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エスキープ 耐え続けて生き残った。  作者: 土ノ子 ウナム
第四章 キョウシャシンショウ
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−7話

−7話


『ストライカーが、メタル輪舞曲を壊滅に追いやった』


 鉄を象徴とした拠点は崩れ、兵隊は散り、名残だけが残る。

『メタル輪舞曲でも、無理だった』

 あの一件で、ナイトタウンの空気は一変した。


 次、ストライカーに狙われるのはどこか。誰が消えるのか。

 噂の答えは一つに絞られていた。

 ――堕天。

 壊し、潰す、次々と。

 人々は動いた。逃げる者。隠れる者。街を捨てる者。

 ネオンは同じように光っているのに、そこにあるのは恐怖だけだった。


ーーだが。


 そんな混迷のナイトタウンで、突然一つの噂が広がりだした。

 ――ストライカーが、死んだ。


 唐突に広まった。あれほど暴れ回っていたストライカーが、忽然と姿を消した。

『殺したのは、“エンペラー”という男』

 聞いたことのない名前。

 だが、その噂は妙に現実味を帯びていた。

 ストライカーは現れない。


 そして代わりに現れたのが、その男だった。

 エンペラー。

 冷静で、理性的で、無駄がない。

 何よりも、人々を魅了する"何か"があった。

 

 気づけば、街は落ち着いていた。

 逃げていた者が戻り、隠れていた者が顔を出し、動かなかった者が従い始める。

 誰もが理解した。

 この男に従う方が、生き残れると。

 恐怖は消えていない。

 だが、それは形を変えた。

 無秩序な破壊ではなく、

 制御された支配へと。

 堕天は、その男を中心に再編され、名前を変えた。


 新しい象徴として。

 新しい秩序として。

 ――その名も『摩天』

 天を貫く、高みの名。

 その頂点に立つのは、

 ただ一人。



 ナイトタウンで最も高いビル。

 元は堕天が使っていた拠点。

 屋上から、夜の奥を見つめる二つの人影。


「まさにマッチポンプ!うまくやりましたネェ」

 軽い拍手の音が、静かな空に響く。


「お前の案だろ……」

 壁にもたれながら、オレは短く返す。

 視線は前。

 街の方角。

 ネオンが遠くに滲んでいる。

「いやぁ、キチンと実行したのはアナタでショ?」

「ストライカーを消して、上に立つっ」

「美しいネぇ〜♪」


 俺は肩をすくめる。

 興味はない。

 結果が出た。それでいい。

「全ては、ここから出るためだ」

「だから残した」

 人も。

 街も。

 仕組みも。

 使えるものは使う。

 それだけだ。

 ジョーカーは満足そうに頷く。

「うんうん、ちゃんと分かってる」

「出たら、全部壊せるヨ」

 その言い方は気に入らない。

 だが否定はしない。

 事実だからだ。

「とりあえず」

 ジョーカーが、指を二本立てる。

「ワタシたちは一蓮托生!一心同体!」

「……気持ち悪いな」

「ひどっ!」

 軽く笑いながら、続ける。

「ま、とりあえずやることは二つネ」

 空気が少しだけ変わる。

 軽さはそのままに、言葉だけが重くなる。

「一つは、アルティマを集めること」

「一人でも多く」

 沈黙。

 意味は完全には分からない。

 だが、重要だということだけは分かる。

「もう一つ」

 ジョーカーが、少しだけ顔を近づける。

「イレギュラーの存在」

「オリジンを見つけること」

 その単語で、

 内側が、反応する。

 ざわつく。

 引きずり出されるように、別の衝動が顔を出す。


(壊したい)

 壊せるか。

 壊れないのか。

 確かめたい。


 ジョーカーが、囁くように言う。

「そして」

「アナタが、そのオリジンすら"演じられる"ようになること」


 演じる。


 つまり再現し、再演する。

 ドッペルアクターとして。

「……本物がいる限り、無理なんだよな」

「そうだネ。君の能力は"本物が居たら使えない"」


 ストライカーも。

 クラッシャーも。

 “元”がいないから成立した。

 

「そんなら、消せばいい」

 それでいい。

 本物を消す。役を空ける。


 ジョーカーは、楽しそうに笑った。

「出来るならネ」

 目を細める。

「そのオリジン」

「死なない能力だとしたら?」

 数秒の静寂。

 そして。

 口角が、わずかに上がる。

「……面白い」


 壊れないかもしれない存在。

 壊したくなる対象。

 同時に。

 どちらでもいい。

 どちらにせよ、前に進む。


「とりあえず、仲間集めをガンバロー!♪」

「オリジンがやってくるのは、もう少し先だからサ」


 そのときから摩天は、動き出した。

 派閥を広げ、仲間を増やし、ナイトタウンの支配を盤石に。


 時折、抑えられない衝動を晴らすように"オレ"は街へ繰り出した。

 "俺"が支配を進める。"オレ"が破壊する。守って、壊して、治めて、崩す。


 もはや自分が何なのかなんて、考えることも無くなっていった。

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