−6話
−6話
オレが歩みを進めると同時に、ターミネーターが踏み込む。
迷いはない。無駄もない。最短距離で間合いを詰め、拳を振り抜く。銀色の鉄塊が空気を裂き、一直線に顔面へと迫る。
避けない。
拳を、掌で受ける。
衝撃は来なかった。
オレの手に触れた瞬間、ヤツの拳が“砕けた”。装甲ごと、内部構造ごと、そこにあったはずの形が、その場で維持できなくなる。
『ウ……ッ!!』
粉砕でも断裂でもない。ただ、存在のまとまりがほどけるように、静かに崩れていく。
ターミネーターが即座に後退する。判断は正しい。だが、遅い。
一歩。
それだけで、距離は消える。
両手を地面につける。連鎖的に地面が沈み、ターミネーターの退路が消える。壁が軋み、建造物が内側から崩れ落ちる。包囲は、もう形を保てない。
『う、撃て!!』
短く命令が飛ぶ。残った二人が同時に発砲する。蒼白い閃光が直線で走り、オレの身体を貫く。
「やらせませんヨ♪」
――ジョーカーが指を動かし、閃光は空中で軌道を変える。
理解する。
“壊せる”。
石も。鉄も。この世界も。
全部。
だから。
「遅えよ」
踏み込む。ターミネーターが防御姿勢を取る。残った腕で受ける。受けること自体はできている。だが、その意味はない。
触れる。
それだけで、終わる。
腕が崩れ、肩が消え、胴体へと連鎖する。内部構造が露出する前に、それごと崩壊していく。
『ぐあっ……あぁ………』
音は小さい。派手さはない。ただ、そこにあったものが、次の瞬間には“無い”。
『……なんだ、これは』
最後の個体が、初めて言葉を漏らす。
知らない。
そんなもの、オレも知らない。
ただ一つだけ分かる。
これは――
「オレだ」
その瞬間、最後のターミネーターの頭部に手を置いた。
崩壊は、一瞬だった。
◆
――何が、起こってるんだ。
アイツは、袋のネズミだったはずだ。私たちは、確実に勝てるはずだった。
入念に準備を行い、絶好の機会を待った。
それが全て、全て崩れた。
突然現れた道化の男。ヤツが来てから……崩れた。
『に、逃げるぞ!』
意識が朦朧とする中、階下で誰かが叫ぶ。仲間たちが一斉に踵を返す。統率も、連携もない。ただ、生存本能だけで動いている。
私は動けなかった。体に力が入らない。落とした銃に、手が届かない。
ターミネーターさんから貰った、大切な銃。それがえらく遠くに感じる。
崩れていく街の中心で、誰かが立っている。笑いながら、壊している。
その背後。
瓦礫の上に、ひとり立っている影があった。
ジョーカー。
あの道化だけが、まるで舞台を眺める観客のように、それを見ている。
目が合った。
仮面の奥で、確かに笑った。
その瞬間、ようやく身体が動いた。
立ち上がる。足がもつれる。呼吸が乱れる。視界が揺れる。
(撃てる。まだ撃てる。撃ち抜ける)
だが、数歩も進まないうちに、膝から崩れた。
身体の感覚が、急速に遠のいていく。
音が遠い。
仲間の声も、もう聞こえない。
最後に見えたのは、
崩れた街の中心で立つ“それ”と、
その後ろで、ゆっくりと手を叩く道化師の姿だった。
「コイツはどうしますカ?」
「どうでもいい。それより行くぞ。まだ、壊し足りない」
そんな声が聞こえてきてーー視界が、暗転する。
◆
ナイトタウンに、静寂が戻る。
適当に見つけた、立体駐車場のワンフロア。
瓦礫の上に、腰掛ける。
「いやぁ〜、最高だったネ」
ぱち、ぱち、と拍手する。
「どう?気分は」
昂っていた気持ちが、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「テメェは何者だ?オレのことを、どうして知っていた」
「ヒャハハハ!案外冷静なのネぇ」
ジョーカーは楽しそうに続ける。
「じゃあ、ご褒美に教えてあげよっカ」
軽い口調のまま、言葉だけが妙に重くなる。
「ここ、ただのゲームじゃないヨ」
瓦礫と化した街を指さす。
「ここは、ヴァルハラ。……ガルガンの"中"だよ」
くすくすと笑う。
「アンタは素材。データ。記録。……まぁ何でもいいケド」
「削って、混ぜて、試して……残す」
「そのための場所」
一歩、前に出る。
「で、認められれば……"戻れる"かもネ」
「……意味がわかんねえ」
「ややこしい話はナシ!とにかく、君は一度死んだ。けど、もう一度生き返ることがデキるノヨ」
そこで一度、言葉を切る。
「生き返る……?」
ジョーカーは、わざとらしく楽しそうに言った。
「生き返ってガルガンの兵器として、君を売ったヤマトを潰しても良いし」
「なんなら、ヤマトだけじゃない。ガルガンすらブッ壊すことも……♪」
その言葉だけが、やけに軽かった。




