第四十九話 ようやく彼女に会えたと思ったら
期末試験が近くなり、そろそろバイトも休んで試験勉強に勤しむ。
終わったら、とにかく葉月さんと会ってデートだ。
最近、彼女に避けられているような気がするが、葉月さんだって忙しいんだよな、うん。
それに俺に気を遣っているのかもしれないし、彼女なりに檄を飛ばしているんだろう。
「良い大学に行って、良い企業に就職したら認めると言っているんだからな」
葉月さんの言っていることも尤もだし、俺も頑張らないと。
流石に年収一億円以上とか無理ゲー過ぎるけど、俺の限界をちゃんとわかっているんだからな。
「では、回収してください」
テストが終わり、答案用紙を後ろから回収していく。
まあまあの出来かもしれない。とは言え、葉月さんのお気に召すようになるには、まあまあでは困るんだがな。
「何、ニヤニヤしているの?」
「お、里美じゃん。どうした?」
「別に。何か気持ち悪いと思って」
「気持ち悪いって……お前もかよ」
「は?」
葉月さんにしゅっちゅうキモイとか言われていたが、元カノにまで同じことを言われるとは。
付き合っている時はそんな事を言われた事はないんだがな……。
「とにかく、何か変わっているし、凄く嫌な感じがするよ、進一郎」
「嫌な感じって……具体的に何だよ?」
「私を見下している所とか」
「…………」
もはや、里美の事なんぞ眼中にもなかったんだが、仮にそういう態度を知らずにとっていたのなら、それは全てお前の責任だっての。
はあ……俺はこんなのと付き合っていたのか?
遠い昔の出来事に思えるが、あれから人生そのものが変わった気がするな。
とはいえ、葉月さんとの交際も前途多難な雰囲気が漂ってきたが、この浮気女よりはまだマシだろう。
今日は久しぶりに葉月さんに会いたいので、学校終わったらメールしてみるか。
「もしもし。葉月さん?」
『クソムシかよ。何よ、忙しいのよこっちは』
「す、すみません。いやー、試験終わったので、葉月さんと会いたいなって思ったんですが……」
早速、電話すると、何に用だと言わんばかりの不機嫌そうな声で応対してきたが、こういう態度ももはや俺に対する愛情への裏返しなのか。
『くそうざい男ね。クソムシなんかに構うの、こっちはダルイのよ』
「いいじゃないですか。付き合っているんですよね? 取り敢えず、会いたいんですけど、今日、予定あります?」
『じゃあ、家に来い』
「はい?」
『私に会いたきゃ、家に来ることね。私、とーっても忙しくて、出る暇ないから』
「は、はあ……」
葉月さんの家にね……まだ、お昼過ぎくらいなのに家に居るって、それは本当に忙しいのか?
「わかりました。葉月さんの家に行けば良いんですね」
『そうよ。じゃね』
と、面倒くさそうな口調でそう告げて電話を切ってしまったが、葉月さんの家に御呼ばれしてしまった。
いやー、緊張するな。初めてではないが、葉月さんと二人きりなら、色々とドキドキな展開になりそうだぞ。
「ここか。いるかなー」
玄関の前まで行き、インターホンを鳴らす。
葉月さんは出てくるだろうか……。
「はい……って、お前は!」
「え?」
しばらくして、玄関のドアが開かれると、英樹が出てきたのでビックリした。
いや、こいつの家でもあるんだよな……何だよ、葉月さんと二人きりじゃないのか。
「あー、あのさ。葉月さんいる?」
「…………いるけど」
露骨に嫌そうな顔をして、そう呟くが、英樹がいるなら、最初に言ってくれよ……てか、同じ学校だからこいつも試験が終わった所なんだよな。
「おじゃましまーす。葉月さん、二階かな?」
取り敢えず上げてくれたので、葉月さんが居るであろう二階の彼女の部屋に向かう。
最近、彼女の顔を拝んでいないから、どんな形でも会うのは楽しみだ。
「葉月さん、いますか?」
ノックをした後、葉月さんの部屋のドアを開けて、彼女の部屋に入ると、クーラーを効かせた部屋の中で葉月さんは居間に座って、ネイル?をだるそうな顔をして塗っていた。
「本当に来たんだ、クソムシ」
「そうですよ。もう、葉月さん、相変わらずお美しいじゃないですか」
俺に視線すら合わせそうともせず、葉月さんはだるそうな口調でそう言ってきたが、こういうお姿も実際、色っぽく感じてしまうな。
(葉月さん、自然体の姿を俺に見せてくれているんだなきっと)
本当に嫌っていたら、こんなネイルをしているところなんか見せる訳はない。
つまり、俺はやっぱり葉月さんに愛されているのだ。
「何しに来たのよ」
「葉月さんに会いに来たんですって。悪いですか?」
「ふん、悪いわよ。こんなクソ暑い日に」
「クーラーが効いているじゃないですか。へへ、肩でもお揉みしましょうか」
「きゃっ! ああ、もう邪魔するんじゃないわよ」
「す、すみません。でも、葉月さんのお肌に触れたくてですね」
「ったく、余計な事をするんじゃないわよ」
葉月さんを怒らせてしまった様だが、とにかく今は葉月さんに会えただけでも嬉しいのだ。
「勝手に私の肩に触れるんじゃないわよ
「いやー、葉月さんのお体ならもう肩でもおっぱいでも揉みまくりたいんですって」
「ひゃあ! あ、もう! とんだエロガキね、あんた!」
そう言いながら、葉月さんのおっぱいを揉んでやるが、意外にもあんまり嫌がっている様子はなかったので、こういうスキンシップは嬉しいのか?
うむ、やっぱり俺は葉月さんに愛されているのだ。
でなきゃ、あんな反応をする訳ないからな。
「このクソムシが。喉が渇いたわ。麦茶持ってきて」
「……俺がですか?」
「そうよ。下の台所の冷蔵庫にあるから。ちゃんと氷を入れてきて」
葉月さんが俺に麦茶を持ってくるように命じてきたが、俺が淹れてくるの?
「えっと、いいんですか?」
「あんた、私にお茶くみをさせろっての? さっさと持ってきな。最愛の彼女が麦茶が欲しいって言っているのよ」
「わ、わかりました!」
とにかく麦茶をご所望のようなので、言われた通り、持っていく。
何ていうか俺の事を召使みたいに扱っているみたいだが……。
「えーっと……麦茶はこれか。あ、コップは……どれ使えば良いんだ?」
下のキッチンに行き、冷蔵庫を開けると麦茶が入っているポットがすぐ見つかったが、問題はコップであった。
棚にいっぱいあるけど、どれが葉月さんのコップなんだ?
「どうしよう……ん? おお、ちょうどよかった」
「あ? な、何だよ!?」
悩んでいるところで、英樹がキッチンの前を通りかかったので、こいつを引っ張っていく。
「おい、何だよいきなり!?」
「あー、そのさ。葉月さんのコップどれ?」
「ああ?」
「麦茶を入れてくるようお願いされたんだよ。だけど、葉月さんのコップどれかわからなくてさ。どれか、教えて」
「…………自分で入れて来いよ、ったく……」
事情を話すと、英樹は心底呆れた顔をしながら、食器棚の戸を開けて、
「ほら」
「おお、サンキュ」
ガラスのコップを一個、俺の前にドンっと置き、すぐに氷を入れて、麦茶を入れる。
やっぱりこういう時は肉親が頼りになるんだな……。
「もういいか? もう、馬鹿姉貴もいい加減にしろよな……」
とブツブツ言いながら、英樹はリビングの方に行ってしまう。
今日は家に居る気か? ま、良いや。邪魔しなければな。
「どうぞ、お待たせしました」
葉月さんの前に冷えたお盆の上に乗せた冷えた麦茶を差し出す。
「ふーん。私のコップどうしてわかった?」
「え? ああ、それは……弟さんに聞きまして……ぐえっ!」
と素直に答えると、葉月さんは俺の顔に思いっきりクッションを投げつける。
「誰があいつに聞けって言ったのよ! 彼氏なら、私のコップくらいすぐにわかれよ」
「え、ええ? でも、弟さんに聞くなとも言わなかったじゃ……ぐあっ!」
と言うと、葉月さんは更に俺の頭をクッションで執拗に殴る。
「そういう屁理屈を言う所がクソムシなんだよ。いえ、便所にたかっているハエもそんな減らず口叩かないから、それ以下ね。あんたはクソムシ以下のゴミ男よ」
「そ、そんな~~……」
せっかく、持ってきたのにまた葉月さんを怒らせてしまった。
トホホ……何か何をやっても気に入らない感じだな。




