……何も見えない!」
莉亜は思わず叫んだ。体が浮遊するような感覚。重力から解放されたような、不思議な軽さ。
***
一方、トイレの個室。
光が消えると、そこに立っていたのは「莉亜」だった。
だが、その瞳の色は、先ほどまでとは違っていた。深く、そして静謐な青。
ソフィアはゆっくりと自分の手を見下ろし、指を曲げてみた。
「ふむ……これが、莉亜の世界か。」
彼女は周囲を見渡す。狭いトイレ、落書きされた扉、そして外で待ち構えるいじめっ子たちの気配。
「面白い世界ね。」
ソフィアは莉亜の顔で、不敵な笑みを浮かべた。
「さて、今は『君は私、私は君』だ」
彼女は鏡の前に立ち、鏡の中に映る自分――つまり、鏡の向こう側にいる本物の莉亜の姿を確認した。
鏡の向こう側。
莉亜は呆然と立ち尽くしていた。
そこは、彼女が見たことのない、奇妙で美しい空間だった。空は紫色で、二つの月が輝いている。
「ここは……?」
莉亜がおずおずと尋ねると、鏡の外(現実世界)にいるソフィアが答えた。
「それは私の世界よ、莉亜。ようこそ」
ソフィアは、莉亜の身体を使って、優雅に髪をかき上げた。
「安心しなさい。今の私は、あなたと同じ容姿、同じ声。誰も気づかないわ」
そう言って、ソフィアはトイレのドアノブに手をかけた。
「じゃあ、行ってくるね。あなたの『日常』を片付けてくるから」
ガチャリ。
ドアが開き、ソフィア(莉亜の姿)は廊下へと踏み出した。
鏡の中から、莉亜はただただ、その背中を見つめることしかできなかった。
【次回予告】
次回の『鏡の向こう』は……
「あら、有理さん。また会ったわね」
いじめっ子の前に現れたのは、もう一人の莉亜!?
ソフィアの反撃が始まる……!
つづく




