第六話 泣く下僕と笑う従者
~貿易都市セーテン~
イタイテからこのセーテンまではかなり距離はあった。
「やっぱりこの本分厚いな・・・」
出発した所から結構読んでいたが、まだ半分程度しか読めていない。
ページ数も然ることながら、文字数も相当なものだった。
「それにしても、『悪魔』だとか『儀式』だとか書かれてたのはなんだったんだろう」
この世界にも悪魔はやっぱり居るんだな・・・
そういえばこの世界に連れてこられるときは天使に連れてこられてたし、悪魔も居て当然か。
「ご主人様!人が人がいっぱいですよ!」
サラのはしゃぐ声のする方へ顔を向けると、人が賑やかに商いをしているのが目に入ってくる。
流石は貿易都市と行ったところか、商人が行き交っている。
昔ゲームで見たことのある大きなリュックに商品を詰め込んだ大柄な男性が歩いていたり、貧相でボロボロの布で身を包んだ人が地べたに布を広げ幾つかの商品を並べていた。
「ご主人様!来てください!こんな物イタイテでは見たことありませんよ!」
露店に並べられている大きな赤い宝石の付いたブレスレットに目を輝かせている。
「サラ・・・あんまり先に行かないでくれ。あとそんな物見ても買ってやれないぞー」
「あっ・・・ごめんなさい・・・で、でも見るだけなら・・・」
こういう所で物を見るっていうのは買う意志の表示とみられることが多い。
あんまり見続けてると結局買わないといけなくなる。
「ほら、冷やかしするのは嫌われるからさっさと今日の場所探すぞ~」
俺はサラの首根っこ掴んでズルズルと引っ張っていく。
「ああっ!ご主人様!見るだけならタダですよ~!」
活気のある広場、人の行き交いが激しい。
「今日はここでやってみるかぁ」
背負っていたリュックを地面に置き、ナイフを一本作り口で咥え、両手を合わして開始の合図をしようとする。
そこでサラに手を抑えられて止められる。
「あっあの!ご主人様!突然始められてはその・・・私も心の準備が・・・!」
そういえば、サラには助手を任せてるんだっけ。
何も言わずに始めてしまってはサラも可哀想だ。
少し話し合いをしておこう。
「うーん・・・俺も実際助手ありの芸って言うのをやったこともないし、見たことも無くてね・・・そうだな・・・」
助手っていうんだから、普通にジャグリング中にナイフを横から投げてくるとか物を準備してくれるとか色々出来そうだけど。
横から投げてもらいながら、更に増やしながらってのはなかなかすごいんじゃないか?
「その・・・ご主人様!始めてみた時から思ってたことがあって・・・ご主人様には足りないものがあるんじゃないかなって・・・・」
足りないもの?上げればキリがないと思うけど。
しいて言うなら、技術とかか?
「あの・・・お金を入れるための・・・その・・・受け皿というか・・・」
ああ!なるほどね、そう言われてみれば作ってなかったな。
そのせいでイタイテではお金を恵んで貰えなかったのか?
路上パフォーマンスで見たことがある、頭が平べったく、つばが平坦なシルクハットを作った。これを軽く頭に被る。
(あとは、ピエロっぽい化粧も欲しいな・・・絵の具みたいなの作れるかな・・・白なら出せそうだけど)
絵の具の色を思いながら、手の平に出してみる。
白、黒、赤、青と四色の絵の具が出てきた。
ちゃんと絵の具っぽい粘り気がある。
「サラ、悪いけどこの絵具を使って俺の顔に落書きしてみてくれないか?」
「えぇ?!ご、ご主人様・・・お言葉ですがご主人様の綺麗なお顔に落書きするだなんて・・・そんなこと出来ませんよ!」
綺麗?ああ、この世界の俺はイケメンなんだったな。
前世ではイケメン撲滅運動にも参加したことがあるくらいイケメンには殺意を覚えていたので、むしろガンガンやっちゃってくれとも思うが・・・
まあ、人の顔を汚すなんて普通気が引けるわな。だったら。
指に白色の絵の具を付けてペタペタと塗っていった。はじめにある程度塗っていたら塗りやすいだろう。
「ほら、これなら塗りやすいでしょ?あとは整えてくれないか?」
「あっ・・・はい!」
今回の路上パフォーマンスは大盛況。
サラの言うとおり、受け皿を用意していたおかげで幾らかお金を貰えた。
「これで今日は宿を取れるな。サラ、今日はご飯ちゃんと食べれるぞー」
「本当ですか!その・・・嬉しいです!」
笑顔でぴょんぴょん跳ねている。
喜んでいる様で何より。
「ねえ、そこの貴方」
そんなサラを眺めていると、凛とした女性の声で声をかけられる。
振り返ると三人の冒険者らしき人がいる。
声をかけたであろう女性は、金色の髪に高潔な顔立ち、そこに高そうな鎧を付けてるのを見るとどうやら貴族の出なのだろうというのが伺える。
その右隣りに立っている男性は、腰に二本の刀を携えている。日本人のような厳かで黒い髪も短く切られていてとても動きやすそうになっている。
怒らせれば怖いというのが分かる。
最後の一人は、黒いぶかっとしたローブを着ているせいで性別がまるでわからない。顔もフードを深々と被っており見えない。
「貴方、イタイテで大道芸してた人よね。どうしてここに居るの?」
「えっ、どうしてって・・・それはイタイテを出ればこの街があるって聞いたもので・・・」
「ああ、聞き方が悪かったわね。なぜ貴方は生きてるのかしら?」
は?生きてるのかしら?
(なんでこいつ俺が死んでるはずだと・・・まさか!)
「あんた、イタイテの貴族か?!この子を殺した!」
俺は即座にサラを後ろに隠し両手に小振りのナイフを作り、戦闘態勢に入る。
もっとも、戦闘なんて前世でも転生しても一度もないので構えは素人そのものだ。
「ちょっと待って。貴方勘違いしてるわ。私が言いたいのは昨日滅んだはずのイタイテから生存者がなぜ居るのかって事よ」
「は?イタイテが滅んだ?」
「立ち話もなんだ」ということで、近くにあった酒場にて話を聞いた。
昨晩、丁度俺とサラがイタイテを出た頃に襲撃があったそうだ。
イタイテに住んでいたほぼ全員が死亡または、恐怖による戦意喪失。どちらにしよ皆『魂が抜かれた』様になっているそうだ。
あとこの貴族の方、アラウ・セーテンはイタイテの貴族ではなく、この街の昔からの第一貴族と言うものらしくこの街のほとんどを牛耳っているそうだ。
その為、名前に街の名前が入っているらしい。
仕事の一環で一日だけイタイテに来ていたらしく、その時に俺を見かけたそうだ。
「運が良かったわね」
「ええ・・・本当に運が良かった・・・」
「それでなんだけど、なにか思い当たることはあるかしら」
思い当たること・・・イタイテの貴族の家から出てきたサラの亡骸とかか?
「思い当たることと言えば、このサラは一回殺されてて、それも死体が貴族の家から出てきたんですよ。自警隊としては夜間の貴族邸への襲撃ということにしているらしく・・・それにしてもおかしな点が幾つもあって・・・」
「ちょっと待って、その子・・・一回殺されてるですって・・・?」
アラウは冷や汗を垂らしながら俺を睨みつける。
「蘇生・・・つまり死霊術は禁忌の術よ。中でも人間への使用は最もタブーとされてるのよ。それを平気で・・・いや覚悟してのものかしら?どちらにせよ行ったのは重罪よ」
「ええ!?お、俺はそんな事知らなくて・・・というより死霊術を使ったことなんて知らなくて・・・」
「何を言ってるの貴方・・・」
アラウの言葉が終わる瞬間に突然の爆発音がした。
外の人の阿鼻叫喚が店内にも響き渡る。
機械で加工されたような笑い声が響き渡る。
広場に居た人々は皆魂が抜かれたように横たわり、中には既に息をしていない者も居た。
酒場から出て来た、俺とサラとアラウ率いる三人組は周りの悲惨な現状を目にし、悲嘆した。
しかし、敵は目下に転がる人々ではない、上空に居るコウモリの様な羽根を生やした人型・・・いや正しく童話や神話に登場した悪魔そのものだ。
「フハハハハハ、民衆よ!私は彼の魔将様より賜りし叡智にて昇華せし人類!ガロココ・イタイテなるぞ!」
「あ・・・あ・・・・」
サラが怯えている。
暗い闇夜にすら怯えないこの子がここまで取り乱し、声も出せない状態に陥るとは・・・。
「こんな所に悪魔が出てくるだなんて!しかもイタイテ!?この悪魔まさか・・・」
ガロココ・イタイテなる悪魔がアラウに機械じみた声で笑う
「フッフッフ、そこに居るのはアラウ・セーテンか?左様、私こそイタイテの第一貴族ガロココ・イタイテその人だ!」
サラが絶望の表情で泣き崩れる。
この街は絶望に包まれた。




