第五十話 二人の溝は予想以上?
「それにしても久しぶりに会えましたね。今度、どっかデートに行きましょうよ」
「クソムシと出歩くの超うざいし、恥ずかしいんだけど」
「そ、そんな~~……」
デートに誘っても麦茶を飲みながら、そっぽを向いて断れてしまった。
くそ、これも俺を試しているって事なのか?
だけど、夏休みは葉月さんと思いっきり楽しみたいので、絶対にデートには行くぞ。
「てか、クソムシがいきなり来たせいで、ネイルもロクに塗れなかったじゃない。マジ、クソウゼー男よね、あんた」
「す、すみません。では、肩でもお詫びに肩でもお揉みしましょうか」
「クソムシが勝手に私の肌に触れるんじゃねえっての」
とにかくご機嫌を取ろうと葉月さんの肩を揉むが、それも拒否されてしまったので、
「俺達、付き合っているんですから、葉月さんの肌にも触れまくりたいんですよ。もう、肩でもおっぱいでも揉んであげますから」
「きゃあっ! もう、このエロムシ! 止めろって言っているでしょう」
彼女の胸を後ろから思いっきり揉んでやるが、葉月さんはちょっと悲鳴を上げて嫌がるものの、本気で抵抗している様子はなかったので、構わず続ける。
へへ……やっぱり、葉月さんも物好きよのう。
てか、エロムシって事は、クソムシからはかなりランクアップしたって事じゃないのか?
「いやあ、エロムシ結構じゃないですか。そんなムシと付き合っている葉月さんもどうなんですかね」
「本当、あんたって口を開けば屁理屈ばかりよね。マジでキモイし、うざいし、トイレにたかるハエ以下よね、あんた」
「う、うーん……じゃあ、どうすればクソムシから、ランクアップできますか?」
「そんなのてめえで、考えろよ。私がウザイ、キモイって思っているから、そう言っているだけなんだしさ。何で私がクソムシがマシになる方法まで考えないといけない訳?」
実に手厳しいが、どうしたら葉月さんのご機嫌を取ることが出来るのだろう。
流石にクソムシのままってのは、嫌なので、どうにかしてほしいなって思うんだけどさ。
「んぐ……ほら、さっさと麦茶、片付けて来な」
「は、はい。コップは流しで良いですね」
「さっさと持って行けっての。召使いくらいの役目は果たしなさい。あんたなんて、召使いとしても論外レベルだけどさ」
葉月さんが麦茶を飲み終わったので、麦茶とコップを片付けに行く。
何故、俺がこんな事をしなければいかんのだと思ってはいけない。
葉月さんが少しでも機嫌が良くなるように、何でもしないといけない立場だからな。
「片付けて来ました。って、あれ? 葉月さん?」
下に降りて、コップと麦茶のポットを片付けた後、部屋に戻ると、葉月さんの姿がなかった。
「葉月さーん。何処に行ったんだ?」
トイレにでも行ったのか?
だったら、少し待てば来るだろうが、まさか俺から逃げるためにどっかに逃げたりしてないだろうな?
「はは、そこまで意地悪な事を……しないだろう」
と、思いながらも下にまた降りて行って、葉月さんがいないか探す。
「あらー、英樹。お出かけ?」
「何だよ? どうでも良いだろ」
「どうでも良くねえよ。一応、姉としてあんたのお守りしなきゃいけねえ立場なの、わかっているの?」
「うるせえっ! 誰が姉貴にお守りなんかされてるんだよ! いいから、あっちに行け」
玄関先で英樹と葉月さんが何やら言い合いをしているが、英樹が出かけようとしているのか。
腕組みをしながら、葉月さんが何処に行くのか聞いているけど、何かこういう所は普通にお姉ちゃんっぽいなと思ってしまった。
「あのー、葉月さん」
「クソムシかよ。うざいわねー、あっちに行きなさい」
「は、はい……取り敢えず、俺、部屋に居れば良いですか?」
「ふん。鬱陶しいから帰りなさい」
「そ、そんな~~……」
まだ来たばかりなのに、帰れと言われたが、英樹が出かけるって言うなら、別に引き留める必要もなくね?
俺と二人きりになれて、ラッキーとか思ってくれないのかなあ。
「お前、まだ居たのかよ。ったく、こんな家にいつまでも居られるかっての」
「そうね。クソムシみたいな男が目の前に二人も居るってだけで、私も息が詰まりそうだわ」
「あ? 誰がクソムシだって?」
クソムシみたいなのが二人も居るって、俺だけじゃなくて、英樹もクソムシ扱いな訳。
「そうよ。クソみてーにキモイ彼氏に、クソみてーにクズな弟。私みたいな五つ星のキラキラした女が、こんなに苦労しているのはあんたらのせいだわ。二人ともクソオブザクソよ! てめーらのせいで、肌も荒れるし、世間体も悪いしで、毎日、最悪よ、全く」
「は、はは……それはすみません……」
と、俺達を睨みつけながら、そう吐き捨てるが、ちょっと辛辣過ぎて、苦笑いが出てしまった。
これも愛情の裏返し……英樹と同じ扱いって事は、それなりに大事にされているんだよ、きっと。
「全く、どうしてこうなったのかしら。あの事故だって、あんたらのせいじゃない。それなのに百%私が悪い事にされてさ。本当にムシャクシャしてきたわ……」
「おい」
「あん?」
「いい加減にしろよ、このアマっ! 黙って聞いていれば、調子に乗りやがってっ!」
「きゃあっ!」
「お、おいっ!」
玄関から上がった英樹が怒号を上げて、葉月さんの胸倉を思いっきり掴み、
「ふん、そういう所がクソだって言っているのよ! 気に入らない事があったら、すぐに手を上げやがって!」
「すぐだとっ!? ふざけんじゃねえっ! これでも相当我慢してやってるんだぞ、わかっているのかっ!?」
「よ、止せって!」
英樹がマジでキレているみたいなので、慌てて二人の間に割って入るが、葉月さんもちょっとビビった顔をしたけど、相変わらず強気の目で英樹を逆に睨み返す。
マジで一触即発の空気になってしまい、どうにか止めたいが、何でここまで仲悪いんだよ、この姉弟は?
「と、とにかく落ち着けっ!」
「うるせえ! 何が苦労が絶えないだよ! それはこっちのセリフだっての、何度言えばわかるんだ!?」
「冗談じゃないわよ! あんたが色々な女に手を出すせいで、私までとばっちり受けてるんだからね!」
「何言ってやがるんだよ!? いつも俺に嫌がらせしやがってっ! もう我慢出来ねえぞ!」
「止めろって言ってるだろ! 葉月さんもちょっと言い過ぎですよ!」
マジで殴り掛かりそうな勢いだったので、英樹を後ろから体を張って止めようとする。
ちょっ、この状況、マジで勘弁して……。
「ふん」
ようやく英樹が葉月さんから手を離し、玄関でもう一度靴を履いて出かける。
「おい」
「な、何だよ?」
「お前が姉貴とどうなろうが知った事じゃねえけどさ。こんなクソ女に言いたい放題されて、ヘラヘラしているのを見ると、お前もぶん殴りたくなってくるんだよな」
「…………」
と、俺にそう吐き捨てながら、英樹はバッグを持って、玄関のドアを思いっきりい閉めて出てしまった。
葉月さんに言いたい放題されて、ヘラヘラって……別にそういう訳じゃ……。
「あーあ、全く、いつもこんなよね、あのクソ弟も。ちょっと行き先聞いただけで、逆ギレしやがって。クソムシもあんな粗暴な男にならないようにすることね」
「は、はあ……でも、葉月さんもあんまり言い過ぎない方が……」
「ああ? 誰が何を言い過ぎたって?」
「い、いえ」
流石にあんな罵声を日常的に浴びせられたら、誰でもキレるんじゃないかと釘を刺そうとしたが、葉月さんは全く悪く思っている様子はないので、どうしたものか悩んでしまう。
あの二人の溝は思っていた以上に深刻なのかもしれない……




