−7話
−7話
『ストライカーが、メタル輪舞曲を壊滅に追いやった』
鉄を象徴とした拠点は崩れ、兵隊は散り、名残だけが残る。
『メタル輪舞曲でも、無理だった』
あの一件で、ナイトタウンの空気は一変した。
次、ストライカーに狙われるのはどこか。誰が消えるのか。
噂の答えは一つに絞られていた。
――堕天。
壊し、潰す、次々と。
人々は動いた。逃げる者。隠れる者。街を捨てる者。
ネオンは同じように光っているのに、そこにあるのは恐怖だけだった。
ーーだが。
そんな混迷のナイトタウンで、突然一つの噂が広がりだした。
――ストライカーが、死んだ。
唐突に広まった。あれほど暴れ回っていたストライカーが、忽然と姿を消した。
『殺したのは、“エンペラー”という男』
聞いたことのない名前。
だが、その噂は妙に現実味を帯びていた。
ストライカーは現れない。
そして代わりに現れたのが、その男だった。
エンペラー。
冷静で、理性的で、無駄がない。
何よりも、人々を魅了する"何か"があった。
気づけば、街は落ち着いていた。
逃げていた者が戻り、隠れていた者が顔を出し、動かなかった者が従い始める。
誰もが理解した。
この男に従う方が、生き残れると。
恐怖は消えていない。
だが、それは形を変えた。
無秩序な破壊ではなく、
制御された支配へと。
堕天は、その男を中心に再編され、名前を変えた。
新しい象徴として。
新しい秩序として。
――その名も『摩天』
天を貫く、高みの名。
その頂点に立つのは、
ただ一人。
◆
ナイトタウンで最も高いビル。
元は堕天が使っていた拠点。
屋上から、夜の奥を見つめる二つの人影。
「まさにマッチポンプ!うまくやりましたネェ」
軽い拍手の音が、静かな空に響く。
「お前の案だろ……」
壁にもたれながら、オレは短く返す。
視線は前。
街の方角。
ネオンが遠くに滲んでいる。
「いやぁ、キチンと実行したのはアナタでショ?」
「ストライカーを消して、上に立つっ」
「美しいネぇ〜♪」
俺は肩をすくめる。
興味はない。
結果が出た。それでいい。
「全ては、ここから出るためだ」
「だから残した」
人も。
街も。
仕組みも。
使えるものは使う。
それだけだ。
ジョーカーは満足そうに頷く。
「うんうん、ちゃんと分かってる」
「出たら、全部壊せるヨ」
その言い方は気に入らない。
だが否定はしない。
事実だからだ。
「とりあえず」
ジョーカーが、指を二本立てる。
「ワタシたちは一蓮托生!一心同体!」
「……気持ち悪いな」
「ひどっ!」
軽く笑いながら、続ける。
「ま、とりあえずやることは二つネ」
空気が少しだけ変わる。
軽さはそのままに、言葉だけが重くなる。
「一つは、アルティマを集めること」
「一人でも多く」
沈黙。
意味は完全には分からない。
だが、重要だということだけは分かる。
「もう一つ」
ジョーカーが、少しだけ顔を近づける。
「イレギュラーの存在」
「オリジンを見つけること」
その単語で、
内側が、反応する。
ざわつく。
引きずり出されるように、別の衝動が顔を出す。
(壊したい)
壊せるか。
壊れないのか。
確かめたい。
ジョーカーが、囁くように言う。
「そして」
「アナタが、そのオリジンすら"演じられる"ようになること」
演じる。
つまり再現し、再演する。
ドッペルアクターとして。
「……本物がいる限り、無理なんだよな」
「そうだネ。君の能力は"本物が居たら使えない"」
ストライカーも。
クラッシャーも。
“元”がいないから成立した。
「そんなら、消せばいい」
それでいい。
本物を消す。役を空ける。
ジョーカーは、楽しそうに笑った。
「出来るならネ」
目を細める。
「そのオリジン」
「死なない能力だとしたら?」
数秒の静寂。
そして。
口角が、わずかに上がる。
「……面白い」
壊れないかもしれない存在。
壊したくなる対象。
同時に。
どちらでもいい。
どちらにせよ、前に進む。
「とりあえず、仲間集めをガンバロー!♪」
「オリジンがやってくるのは、もう少し先だからサ」
そのときから摩天は、動き出した。
派閥を広げ、仲間を増やし、ナイトタウンの支配を盤石に。
時折、抑えられない衝動を晴らすように"オレ"は街へ繰り出した。
"俺"が支配を進める。"オレ"が破壊する。守って、壊して、治めて、崩す。
もはや自分が何なのかなんて、考えることも無くなっていった。




