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エスキープ 耐え続けて生き残った。  作者: 土ノ子 ウナム
第四章 キョウシャシンショウ
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−6話

−6話


 オレが歩みを進めると同時に、ターミネーターが踏み込む。

 迷いはない。無駄もない。最短距離で間合いを詰め、拳を振り抜く。銀色の鉄塊が空気を裂き、一直線に顔面へと迫る。


 避けない。

 拳を、掌で受ける。

 衝撃は来なかった。

 オレの手に触れた瞬間、ヤツの拳が“砕けた”。装甲ごと、内部構造ごと、そこにあったはずの形が、その場で維持できなくなる。

『ウ……ッ!!』

 粉砕でも断裂でもない。ただ、存在のまとまりがほどけるように、静かに崩れていく。

 ターミネーターが即座に後退する。判断は正しい。だが、遅い。

 一歩。

 それだけで、距離は消える。

 両手を地面につける。連鎖的に地面が沈み、ターミネーターの退路が消える。壁が軋み、建造物が内側から崩れ落ちる。包囲は、もう形を保てない。

『う、撃て!!』

 短く命令が飛ぶ。残った二人が同時に発砲する。蒼白い閃光が直線で走り、オレの身体を貫く。

「やらせませんヨ♪」

 ――ジョーカーが指を動かし、閃光は空中で軌道を変える。

 理解する。

 “壊せる”。

 石も。鉄も。この世界も。

 全部。

 だから。


「遅えよ」

 踏み込む。ターミネーターが防御姿勢を取る。残った腕で受ける。受けること自体はできている。だが、その意味はない。

 触れる。

 それだけで、終わる。

 腕が崩れ、肩が消え、胴体へと連鎖する。内部構造が露出する前に、それごと崩壊していく。

『ぐあっ……あぁ………』

 音は小さい。派手さはない。ただ、そこにあったものが、次の瞬間には“無い”。

『……なんだ、これは』

 最後の個体が、初めて言葉を漏らす。

 知らない。

 そんなもの、オレも知らない。

 ただ一つだけ分かる。

 これは――

「オレだ」

 その瞬間、最後のターミネーターの頭部に手を置いた。

 崩壊は、一瞬だった。



 ――何が、起こってるんだ。

 アイツは、袋のネズミだったはずだ。私たちは、確実に勝てるはずだった。

 入念に準備を行い、絶好の機会を待った。

 それが全て、全て崩れた。

 突然現れた道化の男。ヤツが来てから……崩れた。

『に、逃げるぞ!』

 意識が朦朧とする中、階下で誰かが叫ぶ。仲間たちが一斉に踵を返す。統率も、連携もない。ただ、生存本能だけで動いている。


 私は動けなかった。体に力が入らない。落とした銃に、手が届かない。

 ターミネーターさんから貰った、大切な銃。それがえらく遠くに感じる。


 崩れていく街の中心で、誰かが立っている。笑いながら、壊している。


 その背後。

 瓦礫の上に、ひとり立っている影があった。


 ジョーカー。

 あの道化だけが、まるで舞台を眺める観客のように、それを見ている。

 目が合った。

 仮面の奥で、確かに笑った。

 その瞬間、ようやく身体が動いた。

 立ち上がる。足がもつれる。呼吸が乱れる。視界が揺れる。


(撃てる。まだ撃てる。撃ち抜ける)

 

 だが、数歩も進まないうちに、膝から崩れた。

 身体の感覚が、急速に遠のいていく。


 音が遠い。

 仲間の声も、もう聞こえない。

 最後に見えたのは、

 崩れた街の中心で立つ“それ”と、

 その後ろで、ゆっくりと手を叩く道化師の姿だった。

「コイツはどうしますカ?」

「どうでもいい。それより行くぞ。まだ、壊し足りない」

 そんな声が聞こえてきてーー視界が、暗転する。



 ナイトタウンに、静寂が戻る。

 適当に見つけた、立体駐車場のワンフロア。

 瓦礫の上に、腰掛ける。

 

「いやぁ〜、最高だったネ」

 ぱち、ぱち、と拍手する。

「どう?気分は」

 昂っていた気持ちが、少しずつ落ち着きを取り戻す。

「テメェは何者だ?オレのことを、どうして知っていた」

「ヒャハハハ!案外冷静なのネぇ」

 ジョーカーは楽しそうに続ける。

「じゃあ、ご褒美に教えてあげよっカ」

 軽い口調のまま、言葉だけが妙に重くなる。

「ここ、ただのゲームじゃないヨ」

 瓦礫と化した街を指さす。

「ここは、ヴァルハラ。……ガルガンの"中"だよ」

 くすくすと笑う。

「アンタは素材。データ。記録。……まぁ何でもいいケド」

「削って、混ぜて、試して……残す」

「そのための場所」


 一歩、前に出る。


「で、認められれば……"戻れる"かもネ」

「……意味がわかんねえ」

「ややこしい話はナシ!とにかく、君は一度死んだ。けど、もう一度生き返ることがデキるノヨ」

 そこで一度、言葉を切る。

「生き返る……?」

 ジョーカーは、わざとらしく楽しそうに言った。

「生き返ってガルガンの兵器として、君を売ったヤマトを潰しても良いし」


「なんなら、ヤマトだけじゃない。ガルガンすらブッ壊すことも……♪」

 その言葉だけが、やけに軽かった。

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