第46話 無限の黒の中で
第47話
黒。
無音の空間。
その中心で。
二つの存在が、向かい合っている。
「クラッシャー……なのか?」
風体は違う。
だが、分かる。
短いようで長く、共に生きた時間。
その奥にある“何か”が、確かにそこにある。
対して――
エンペラーの“中身”が、切り替わる。
骨の軋む音。
呼吸のリズム。
視線の焦点。
すべてが、別人になる。
「――貫く」
低い声。
無駄のない構え。
槍が、手の中に“ある”。
「――ランサー」
一歩。
距離が消える。
突き。
一直線。
キーパーの胸を貫く。
「がっ……!?」
骨を砕き、背を抜ける。
その瞬間。
脳裏に、焼き付いていた光景が蘇る。
あの時の気配。
あの時の殺意。
――同じだ。
「覚えているか?」
だが。
キーパーは止まらない。
刺されたまま、前へ出る。
「お前は……クラッシャーなのか」
槍を押し込み、距離を潰す。
拳。
振り抜く。
「そうだよ」
白い歯が、覗く。
そのまま、頭部が砕ける。
黒い液体が、飛び散る。
空気が、変わる。
熱。
揺らぎ。
炎が、弾ける。
「ハハハッ……燃えろ!!」
荒い声。
感情が剥き出しになる。
――ファイヤー。
炎が、叩きつけられる。
圧縮された火焔が、奔流となって押し寄せる。
飲み込む。
焼く。
潰す。
だが。
「どうなっているんだ、お前は……」
炎の中から。
影が出てくる。
焼けながら。
崩れずに。
歩いている。
「お前こそ……十分、化け物だ」
間合いを詰める。
義手が、持ち上がる。
掌ごと押さえ込む。
爆発。
ファイヤーの身体が弾け飛ぶ。
――途切れる。
「お前は……ダレなんだよ」
重さが来る。
言葉より先に。
圧が落ちる。
「……潰す」
短い。
低い。
――デストロイヤー。
拳。
直撃。
キーパーの頭蓋が砕ける。
吹き飛ぶ。
だが。
立ち上がる。
「……何度殺せば、希望は潰える?」
再び、踏み込む。
連打。
純粋な暴力。
それでも。
壊れない。
キーパーは、止まらない。
抱き寄せる。
左手。
義手。
収束。
爆発。
デストロイヤーが消える。
終わらない。
また、変わる。
また、別の誰か。
無数の死者。
無数の役割。
ソルジャー、ネイチャー、スパイダー、パンサー――
際限なく。
引き出される。
「これだよ……!」
エンペラーの声が混ざる。
「これこそが“オレ”だ!!」
殺されるたびに。
別の存在になる。
終わらない。
その戦いを。
ジョーカーが、見ている。
笑っている。
「いいねぇ……そのまま続けなよ」
「どっちが先に壊れるか……楽しみだ」
キーパーは止まらない。
エンペラーは終わらない。
戦いは閉じない。
◆
何度目の死か。
分からなくなった頃。
エンペラーが、引き出す。
静かな姿。
眼鏡。
無駄のない立ち姿。
「……キーパーさん」
「な……っ」
動きが止まる。
初めて。
止まる。
「シーカー……?」
「そうです」
静かに、笑う。
白い歯を見せて。
「僕はあの日、サンライズヴィレッジで」
「クラッシャーさんに殺されて、“台本”にされました」
その一言で。
何かが、崩れる。
「どうなってるんだ……」
「何なんだ……これは……」
呼吸が乱れる。
視界が揺れる。
「ナンナンダァァァァァ!!!!」
世界が、歪む。
維持。
管理。
耐久。
その全てが、暴走する。
それでも。
止められない。
「オレは……オマエになりたいんだ」
その瞬間。
シーカーの目が、変わる。
観測。
解析。
侵入。
「オマエは守ってきた」
「命を、仲間を、世界を」
「でもそれは違う」
淡々と。
切り裂くように。
「優しさじゃない」
「本能だ」
「プログラムだ」
「オマエは――」
一歩、近づく。
「ただの“コード”なんだよ」
初めて。
心臓が、抉られる。
「そしてその優しさが」
「この地獄を、維持している」
「オマエがいる限り」
「この世界は終わらない」
白が、滲む。
黒だったはずの世界が。
色を失う。
輪郭が、崩れる。




