悲鳴、笑い、灯
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
不意の悲鳴。
ジャック・オ・ランタンは振り向いた。叫び声はそう遠くない場所から聞こえた。街角から中年くらいの女が出てきた。やたら息を切らして何かから逃げまどっているようだ。するとその背後から悪霊が現れ、あっという間に女を呑み込んでしまった。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
今度は別の通りからだ。初老くらいの男の姿が現れたと思ったら、続けざまに現れたお菓子の悪霊に呑み込まれていった。
ジャック・オ・ランタンはホワイトアイスを見る。ホワイトアイスは半分焦げた顔でにやりと笑みを浮かべる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「だれかあああああああああああああああああ!!」
「たすけてえええええ!だれかたすけてよおお!」
次第に至る所で聞こえ始める悲鳴。悲鳴。悲鳴。
街が静かなせいか少し遠い場所の声も残響のように響く。
「おい、これはなんだ?」
「ふ、ふははははははははははははは!」
ホワイトアイスは高らかに笑う。
「この街の終わりだ!街中の至る所に『キャンディ』を撒いた!この意味が解るか!?街の周辺でくすぶっていた悪霊が『キャンディ』を求めてこの街に出現する。地下深くで眠っていた魂も、『キャンディ』の匂いに誘われて現れる!」
「大量の悪霊が、街の人間を食う・・・。ハッそれがこの街の終わりか?」
「すべての人間はこの街で完結する!スノードーム・シティは消滅する!この街で生きた人間が、全ていなくなればこの街は記憶に残らず、やがて世界から完全に消滅する!それがこの街の滅びだ!今、それが叶う!笑わずにいられるものか!ふはははははははははははははッッ!」
ユウはシャオの体を抱く。
「・・・やだよ・・・やだよ・・・シャオ、助けて・・・」
「だれかッ・・・たすけッ・・・・・・ああああああああああああああああああああ!!」
「ひいいいい!こっちは駄目だあ!」「何だよこいつ!どこから出てきたんだ!」
「むこうに行くんだ!あっちに行けば、う、うわあああああああああああああああああああああ!」
「あががが・・・死・・・死、死、死、死・・・っ!」
「ぎィああああああああああああああ!!誰かあこっちたすけ・・・あ・・・・・・・」「あっちにもいる!こっちもだめよ!」「いやああああああ!人が死んでるわ!」
悪霊は群れとなって街中をはい回る。人を見つけると、直ぐにその体に取り込んで呪い殺す。
『キャンディ』を食べ、人を食い、不気味な黒い顔に、笑みのような模様を浮かべながらはい回る。
「やだあ!おかあさああん!!おかあさああああん!やだあ、が、ごぼぼぼぼ!」「まだ中に子供がいるの!まって!」「何するんだてめえ!離れろオおお!」「おい!変な黒い奴がいるぞ!なんだよあれは!」
「きゃあああああああああああ!早く逃げて!変なのがすぐそこまで来てる!」
「お婆ちゃんは!?どこに行ったの!?」「いぎゃああああ!!誰か助けて!助けてええ、おああ、が、あああ、ああああ!」
男が、女が、老人が、子供が、悲鳴を上げながら逃げまどう。だが、悪霊に見つかれば最後。飲み込まれ、干からびて死んでいく。
「あはは!おとうさん!干からびちゃった!あはあは!」
「・・・・・・なんだこれ、悪夢じゃないか」「助・・・けて!もう無理!うあ、あああ、あああ!!」
「おが、かッ・・・かは・・・」「あがあああああああああ!なんだこいつは!くっついてき」「死んじゃった!死んじゃった!なにこれ!ねえ、なにこれえええええええ!」「いやあああ!」
至る所で轟く悲鳴。
「・・・もう、いやよ・・・」
ユウはシャオをひしと抱える。
「助けてよおお!シャオオ!!」
「ふふふふふははははははははははははははははははははははははははは!!これでようやく終わる!やっと終わるぞ!」
ホワイトアイスは狂ったように雄たけびを上げる。
「どうだジャック・オ・ランタン!!面白いだろう!最高だとは思わんか!街が終わっていく!そのレクイエムだ!ふははははははははははははは!!」
「・・・・・・・・・」
ジャック・オ・ランタンの顔から少しだけ笑みが引いていった。ホワイトアイスにはそれが堪らなく快感だった。
「その顔だ!その顔こそ、ふさわしい!お前の馬鹿笑いなど終幕には不必要だ!」
「・・・・・・」
ジャック・オ・ランタンは不機嫌そうに眉を顰める。
「・・・面白くないなァ」
「チッ・・・まだそんなことを言うか・・・だが、いい気味だ。この街の最後は静寂だ!お前などが介在する隙は無い!」
「・・・・・・」
ジャック・オ・ランタンは俯く。
「気に食わないか!ものの数分で悪霊はこの街の人間を全て呑み込みつくす!お前が悪霊を一匹一匹潰していっても無駄なことだ!この街の終わりは必定だ!」
「・・・・・・」
ジャック・オ・ランタンは俯いたまま、膝をつく。
そしてわなわなと震える手で顔を覆う。
「・・・・・・・・・アァ」
「・・・ッ・・・?」
ホワイトアイスはわずかにたじろぐ。
一瞬、ジャック・オ・ランタンは絶望したかのように見えた。だが、その姿にも違和感があった。
「・・・・・・くくく」
静かな笑い声が洩れる。
「・・・くくくくく・・・ふふふふはははは」
ジャック・オ・ランタンは笑う。
「・・・何が可笑しい?」
「はははははは・・・アァ・・・駄目だ。想像しただけでおかしくなってしまう・・・」
「貴様、気でも狂ったか・・・・!」
「・・・この状況を覆したら、お前は一体どんな顔をするんだ・・・?」
ジャック・オ・ランタンの顔には、ニタニタと不吉な笑顔が張り付いていた。
「この状況を覆すだと・・・!そんなことできるものか!この悲鳴が聞こえないか!この悲鳴は街中で響き渡っている!貴様に覆せるものではない!」
しかしジャック・オ・ランタンはそんな言葉は関係ないと言わんばかりに笑っている。
「俺様は言ったな。この街に必要なのは、悲鳴と騒乱と俺様の笑い声・・・そして・・・灯りだ。暗いままでは面白くない。この街を照らそう!滑稽な夜だ!騒ごう!笑おう!そんな夜が好みだ!」
そう言うジャック・オ・ランタンは立ち上がり強く発光する。
「ハハハ、この街の終わりは必定か!だがそれは今ではない!俺様はジャック・オ・ランタンだ!この炎は街中を灯す!」
そして拳を掲げ、体中の光がやがてその手の一点に集中する。まるで満月のように明るく、どこか魔的な妖しい光が、カボチャの手に灯る。
そしてジャック・オ・ランタンは笑いながら告げる。
「・・・・・・悪夢の騒乱はこれから始める!悲鳴、笑い声!すべてが混じり合ったハロウィンの『ナイトメア・ライトアップ』だ!」
ジャック・オ・ランタンは振り上げた黄金の拳を一気に振り下ろし、地面に叩きつけた。
ドォン!!という爆発のような衝撃音とともに目に見えない波動が街全体に広がっていった。
重い残響を残しながら、やがて街は一瞬静けさを取り戻す。
「・・・・・・ッ!」
ホワイトアイスは街を見回す。
「・・・なんだ・・・何をした・・・」
ジャック・オ・ランタンはただ笑うだけ。
「幕開けだ」




